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3章【外交編・カジェ国】
7 ようこそ、カジェ国へ
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「(歓迎致します、ステラ様)」
「(歓迎、どうもありがとうございます)」
恭しく服の裾を摘みながら、頭を下げる。
久々の陸地に喜んだのも束の間。ジリジリと焼けるような暑さに、思わず顔を顰めたくなるが、さすがにそこは堪える。
だが、外交目的ということで事前に薄手のチュニックからドレスに着替えたはいいが、さすがに礼服替わりの厚手のドレスだと些か暑くて、頭が沸騰して蒸気が出そうなくらいだった。
今回の訪問では歓迎はそこそこに、下手に大々的にして何かしら勘付かれても困るということで、少人数でのお出迎えだ。
今、目の前の美しい女性は、恐らく侍女頭だろう。他にもう1人執事らしき人と護衛が何人か来ているだけのシンプルな歓迎だ。
停泊も、メイン漁港ではなく、あえて王族用のプライベートビーチにある船着場に船を停泊させてもらっている。
「(では、ステラ様はこちらに。まずは陛下にお会いになってください。他のお見合いの皆様は別でお宿をご用意しておりますので、そちらにご案内致します)」
「(ありがとうございます。よろしくお願いします)」
ということで、私とクエリーシェル、他の婚活メンバーと別動することになった。婚活メンバーには、以前コルジールでカジェ国語に最も精通していると言われていたベルンが同行する。
ベルンは一応基礎はあるというものの、私の講義に参加してもらっていた。元々素養はあったからか、今ではそれなりに喋れるようにはなっているので、恐らく彼だけでもサポートは大丈夫であろう。
ちなみに、船員は船から降りずにこのまま船内に常駐するそうだ。船の整備と見張りのためとのことだ。プライベートビーチなため、警備は徹底しているはずだが、それでも念のためということらしい。
一応カジェ国には半月くらいの滞在予定なので、程々に国内散策をするようには伝えてあるものの、その辺りは船員の何かしら取り決めがあるらしいので、あまり言及はしないことにした。
「(では、ステラ様)」
促されて、馬車に乗る。私が先に乗り込んだあと、クエリーシェルが乗り込むとさすがにちょっと狭く感じる。彼も窮屈そうに縮こまっていて、なんだかそれが面白くて口元が緩む。
「どうした?」
「いえ、何でも」
「?」
こういうときに不遜な態度を取ることもなければ、文句を言うこともなく、ぎゅうぎゅうになりながらも席に納まっている姿が可愛らしい。
「え、と……これからリーシェのことをステラ様と呼べばいいのか?」
「そうですね、そうしていただければと。王妃であるアーシャはコルジールの言葉もペラペラですし、そういうのには目敏いので」
一応、外交では偽名であるリーシェではなく、立場上、対外的にステラとして過ごすことになっている。
コルジールの人々がいる前ではリーシェとして過ごすが、それ以外は本来の姿であるステラ・ルーナ・ペンテレアとして扱われる。
なので、普段のようなメイドとしてではなく、本来の姫としての立場で振舞わなければならない。つまりは、クエリーシェルとは主従逆転するということになる。
実際に私がペンテレアの皇女であることが外交面では重要なので、当然のこととはわかっているものの、いざ今から姫として振る舞えと言われても、戸惑うことが多い。
思いのほか染み付いてしまったメイドらしい振る舞いを正すのは難しいが、今更そこで弱音を吐いたところでどうすることもできない。
元々飾るようなことをするような性格でもなければ、振る舞いをするタイプでもなかったため、できるだけ自然に振る舞うように心掛けた。
「クエリーシェル様のことは、クエリーシェルと呼ぶので、そのつもりで」
「あぁ、なんか、それはそれでいいな」
敬語なしで呼び捨てされただけなのに、嬉しそうに微笑むクエリーシェル。なんか、最近ちょっと色々緩い気がする。
「ちょっと、変な妄想しないでくださいよ」
「ステラ様、敬語になってますよ」
「なんか、楽しんでない?」
そうこうしているうちに、あっという間に王城に着く。アーシャの国に来たことはあるが、幼少期なためあまり覚えていない。そのため、久々に見た王城に思わず感嘆の声を上げた。
「白亜宮!いつ見ても美しい……」
「白亜宮というのか……」
「えぇ、元々は霊廟として建てられたものらしいのですがね。現在は住居兼催事場所として使用されてます」
「ステラ様、敬語」
「……気をつけるわ」
いつにも増してクエリーシェルからの指摘がズバズバ入る。いや、私もクエリーシェルによく言ってたから人のことは言えないけども。
(指摘されるってこんな感じなのね)
立場逆転でちょっと今までを省みるというのはなんだか新鮮である。
ふぅ、と息を吐き、気が弛んでる、と頬を叩いて気合いを入れる。
これから相手にするのはアーシャだ。何となく苦手意識というか、気の置けない仲だけど、大して仲がよくないというよくわからない関係だ。
味方ではあるものの、正直億劫ではある。
(どうせまた、からかわれるのだろうし)
あの余裕たっぷりの笑みで嘲笑されると思うと、ムカつく。だが、政治のため、今後の外交のためには仕方がないことだ。
「(遠路はるばる、ようこそお待ちしておりました、ステラ姫。両陛下がお待ちです)」
「(本日はお招きいただき、どうもありがとうございます)」
執事長だろうか、身なりの美しいすらっとした男性が丁寧に挨拶をしてくる。それに丁寧に返すと、ちらっと私の背後にいるクエリーシェルを見たあと、恭しく頭を下げた。
「(では、ステラ様こちらへ。ご案内致します)」
「(はい)」
