行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ

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第一話 手紙

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「シア様。今日の分のお手紙です」
「ありがとう、メリダ。そこに置いておいてくれる?」
「かしこまりました」

 そこ、と言われた場所に堆く積まれるのは手紙の山。

 それは全てハッサン男爵家の長女、シア宛のものだった。
 手紙はいずれも上級貴族のご令嬢達から。
 いわゆるファンレターである。

「相変わらずすごい量ですね」
「ね。私なんかのためにわざわざ送ってくれてありがたいわ」
「そんなご謙遜を。みなさまシア様をお慕いしてくださっている方たちなのですから」
「別に私は大したことをした覚えはないんだけどね」

 昔からシアはお転婆で気が強く、お節介焼きな娘だった。

 人が困っていたら助けに入らずにはいられない性分で、つい社交界などでお節介を焼き続けていたら、今では毎日どっさりと手紙が送られるほどの人気令嬢になってしまったのだ。

「この前は暴漢に襲われそうになった伯爵令嬢をお助けなさったとか」
「たまたまそこに居合わせたから、見過ごせなくて。傘を持っていてよかったわ」
「ご無事で何よりですが、あまり無茶をなさらないでくださいね。嫁入り前のお身体なのですから」
「そうよ! 嫁入り前だってのに!」

 いつのまにやってきたのか、話を聞いていたらしいシアの母がいかにも不機嫌そうにやってきた。

「お母様。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう。ってそうじゃないわよ! 全く、貴女は……。伯爵令嬢を助けたときに傘を振り回して大立ち回りしたんですって!? そうやってご令嬢から人気が出るぶん、男性からは不人気になってしまうのだから行動を慎みなさいとあれほど言ったのに!」
「だって、貴族ともあろう者が嫌がっているご令嬢を無理矢理手篭めにしようとしてたのよ? 見過ごせないじゃない。それに、その一件のおかげで伯爵家から我が家への受注が増えたのはいいことでしょう?」

 シアの家はいわゆる成り上がり。
 事業を成功させて一代で財産を築いた社交界の中では新参者である。

 だからこそ、縁が続くというのは願ったり叶ったりであるのだが、夫の事業を支える妻としては嬉しいものの、母としては複雑であった。

「それは……っ、そうかもしれないけど……! あー、もうっ。シアが女ではなく男だったらよかったのに」
「またそれ? そんなこと言われても性別は変えようがないもの。諦めて」

 シアの言葉に頭を抱える母。

 シアは今年二十七だ。

 赤毛の癖毛ではあるものの、見た目は両親のいいとこどりで顔立ちはよい。可愛らしいというよりも凛々しい顔つきをしているが見目は悪くなかった。

 気立てもよく、些細なことでも何でも気づく上に大体のことは卒なくこなせる。
 さらに言えば人当たりもよく、コミュニケーション能力にも長けていて、誰とでも分け隔てなく接することができ、両親の欲目でなくてもシアはよき娘であった。

 だが、もうとっくに嫁いでもいい年なのに未だに嫁の貰い手はない。

 というのも、先程シアの母が言った通りご令嬢から人気が出るのと反比例するように男性からは煙たがられたり慄かれたり。ご令嬢からも評判が上がるごとにご令息からはあまりいい印象を持たれなくなってしまい、縁談がほぼないと言っても過言ではない状態だった。

 たまに縁談が舞い込んだとしても、百七十四センチと女性にしてはやや高い身長と溌剌とした物言いに男性はみなたじたじになり、どれもこれもあっという間に破談。

 そんなこんなでこの年まで未婚のまま、シアは未だに家にいるのだった。

「もういっそ、こんなにモテてるならどこかの高貴令嬢のとこに養子に出して……いや、ダメよね。やっぱり孫は見たいし、さすがにそれは外聞的にも」
「お母様。変な妄想しないでちょうだい」
「そうは言っても、このままってわけにはいかないでしょう!? もう年も年なんだから! どんどん嫁ぐ可能性が狭まってしまうかもしれないのよ!?」
「それはわかってるけど、相手がいることなのだから一人で焦ってもどうしようもないし」
「そうかもしれないけど、少しは焦りなさいな!」

 いい年して嫁ぎ先がない娘の身を案じているのはシア自身もわかっていた。
 とはいえ、そもそも縁談が来ない以上シアとしてもなすすべがない。

 社交界に出たとしても群がるのはいつもご令嬢ばかり。
 ご令嬢の包囲網に男性陣も攻め込む勇気もなければ、人気令嬢を独り占めしているシアにヘイトが向くわけで。

 そんなこんなで八方塞がりで、シアとしてもどうしようもなかった。

「縁談なら先程来たぞ」
「貴方!」
「お父様。ご機嫌よう」
「あぁ、ご機嫌よう。それで、先程シアの手紙に紛れて一通、見合いの手紙があったぞ」
「まぁ! お相手は誰なんです!?」

 先程までとは打って変わって目をキラキラと輝かせている母。

 全く現金な人である。

「ギューイ公爵家だ」
「公爵家!? 公爵家がシアに縁談の申し込みを!? うそ! まさか! 本当!? 冗談ではないわよね!?」
「あぁ、本当だよ」

 父が持っている手紙をひったくるように奪ってかぶりつくように読み込む母。

 そして、「やったー!!」とまるで子供のようにはしゃぎ出した。

「シア! 公爵家から縁談よ!」
「うん。隣で聞いてたから知ってる」
「なんでそんなに反応薄いの! 喜びなさいな!」
「あー、うん。嬉しいけど、何で公爵家が私なんかに縁談を持ちかけてくるのかしら」
「きっとご令嬢達からの評判がいいからよ! さすが私の娘! 日頃の行いが良いからね!!」
「さっきと言ってることが正反対だけど」

 舞い上がりすぎて聞いてないわね、と内心思いつつも喜んでる母に水をさしたくなくて黙っておく。

 それにしても、公爵家がわざわざ年増の行き遅れを嫁にしたいなんて一体どういうことだろうか。

 醜悪な顔をしてるのか、金欠か。

 はたまた病気で先が短いのか。

 シアは母のようにどうしても気楽に考えることができず、様々な負の要素を考えながらきっと訳アリなんだろうと推測する。

 そして現実は、シアの予想の遥か上を上回っているのだった。
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