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3.5章【閑話休題・過去編】
ヒューベルト編2
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「秘密裏に外国令嬢の監視と護衛、ですか」
「あぁ。一応ヴァンデッダ卿はついているのだが、いかんせんあいつは頭に血がのぼりやすいたちでな。近いぶん視野が狭くなりがちだ。なので、そのぶんのフォローを頼む」
(まさかの国軍総司令官のフォロー)
ヴァンデッダ卿とは何度か会ったことがあるが、いずれも戦場で、正直怖い印象の方が強かった。訓練時も厳しいとは聞いているが、戦場では鬼神の如くの振る舞いで、彼の周りは血溜まりができるほどである。
まさかそのような人物のフォローをするとは、人生何があるかわからないものだ。
「は!承知致しました」
「監視については言わずもがな、だ。一応その令嬢が叛旗を翻す可能性もなくはない、ということでよく見ていてくれ」
(随分と矛盾しているな)
その令嬢を高く買っているのか、それとも危険因子だと思っているのか。依頼内容に多少の疑問は抱きつつも、口答えすることなく頷く。
「ということで、まずはカジェ国に今度行く見合いのメンバーの中に紛れ込ませる。そこからどうやってあいつらについていくかは貴様次第ではあるが、上手くこなせよ」
「は!」
そして迎えたカジェ国語講義の初日。一体どんな令嬢が来るのか、と周りとは違った意味で少し緊張する。
(諸外国を説得にまわるくらいだから、きっとそれなりに剛胆な方なのだろうが、異国令嬢とやらは随分と権力をお持ちなのだな)
国王に言われるまでその令嬢の存在すら知らなかったが、そのような人物が女性でしかも妙齢であると知って、さらに驚いた。そして同時に、どんな人物なのかと単純に興味が湧いた。
秘密裏にとのことで公にはなっていないぶん、色々と複雑な事情がある方なのだろうとは察する。複雑な事情という面では少しだけ、自分の家族関係を思い出し勝手に親近感を感じた。
コツコツコツコツ……ーー
(来た……!)
「はじめまして、今回カジェ国語講義の講師を勤めることになりました、リーシェと申します。不慣れなことはあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げる少女。正直面食らってしまった。
(あの少女の護衛兼監視……?)
見る限りただの普通の少女である。確かに佇まいは令嬢らしく品があるが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
(美しいというか、どちらかと可愛らしい?)
まだ成長途中ではあるだろうが、まだあどけなさの残る少女と言った感じの方だった。
(とりあえず、程々に距離を縮めつつ観察することにしよう)
周りがちやほやと彼女に群がっている中、俺は一歩外で彼女の様子を見ることにした。毎回毎回日々の行動を客観的に見ることによって、視野が拡がり、彼女の動向だけでなく性格もなんとなく見て取れるようになってくる。
(なるほど、確かに普通のご令嬢とは違いそうだ)
一見普通に接しているように見えるが、いなし方が上手い。
普通の令嬢は親の影に隠れてあまり喋らぬことが多いが、ハキハキと言いつつも相手を立てて不快にさせないように振舞っている。それを自然にこなし、なおかつ相手に悟らせていない辺りが彼女の凄いところだろう。
そもそもカジェ国出身ではないにも関わらず、カジェ国語を話し、さらにコルジール語も使いこなしているということ自体が凄いと言わざるをえない。
周りはそのことを気にしている様子はないが、疑問に思えばいくつも疑問が生まれてくる。だが、気づきさえしなければ、恐らく俺もごく普通にこの異様なことを受け入れていたことだろう。
(不思議な娘だ)
「ヒューベルト様、どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。ちょっとわからないフレーズがありまして」
「どこでしょうか?あぁ、ここはですね……」
まだきっと俺よりも若いというのに、はっきりとした言葉。怖気付くことなく、男達に囲まれても堂々としている姿に、少なからず惹かれる要素はあった。
(いや、あれはヴァンデッダ卿のものだ)
離れて彼女を見ているからこそわかったこと。彼女はヴァンデッダ卿に恋をしているし、ヴァンデッダ卿もまた彼女に恋をしていた。
(横槍なぞ入れたらどうなるか……)
