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5章【外交編・モットー国】
25 吐露
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「〈ステラ、まだやってたのか〉」
「〈師匠!……まだ起きてたの?」
夜更け。無事にパーティーを終え、はしゃぎすぎて疲れてしまったメリッサは、ヒューベルトに抱えられて彼女の自室へと運ばれていった。
私は食事の後片付けやら室内の飾り付けの片付けやらをしていたのだが、いつの間にかいなくなってた師匠はてっきり寝てしまったのかと思っていたのに、起きていたらしい。
「〈ステラとゆっくり話せるのも今日くらいだからな〉」
「〈確かにそうね……〉」
片付けの手を止めて、師匠が腰掛けた椅子の前に対面するように腰掛ける。
こうしてじっくりとよく見ると、師匠は年を取ったと思う。
元々高齢で、メリッサが小さいにしろ、既にいた孫である現皇子は多分私より年上であったはずだ。
実際の年齢は知らないにしろ、余命が短いと言っていたことを考えると、それなりに残された時間は少ないのだろう。
「〈意図してない漂流ではあったようだが、最期にステラに会えてよかった〉」
「〈師匠……〉」
「〈お主は本当にヤンチャで、全然言うことは聞かないし、ワシにひっついて腰が逝きかけたこともあったが、今思えばあのときはかけがえのない時間だったと思える〉」
「〈あのときはその……ごめんなさい〉」
実際、話を聞くどころか無茶して師匠を振り回してばかりだった記憶しかない。
ずっと師匠にくっついて、弟子は取らない主義だというのにモットーに滞在していた全日程を師匠と共に過ごしていたと言っても過言ではないほどの懐きようだったと思う。
渋々ながらも教えてくれた接近戦や気功術などは非常に役立っているので、師匠がいなければ今の私は存在していないとさえ言える。
それだけ私にとって師匠は大きな存在だった。だからこうして拾ってもらえて再び会えたのは何かの縁であり運命であると、嬉しく思った。
「〈なに、謝ってほしいとかそんなことじゃない。……むしろ感謝しておるんじゃ。ワシは、方向性の違いから、あまり家族から……特に息子から好かれておらんでな〉」
「〈息子さんて……元国王の?〉」
以前会ったときを思い出す。あまり会う機会はなかったものの、どこか気難しそうな、師匠とは似ても似つかない容姿をしていたように思う。
「〈あぁ。ワシはブライエ国のシグバールと違って好戦的ではなかったから、それをよく詰られてな。国を大きくするためなら手段を選ばずに行動しろと。酒に毒を混ぜてでも、依存症にさせるよう配合をいじってでも、やりようはあるだろうと責められてな……〉」
「〈そんな……、それじゃ帝国と変わらないじゃない〉」
「〈そう。あやつは帝国のような強大な力を欲していた。だから、ワシのスタンスには賛同できないようでな、よく衝突しておった〉」
和平で国を栄えさせるか、はたまた侵略で国を繁栄させるか、国の長によって判断は分かれるだろうが、モットーでは親子でその判断が分かれてしまったということだろう。
「〈まずは手始めにブライエに侵攻しようとしていたが、ワシが最後まで反対しておってのう。だが、段々と年を取るにつれてワシも力が衰えてきてしまって、とうとう城から追い出されてしまった。何度か進言に言ってもどうにもならんでな。その後は幾度となくブライエに侵攻しようとして返り討ちにあってるらしい〉」
元々師匠が治めていた国だ。ある程度の戦力はあるにしろ、歴戦の猛者であるブライエ国に挑むというのは無茶もいいところだろう。
だが、元国王はその判断すらできなかったらしい。幼さゆえか、ただ無謀なのか。どちらにしろ、国が国王によって振り回され、疲弊しているのは間違いないだろう。
「〈そしてここに来て、帝国と手を組んだ。恐らく近日中にも攻めてくることだろう。そして、やはり帝国はお主を探しているらしい〉」
バッと机に広げられる紙。そこにはぎっしりと小さな文字で、街の様子や物価、帝国の動きや噂など色々なことが書かれていた。
「〈よくいなくなるなぁ、って思ってたらけど……情報収集してたの?〉」
「〈ワシにはこれくらいしかできんからな〉」
申し訳なさそうに眉を下げる師匠。私のためではなくメリッサのためであろうが、胸が詰まるくらいに込み上げるものがあった。
「〈ありがとう。絶対に、ブライエにメリッサを送り届けるから〉」
「〈こちらこそ、ありがとうステラ。そして、すまなかった。お主の大変なときに駆けつけることができなくて……〉」
頭を下げる師匠。だが、あのときは既に代替わりが済んでいたことは承知済みだ。先程の話ぶりで、元国王が動くはずがないことはわかっていたし、師匠のせいではないと理解していた。
「〈もう過ぎたことだから。それに大切なのは今だし、これからでしょう?私、振り返っている暇なんてないのよ〉」
「〈相変わらず眩しい子よな。お主の存在によって、息子と仲違いして苦しんでいた過去のワシも救われた。そして、今度はメリッサまで。ありがとう〉」
「〈どういたしまして?……てか、もう夜遅いんだし、老体で夜更かしはダメよ?私も明日の出立のために早く寝なきゃだし、師匠も早く寝てちょうだい〉」
「〈ははは、まるで孫がもう1人増えたようだわい〉」
「〈そうよ、私は師匠の孫みたいなもんなんだから。だから長生きしてもらわないと〉」
そう軽口を言うと、安堵したのか朗らかな表情になる師匠。
「〈明日になるのが寂しいのう〉」
「〈えぇ、私も。……おやすみなさい、また明日〉」
「〈あぁ、おやすみ〉」
