悪の帝王の恋

鳥柄ささみ

文字の大きさ
1 / 33

プロローグ

しおりを挟む
「……全く。しつこいなぁ」

 思わず、唸るような声が漏れる。
 普段の好青年を装っている彼からは想像つかないような表情、声音に、リアムの周りを囲んでいる刺客達は竦み上がった。

「リアム……っ」
「大丈夫。オフェリアは僕が守るよ」

 リアムはそう言うと、彼女の身体をグッと抱き寄せる。
 まるで、もう絶対に離さないかのように。

「でも、どうするの? このままじゃ……リアムが」
「僕の心配はいいから。オフェリアは自分が生きることだけを考えて」

 リアムはそう言うと、刺客達にそれぞれゆっくりと品定めするかのような視線を向ける。

 本来なら、多数から命を狙われて絶体絶命のピンチに陥っているのはリアムのはずなのに、それすらも感じさせない圧倒的な存在感。
 そして、威圧感。

 魔力を抑えているはずなのに、気を張っていなければ意識を持っていかれそうなほどの覇気に、刺客達は動くに動けない状態だった。

「っく! ならば……っ」

 刺客達が一斉に呪文を唱え始める。
 複数の魔力が合わさり、絡まり、強大な魔力へと置換されていくそれは、どんどんと膨れ上がり、リアムの魔力をも凌駕するほどの大きさになっていった。

「詠唱呪文か。へぇ、僕にそれで対抗できると……?」
「リアム、危ない!」

 死角からのリアムの背後を狙った魔法攻撃。それを防ぐように、咄嗟にリアムの前に立ちはだかるオフェリア。

 その全てが、リアムにはスローモーションに見えた。

 (あぁ、また。またなのか……)

 オフェリアを止めようと手を伸ばしても、全てが遅かった。気づけばリアムは、身体を自分の血で真っ赤に染めたオフェリアを抱きしめるように受け止めていた。

「オフェリア! 何で……っ!?」
「リアムが、無事で……よかった……」

 彼女の無惨な姿に、身が引き裂かれるような苦痛がリアムを襲う。
 何度経験しても慣れることはない彼女の死。
 今度こそはと思っても、毎度繰り返される光景にリアムはえも言われぬ感情が渦巻いた。

「何度も言っただろう、僕を庇うなって」
「無理だよ。リアムが、大切だから……私にとって、リアムは……」

 オフェリアから全身の力が抜け、目の光が消える。

 (あぁ、まただ。またオフェリアを死なせてしまった)

 絶望で目の前が真っ暗になる。
 その絶望で周囲は一瞬で凍りつき、先程まで敵意を向けていた刺客だった者達は、パーンと塵芥のように一斉に粉々になって霧散した。

「また失敗でしたか」
「ジャスパー」
「そんな目で見ないでください。これでも結構頑張ったんですよ。ここに来るまでに、どれほどの妨害があったとお思いで?」
「……わかっている」

 リアムが視線をオフェリアに戻す。
 まだ温かい身体。真っ赤に染まったそれを抱きしめ、彼女の唇に口づけを落とすと、ゆっくりとその身体を地面に横たわらせた。

「今回は僕の油断だ。次はない」

 詠唱呪文に気を取られて背後にいた刺客に気づかなかった。刺客の位置把握を魔力で感知してたからこそのミスである。
 だが、今回でそれは学んだ。次はもうない。

「オフェリアはもう死なせない」
「そろそろ、これも限界が近づいてきてますからね」

 手のひらに出現させた小さな鐘。それは今にも壊れそうなほどに摩耗していた。

「あぁ、同じ過ちはもう繰り返さない」
「はい。こちらも万全を尽くします」
「……鳴らすぞ」

 カーンカーンカーンカーン

 リアムが小さな鐘に魔力を注ぐと、鐘の音が響き渡る。
 そして鐘が鳴り終えた瞬間、彼らはその場から消えていなくなるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

処理中です...