有能なメイドは安らかに死にたい

鳥柄ささみ

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3章【外交編・カジェ国】

39 甘やかされる

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「あぁ、疲れた……」
「お疲れ様でした」

変装を解き、食事を終え、ゆっくりと風呂に浸かったあとにベッドでくつろぐクエリーシェル。

風呂で洗い流したからか、褐色だった肌は元に戻り、普段の彼の容姿に戻っていた。変装は変装で良かったが、やはりこの見た目の方が好きだなぁ、と改めて思う。

(眠そうだなぁ……)

とろんと、瞼が落ちそうなほど普段の凛々しい瞳が影を潜め、微睡んでいる。さすがの彼も、ここのところあまり自由がきくこともなかったため、疲れているだろう。慣れない異文化の土地だ。心身の疲労は普段の数倍とも言えよう。

(それになんだかんだ、ちゃんとデートもできなかったしな)

ちょっと期待してたものの、それらしいことはついぞできなかった。いや、元々期待していたわけではなかったものの、残念と言えば残念である。

(ロゼットに貸してもらった本のようにどうしてこう、上手くできないのかしら……!)

食事を食べさせあったり、ずっと寄り添って夕陽や海を眺めたりするなど、一見簡単なように見えて高難易度だ。……そもそも、私がそういうことに思考がいってなかったせいもあるが。

(つい、マルダスや情勢のことばかり気にして……!本当もう自分が嫌になる!!)

明日からの会談ばかりに囚われて、全然楽しめなかった自分が情けない。恋愛初心者という前に、どうしても元来の気質がこういうことに関して邪魔をしてしまう。

「今日はその、デートらしいデートできなくて、すみませんでした」
「ん?まぁ、メインはアルル皇女の付き添いだったのだし、別に気にしてないぞ」

クエリーシェルは笑ってそう言ってくれるが、なんだか今日は彼を振り回してしまった気がする。いや、今日だけでなくカジェ国に来てからずっと振り回している気がする。

「あ、お疲れでしたら、マッサージしましょうか?」
「あぁ、そうし……いや、マッサージの前に話でもしようか」
「?」

ぽんぽん、とクエリーシェルが座るベッドの隣を叩かれ、そこに腰掛ける。すると、腰に腕が回ったところでそのまま一緒に横たえさせられた。

「……ケリー様?」
「なんだか、こうしてくっつくこともなかなかなかったからな」

(そうだったっけ……?)

言われて、確かにここのところ一緒にいることは多いが、こうしてくっつくことは全然なかったことを思い出す。今朝だって変装効果でひっついてみたものの、その後は言わずもがなだ。

「なんだか温かいですね」
「風呂上がりだからな。あぁ、あとあれか、香油の効果か?」
「あぁ、確かにそれもあるかもしれませんね」

言いながらくるっと彼の方を向くと、すんすんと匂いを嗅ぐ。

「いい匂いがします」
「……そうやって煽るんじゃない」
「?……ふがっ!」

鼻を摘まれて、変な声が出る。そして、それにくつくつと笑うクエリーシェル。

「もう!ケリー様のせいでしょ!!」
「あぁ、悪い悪い。確かに、アーシャ王妃がついやってしまう気持ちはわかるな」
「ちょ、それどういう意味ですか……!」

抗議の意味を込めて、ペシペシと彼の胸板を叩く。すると、その手を左手で捕らえられて右手でグイッと引き寄せられて、唇が触れ合う。

「ん……っふ、ん……っちゅ」

油断していたせいか、身動きが取れずにそのままされるがままになっていると、ゆっくりと唇が離れていった。

「顔が真っ赤だな」
「!……誰のせいだと……っ!」
「私だな」

そう言って、再びぎゅうううと抱き締められる。隙間なく、少し苦しいくらいだが、それはそれで心地よいと思ってしまう私は変なのだろうか。

「リーシェは考えすぎだ。私の前ではステラではなく、ただの17のリーシェとして、気負わずにありのままで過ごしてくれ」
「ただの、リーシェとして……?」

言われて、私は勝手に色々なものを背負いこみすぎていたことに気づく。言われるがまま、自分が思うままにやってきたはずなのに、それがいつの間にか負担になっていることなど気づかなかった。

「これはリーシェの悪い癖だな。自分で何でも抱え込む」
「……そういう性分ですので」
「だから、少しでもその荷をわけてほしい。頼りにならないかもしれないがな」
「そんなことないですよ……!」

(あぁ、この人は私の扱いに長けている)

そして、私のことをよく見てくれている。私がクエリーシェルのことを気遣っていたことも気づいていたのだろう。だから、こうして甘やかしてくれる。

「……ありがとうございます。以後、気をつけるよう善処します」
「あぁ、そうしてくれ。不満があるなら言って、したいことがあるならねだって欲しい」
「不満は……!私以外の人のデレデレしないで欲しいです」
「!あ、あれはだな、不可抗力というか、なんというか……!」

膨れて彼をジッと見つめれば、途端に慌て出すクエリーシェルが愛しい。

「所詮、男性はおっぱいの大きさですよね」
「違っ!別に私はリーシェの大きさだって不満は……」
「……ふふ、冗談ですよ」

私が笑えば、今度はクエリーシェルがムッとして、私の身体を擽り始める。

「ちょ!あははは……っ!もぉ……っケリー、さま!」
「ふん、私をからかうとこういう目に合わせるぞ」

何とも可愛らしい仕返しだ、と思いながら彼にひっつく。そして、自らクエリーシェルに「仲直りのちゅーです」と口付けると、再び彼に抱き締められる。

(幸せだな……)

まだ何も成し遂げてないのに、幸せを感じていることに罪悪感を覚えながらも、彼の温もりにだんだんと瞼が重くなる。

「おやすみ、リーシェ」

耳元でそう囁かれると、安堵とともに静かに夢の世界へと旅立った。
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