師匠を自室へと送ると、再び後片付けに戻る。目元を潤ませながら、1人で静かに涙を溢すのだった。
「〈師匠!……まだ起きてたの?」
夜更け。無事にパーティーを終え、はしゃぎすぎて疲れてしまったメリッサは、ヒューベルトに抱えられて彼女の自室へと運ばれていった。
私は食事の後片付けやら室内の飾り付けの片付けやらをしていたのだが、いつの間にかいなくなってた師匠はてっきり寝てしまったのかと思っていたのに、起きていたらしい。
「〈ステラとゆっくり話せるのも今日くらいだからな〉」
「〈確かにそうね……〉」
片付けの手を止めて、師匠が腰掛けた椅子の前に対面するように腰掛ける。
こうしてじっくりとよく見ると、師匠は年を取ったと思う。
元々高齢で、メリッサが小さいにしろ、既にいた孫である現皇子は多分私より年上であったはずだ。
実際の年齢は知らないにしろ、余命が短いと言っていたことを考えると、それなりに残された時間は少ないのだろう。
「〈意図してない漂流ではあったようだが、最期にステラに会えてよかった〉」
「〈師匠……〉」
「〈お主は本当にヤンチャで、全然言うことは聞かないし、ワシにひっついて腰が逝きかけたこともあったが、今思えばあのときはかけがえのない時間だったと思える〉」
「〈あのときはその……ごめんなさい〉」
実際、話を聞くどころか無茶して師匠を振り回してばかりだった記憶しかない。
ずっと師匠にくっついて、弟子は取らない主義だというのにモットーに滞在していた全日程を師匠と共に過ごしていたと言っても過言ではないほどの懐きようだったと思う。
渋々ながらも教えてくれた接近戦や気功術などは非常に役立っているので、師匠がいなければ今の私は存在していないとさえ言える。
それだけ私にとって師匠は大きな存在だった。だからこうして拾ってもらえて再び会えたのは何かの縁であり運命であると、嬉しく思った。
「〈なに、謝ってほしいとかそんなことじゃない。……むしろ感謝しておるんじゃ。ワシは、方向性の違いから、あまり家族から……特に息子から好かれておらんでな〉」
「〈息子さんて……元国王の?〉」
以前会ったときを思い出す。あまり会う機会はなかったものの、どこか気難しそうな、師匠とは似ても似つかない容姿をしていたように思う。
「〈あぁ。ワシはブライエ国のシグバールと違って好戦的ではなかったから、それをよく詰られてな。国を大きくするためなら手段を選ばずに行動しろと。酒に毒を混ぜてでも、依存症にさせるよう配合をいじってでも、やりようはあるだろうと責められてな……〉」
「〈そんな……、それじゃ帝国と変わらないじゃない〉」
「〈そう。あやつは帝国のような強大な力を欲していた。だから、ワシのスタンスには賛同できないようでな、よく衝突しておった〉」
和平で国を栄えさせるか、はたまた侵略で国を繁栄させるか、国の長によって判断は分かれるだろうが、モットーでは親子でその判断が分かれてしまったということだろう。
「〈まずは手始めにブライエに侵攻しようとしていたが、ワシが最後まで反対しておってのう。だが、段々と年を取るにつれてワシも力が衰えてきてしまって、とうとう城から追い出されてしまった。何度か進言に言ってもどうにもならんでな。その後は幾度となくブライエに侵攻しようとして返り討ちにあってるらしい〉」
元々師匠が治めていた国だ。ある程度の戦力はあるにしろ、歴戦の猛者であるブライエ国に挑むというのは無茶もいいところだろう。
だが、元国王はその判断すらできなかったらしい。幼さゆえか、ただ無謀なのか。どちらにしろ、国が国王によって振り回され、疲弊しているのは間違いないだろう。
「〈そしてここに来て、帝国と手を組んだ。恐らく近日中にも攻めてくることだろう。そして、やはり帝国はお主を探しているらしい〉」
バッと机に広げられる紙。そこにはぎっしりと小さな文字で、街の様子や物価、帝国の動きや噂など色々なことが書かれていた。
「〈よくいなくなるなぁ、って思ってたらけど……情報収集してたの?〉」
「〈ワシにはこれくらいしかできんからな〉」
申し訳なさそうに眉を下げる師匠。私のためではなくメリッサのためであろうが、胸が詰まるくらいに込み上げるものがあった。
「〈ありがとう。絶対に、ブライエにメリッサを送り届けるから〉」
「〈こちらこそ、ありがとうステラ。そして、すまなかった。お主の大変なときに駆けつけることができなくて……〉」
頭を下げる師匠。だが、あのときは既に代替わりが済んでいたことは承知済みだ。先程の話ぶりで、元国王が動くはずがないことはわかっていたし、師匠のせいではないと理解していた。
「〈もう過ぎたことだから。それに大切なのは今だし、これからでしょう?私、振り返っている暇なんてないのよ〉」
「〈相変わらず眩しい子よな。お主の存在によって、息子と仲違いして苦しんでいた過去のワシも救われた。そして、今度はメリッサまで。ありがとう〉」
「〈どういたしまして?……てか、もう夜遅いんだし、老体で夜更かしはダメよ?私も明日の出立のために早く寝なきゃだし、師匠も早く寝てちょうだい〉」
「〈ははは、まるで孫がもう1人増えたようだわい〉」
「〈そうよ、私は師匠の孫みたいなもんなんだから。だから長生きしてもらわないと〉」
そう軽口を言うと、安堵したのか朗らかな表情になる師匠。
「〈明日になるのが寂しいのう〉」
「〈えぇ、私も。……おやすみなさい、また明日〉」
「〈あぁ、おやすみ〉」
師匠を自室へと送ると、再び後片付けに戻る。目元を潤ませながら、1人で静かに涙を溢すのだった。
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