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6章【外交編・ブライエ国】

20 家族

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「[明日のことだが、まずはジャンスに攻めるまでの経路だ]」

シオンが主導して作戦の話をする。さすが王子であり、こちらのチームのリーダーというだけあって、いつもの不真面目さはどこかへ行っていた。

「[この砂漠地帯を一気に超えて、途中で補給を挟みつつ進軍する予定だが、何か意見があったり情報があったりする者は言ってほしい]」
「[相手は迎撃してくると思われるけど、その目星はついているの?]」
「[恐らく、この辺り……というのは大体ついているが。ステラは最近通ったばかりだろう?何か詳しい情報はないのか]」

シオンが指差した場所は私達も以前隠れていた泉や森だ。確かにその辺りは水もあり、植物もあって食事にも困らないだろうし、身を隠すにも最適の場所ではあるだろう。

「[なるほどね。ちなみにここ、地図には載ってないけど村がある]」
「[何?どういうことだ]」
「[ブライエ国に来る前、私達そこに行ったのよ。帝国嫌いの村として聞いてたんだけど、どうやら帝国と結託してそういう噂を流してはそこで流れてきた人を捕まえて売ってたようでね。逃げるときにある程度中を引っ掻き回したけど、きっと今はここにも帝国兵が集められていると思う]」
「[そうか。それは初耳だったな……]」
「[多分できたの最近だと思う。恐らく帝国が来たくらい。全体的に真新しかったし、多分森から切り出して作った村だったのかと思うけど、きっと迎撃もしくはこちらを攻めるために用意したんだと思う]」

そのあともそれぞれ自分が見聞きした情報を書き込み、情報開示していく。
自分だけ持っていてもしょうがないものは、どんどんと吐き出していった。

「[それとジャンスの警備は厳しいわ。市民に紛れて帝国兵もいるみたいだし、壁の周りは貧民街になっていて、子供達が大勢いるのだけど、彼らが結構厄介よ]」
「[子供が?嘘だろ]」

小馬鹿にして鼻で笑うシオン。それに私がムッとしながら話を続ける。

「[貧民街の子供達は監視役で、壁の周りであったことを逐一報告することで収入を得ているらしいのよ。だから、子供と言って侮ると痛い目を見るわよ]」
「[何だよそれ。実際にあったような口ぶりじゃないか]」
「[実際にあったのよ]」
「[……マジで?]」
「[マジで]」

そのときにあったことを洗いざらい話す。

物乞いされ、見ぐるみを剥がされかけて容赦なくボコボコにされたこと。子供といえど、情け容赦ない攻撃は加減を知らないために手酷くされることなどを話しておいた。

「[侵攻するとき厄介かもな]」
「[えぇ、本当にそう。気を抜いてると背後から一気に、なんてことも考えられるわ]」
「[わかった。周知しておこう]」

さすがのシオンも私の話に考えを改めたのか、深刻な顔をしていた。一応まだ若い年齢の私がそこまでボコボコにされたという事実は結構な衝撃のようだった。

「[それにしてもよくもまぁここまで情報を集めたな]」
「[ここまで来るまでに色々あったからね]」
「[本当にそうだな。それに、まさかラウルのじーちゃんがな……]」
「[えぇ、まさか……。ローグってどういう人なの?]」
「[えぇ?お前まさか知らないのか?ラウルじーちゃんと仲良かっただろ]」
「[師匠とは仲良かったけど、息子さんに会った記憶があんまり……]」

当時の記憶を呼び起こしても、師匠の息子であるローグの記憶はほとんど残っていなかった。

覚えているのはいつも私を忌々しげに見る強い瞳。何をそんなに苛立っているのか、私に対して敵意が剥き出しであった。

「[あー、あいつは簡単に言えばファザコンだな]」
「[え、……ファザコン?それがどうして師匠を殺すだなんて……]」
「[あいつのファザコンは歪んでいるからな。口では色々と言いつつも、認めてもらおうと必死になっていた哀れなヤツだよ]」
「[でも、そんなこと、師匠は全く]」
「[お互いの認識のズレがあるのさ。まぁ、近いからこそ起こるんだろうが]」

(じゃあ、お互いに想いがすれ違ったことによってこんなことになってしまったってこと……?)

それは、あまりにもあんまりではないだろうか。思わず、あまりの衝撃に言葉をなくした。

「[お互いに身内に関しては不器用だったからな。ほら、どっちも母さん早くに亡くしてるし。きっと母さんがいたらまた違ってただろうがな。たまにおれ達もギクシャクするときはあったけど、ほらおれには兄貴もいるし。あとはうちの奥さんとかもいいやつだしな]」
「[そうね、縁は大事ね……]」

実際、私もクエリーシェルに出会ったことでこうまで変われた。ただ無気力に大往生を目指してた女が、国を救うために各国を回って帝国を倒そうとしているのだから人生何があるかわからないものだ。

「[って、随分と脱線したが、とにかく明日出立だからな。それまでにきちんと用意しておけよ。ま、お前は前線に出るの禁止だけどな]」
「[わかってるわよ。出ませんよ~]」
「[だといいが。ま、後方支援は頼んだぞ)」
「[はいはい、いざというときには動きますよ~!!]」

(いよいよ明日)

胸がだんだんとドキドキしてくる。隣にいるクエリーシェルを見ると、少しだけ緊張が和らいだ。

「[ほら、そこでイチャイチャしてないでさっさと解散~。セツナさんから連絡あったらすぐ伝えるから]」
「[べ、別にイチャイチャなんかしてなんか!とりあえず部屋戻ってるからよろしく]」

シオンにニヤニヤされながら部屋を出る。そしてクエリーシェルの腕を引くと、先程の作戦などを説明しながら部屋へと戻った。
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