あの鬼神の如き姿を思い出し震える。だからこの淡い想いはきっと気の迷いだと、己を諌めながらわざと彼女と距離を取りつつ監視をするのだった。
「あぁ。一応ヴァンデッダ卿はついているのだが、いかんせんあいつは頭に血がのぼりやすいたちでな。近いぶん視野が狭くなりがちだ。なので、そのぶんのフォローを頼む」
(まさかの国軍総司令官のフォロー)
ヴァンデッダ卿とは何度か会ったことがあるが、いずれも戦場で、正直怖い印象の方が強かった。訓練時も厳しいとは聞いているが、戦場では鬼神の如くの振る舞いで、彼の周りは血溜まりができるほどである。
まさかそのような人物のフォローをするとは、人生何があるかわからないものだ。
「は!承知致しました」
「監視については言わずもがな、だ。一応その令嬢が叛旗を翻す可能性もなくはない、ということでよく見ていてくれ」
(随分と矛盾しているな)
その令嬢を高く買っているのか、それとも危険因子だと思っているのか。依頼内容に多少の疑問は抱きつつも、口答えすることなく頷く。
「ということで、まずはカジェ国に今度行く見合いのメンバーの中に紛れ込ませる。そこからどうやってあいつらについていくかは貴様次第ではあるが、上手くこなせよ」
「は!」
そして迎えたカジェ国語講義の初日。一体どんな令嬢が来るのか、と周りとは違った意味で少し緊張する。
(諸外国を説得にまわるくらいだから、きっとそれなりに剛胆な方なのだろうが、異国令嬢とやらは随分と権力をお持ちなのだな)
国王に言われるまでその令嬢の存在すら知らなかったが、そのような人物が女性でしかも妙齢であると知って、さらに驚いた。そして同時に、どんな人物なのかと単純に興味が湧いた。
秘密裏にとのことで公にはなっていないぶん、色々と複雑な事情がある方なのだろうとは察する。複雑な事情という面では少しだけ、自分の家族関係を思い出し勝手に親近感を感じた。
コツコツコツコツ……ーー
(来た……!)
「はじめまして、今回カジェ国語講義の講師を勤めることになりました、リーシェと申します。不慣れなことはあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げる少女。正直面食らってしまった。
(あの少女の護衛兼監視……?)
見る限りただの普通の少女である。確かに佇まいは令嬢らしく品があるが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
(美しいというか、どちらかと可愛らしい?)
まだ成長途中ではあるだろうが、まだあどけなさの残る少女と言った感じの方だった。
(とりあえず、程々に距離を縮めつつ観察することにしよう)
周りがちやほやと彼女に群がっている中、俺は一歩外で彼女の様子を見ることにした。毎回毎回日々の行動を客観的に見ることによって、視野が拡がり、彼女の動向だけでなく性格もなんとなく見て取れるようになってくる。
(なるほど、確かに普通のご令嬢とは違いそうだ)
一見普通に接しているように見えるが、いなし方が上手い。
普通の令嬢は親の影に隠れてあまり喋らぬことが多いが、ハキハキと言いつつも相手を立てて不快にさせないように振舞っている。それを自然にこなし、なおかつ相手に悟らせていない辺りが彼女の凄いところだろう。
そもそもカジェ国出身ではないにも関わらず、カジェ国語を話し、さらにコルジール語も使いこなしているということ自体が凄いと言わざるをえない。
周りはそのことを気にしている様子はないが、疑問に思えばいくつも疑問が生まれてくる。だが、気づきさえしなければ、恐らく俺もごく普通にこの異様なことを受け入れていたことだろう。
(不思議な娘だ)
「ヒューベルト様、どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。ちょっとわからないフレーズがありまして」
「どこでしょうか?あぁ、ここはですね……」
まだきっと俺よりも若いというのに、はっきりとした言葉。怖気付くことなく、男達に囲まれても堂々としている姿に、少なからず惹かれる要素はあった。
(いや、あれはヴァンデッダ卿のものだ)
離れて彼女を見ているからこそわかったこと。彼女はヴァンデッダ卿に恋をしているし、ヴァンデッダ卿もまた彼女に恋をしていた。
(横槍なぞ入れたらどうなるか……)
あの鬼神の如き姿を思い出し震える。だからこの淡い想いはきっと気の迷いだと、己を諌めながらわざと彼女と距離を取りつつ監視をするのだった。
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