いよいよアーシャとの対面だ。背後にいるクエリーシェルと目を合わせ、さぁ!と意気込み、厳かに開かれる扉の中へと足を踏み出すのだった。
「(歓迎、どうもありがとうございます)」
恭しく服の裾を摘みながら、頭を下げる。
久々の陸地に喜んだのも束の間。ジリジリと焼けるような暑さに、思わず顔を顰めたくなるが、さすがにそこは堪える。
だが、外交目的ということで事前に薄手のチュニックからドレスに着替えたはいいが、さすがに礼服替わりの厚手のドレスだと些か暑くて、頭が沸騰して蒸気が出そうなくらいだった。
今回の訪問では歓迎はそこそこに、下手に大々的にして何かしら勘付かれても困るということで、少人数でのお出迎えだ。
今、目の前の美しい女性は、恐らく侍女頭だろう。他にもう1人執事らしき人と護衛が何人か来ているだけのシンプルな歓迎だ。
停泊も、メイン漁港ではなく、あえて王族用のプライベートビーチにある船着場に船を停泊させてもらっている。
「(では、ステラ様はこちらに。まずは陛下にお会いになってください。他のお見合いの皆様は別でお宿をご用意しておりますので、そちらにご案内致します)」
「(ありがとうございます。よろしくお願いします)」
ということで、私とクエリーシェル、他の婚活メンバーと別動することになった。婚活メンバーには、以前コルジールでカジェ国語に最も精通していると言われていたベルンが同行する。
ベルンは一応基礎はあるというものの、私の講義に参加してもらっていた。元々素養はあったからか、今ではそれなりに喋れるようにはなっているので、恐らく彼だけでもサポートは大丈夫であろう。
ちなみに、船員は船から降りずにこのまま船内に常駐するそうだ。船の整備と見張りのためとのことだ。プライベートビーチなため、警備は徹底しているはずだが、それでも念のためということらしい。
一応カジェ国には半月くらいの滞在予定なので、程々に国内散策をするようには伝えてあるものの、その辺りは船員の何かしら取り決めがあるらしいので、あまり言及はしないことにした。
「(では、ステラ様)」
促されて、馬車に乗る。私が先に乗り込んだあと、クエリーシェルが乗り込むとさすがにちょっと狭く感じる。彼も窮屈そうに縮こまっていて、なんだかそれが面白くて口元が緩む。
「どうした?」
「いえ、何でも」
「?」
こういうときに不遜な態度を取ることもなければ、文句を言うこともなく、ぎゅうぎゅうになりながらも席に納まっている姿が可愛らしい。
「え、と……これからリーシェのことをステラ様と呼べばいいのか?」
「そうですね、そうしていただければと。王妃であるアーシャはコルジールの言葉もペラペラですし、そういうのには目敏いので」
一応、外交では偽名であるリーシェではなく、立場上、対外的にステラとして過ごすことになっている。
コルジールの人々がいる前ではリーシェとして過ごすが、それ以外は本来の姿であるステラ・ルーナ・ペンテレアとして扱われる。
なので、普段のようなメイドとしてではなく、本来の姫としての立場で振舞わなければならない。つまりは、クエリーシェルとは主従逆転するということになる。
実際に私がペンテレアの皇女であることが外交面では重要なので、当然のこととはわかっているものの、いざ今から姫として振る舞えと言われても、戸惑うことが多い。
思いのほか染み付いてしまったメイドらしい振る舞いを正すのは難しいが、今更そこで弱音を吐いたところでどうすることもできない。
元々飾るようなことをするような性格でもなければ、振る舞いをするタイプでもなかったため、できるだけ自然に振る舞うように心掛けた。
「クエリーシェル様のことは、クエリーシェルと呼ぶので、そのつもりで」
「あぁ、なんか、それはそれでいいな」
敬語なしで呼び捨てされただけなのに、嬉しそうに微笑むクエリーシェル。なんか、最近ちょっと色々緩い気がする。
「ちょっと、変な妄想しないでくださいよ」
「ステラ様、敬語になってますよ」
「なんか、楽しんでない?」
そうこうしているうちに、あっという間に王城に着く。アーシャの国に来たことはあるが、幼少期なためあまり覚えていない。そのため、久々に見た王城に思わず感嘆の声を上げた。
「白亜宮!いつ見ても美しい……」
「白亜宮というのか……」
「えぇ、元々は霊廟として建てられたものらしいのですがね。現在は住居兼催事場所として使用されてます」
「ステラ様、敬語」
「……気をつけるわ」
いつにも増してクエリーシェルからの指摘がズバズバ入る。いや、私もクエリーシェルによく言ってたから人のことは言えないけども。
(指摘されるってこんな感じなのね)
立場逆転でちょっと今までを省みるというのはなんだか新鮮である。
ふぅ、と息を吐き、気が弛んでる、と頬を叩いて気合いを入れる。
これから相手にするのはアーシャだ。何となく苦手意識というか、気の置けない仲だけど、大して仲がよくないというよくわからない関係だ。
味方ではあるものの、正直億劫ではある。
(どうせまた、からかわれるのだろうし)
あの余裕たっぷりの笑みで嘲笑されると思うと、ムカつく。だが、政治のため、今後の外交のためには仕方がないことだ。
「(遠路はるばる、ようこそお待ちしておりました、ステラ姫。両陛下がお待ちです)」
「(本日はお招きいただき、どうもありがとうございます)」
執事長だろうか、身なりの美しいすらっとした男性が丁寧に挨拶をしてくる。それに丁寧に返すと、ちらっと私の背後にいるクエリーシェルを見たあと、恭しく頭を下げた。
「(では、ステラ様こちらへ。ご案内致します)」
「(はい)」
いよいよアーシャとの対面だ。背後にいるクエリーシェルと目を合わせ、さぁ!と意気込み、厳かに開かれる扉の中へと足を踏み出すのだった。
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