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4章【外交編・サハリ国】

85 勝機

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「【な、にぃぃぃ……っう……ぐっぅぅぅ!?】」

あえて全身の力を抜く。そして、急激な重みでバランスを崩した前国王の股間を思い切り蹴り上げた。

痛みで悶絶し、手から剣が落ちるのを確認すると、そのまま彼の手から逃れ、くるくると前転して前国王から距離を取る。

「【っう、くぅぅぅぅ……!おのれ、小娘!ぶっ殺してやる!!!】」

ふーふー、とまるで獣の威嚇のように殺気立つ男。その姿はもはや国王の威厳の欠片もなかった。

「【やれるなら、やってみなさいよ!返り討ちにしてあげるわ!!】」

本当はそんな余力など残っていないが、せいぜいいきがってみせる。正直立っていることすらやっとなのだが、こればかりは意地と精神力でどうにかしている。

(興奮しているときなら思考力は落ちる。だから、勝機があるとすればここしかない……!)

「【死に晒せぇ!小娘ぇぇぇぇーーーー!!】」

大きく振り上げられる剣。それを転がって避けた時だった。視界に何か黒い物体が横切り、気づいたときには、前国王が大きくゆっくりと宙を舞っていた。

「【うっぐ……っ!貴様、いつの、間に……っ】」
「待たせたな、リーシェ!」
「ケリー様!」

クエリーシェルからの重い一撃を鳩尾みぞおちに食らったからか、そのまま背から地面に落ちていく前国王。起き上がろうともがいてはいるものの、急所に入ったようでどうにも起きれそうにもなかった。

「【っう、ぐ……っ、くそ!くそくそくそくそくそ……っ!!!!】」
「失礼させていただきます」

前国王が悪態をついている隣で、クエリーシェルが既に用意していた縄で縛り上げる。そして服の裾を引き裂くと、そのまま彼の口の中に押し込めた。

「【うぐっ!うーうーーーーー!ううぅーー!!】」
「これで、ひとまず大丈夫だろう。……リーシェ、無事か?って、随分とボロボロではないか!?」

慌てて寄られて、掬い上げられるように横抱きされる。顔が近い。まだ自分では確認していないが、絶対にボロボロであろう顔を間近で見られるのはとても恥ずかしかった。

「痛々しいな。早く医務室へ向かおう。治療してもらわねば」
「そんなに酷いありさまですか?」
「あぁ、せっかくの綺麗な顔が……」
「傷物になった私は嫌ですか?」
「な……っ!別にそんなことは言ってないだろう……っ!!リーシェはリーシェだし、だな。見た目どうこうなろうがさして問題ではないし、……その、何だ……ってからかっているだろう?」

慌て始めるクエリーシェルが面白くて、ついつい軽口を言ってしまった。からかわれたと気づいたときの表情は不貞腐れていたが、それもそれで愛しい。

「ところで、ケリー様は無事でしたか?」
「あぁ、前王妃は兵に身柄を渡したし、前国王も拘束した。あぁ、もちろん自決できないようにもしてある」
「ありがとうございます」
「まぁ今はそれよりも医務室が先だ。早く行こう」

そのまま抱き締められたまま城へと戻る。できれば羞恥心から降ろしてもらいたい気もするが、動けるほど正直体力もなければ痛みが酷くて歩ける気がしない。

(っ、つぅ……。集中が切れたからか、痛みがじわじわやってきた。骨何本かやったかもなぁ、これ……)

すぐ治ればいいが、なんて思いながらクエリーシェルの腕の中におさまっておく。

途中で追いかけてきてくれた兵に転がっている前国王の身柄を拘束していること。ブランシェが帰ってくるまで、逃がさないように見張りをお願いすると、私達は城の中へと戻るのだった。
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