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第一章 結婚
第二十三話 お披露目
広間で一人ポツンと残されていたレオナルド。女性陣全員がドレスの試着とのことで、手持ち無沙汰で椅子に座りながら待っていた。
(こうやって何もせずに待つというのは久々だな)
ここのところ多忙な日々を送っていたレオナルド。
近隣諸国との軋轢のせいで膨大な仕事があったこともそうだが、仕事以外にも何かと忙しいと理由をつけ、彼は子供達に向き合っていなかった。
最近は特にこうして娘達のために何かをするといったことがなかったことを思い出し、シアに指摘された通り彼女達を全く見ていなかったと改めて気づかされる。
(いや、そもそも私は今までも娘達のことをちゃんと見ていただろうか)
__貴方は私達に関心なんて全くないのでしょう?
以前に言われた言葉を思い出し、胸が痛む。
__だから何も気づかない。バカな人。
(あぁ、そうだな)
蓋をしたはずの記憶が溢れ出て、手が震える。
こうして待っている時間があると、今まで考えないようにしていたあれこれが脳裏をよぎっていった。レオナルドがそれを払拭するように目を瞑る。
すると、なぜか笑ったシアの顔が思い浮かんだ。
「……家族なのだから、言いたいことはきちんと言わないと、か」
そうレオナルドが呟いたとき、部屋の外が何やら騒がしくなってきたことに気づいて顔を上げる。そこには、想像以上に美しくなった娘達がいた。
つい先日までまだあどけなさが残っていたはずなのに、こんなにも女性らしく成長していたのかと驚き、目を見張る。
「お父様~! ねぇねぇ、見て! どうかしら? 似合ってる?」
セレナが一足先にレオナルドのそばに駆け寄る。そして彼の前に立つと、くるりとゆっくり一周回って見せた。
「あぁ、とてもよく似合っている。いつも明るい色ばかり着ているイメージだったが、こういう落ち着いた色もいいな」
レオナルドが柔和な表情でセレナを見つめる。セレナは父親のそんな表情など見たことがなかったため、一瞬ぽかんと呆気に取られ、すぐさま我に返った。
「そ、そうでしょう!? さすが、ジュディスさんよね! ほらっ、アンナもお父様に見せなさいな!」
セレナがアンナを自分の前に引っ張ってくる。アンナは照れくさそうにしながら、おずおずとレオナルドの前に立った。
「どうでしょう? あまり普段着ない色なので、その……似合ってますでしょうか?」
普段は茶色やベージュなどのアースカラーをよく着ていたアンナ。
今まで暗い色ばかり身につけていたアンナしか見ていなかったレオナルドは、こういった明るい色を着たアンナを新鮮に感じる。
シアを疑っていたわけではないものの、本当にアンナは若草色が好きだったのかとレオナルドは改めて再認識した。
「あぁ、アンナもよく似合っている。普段の服もこういう明るい色があってもいいな。時間があるときに買い足そう」
「っ! ありがとうございます」
「そういえば、髪を伸ばしているんだな。今まで髪を短くしていたから、あまり髪飾りを持っていなかっただろう? 今度一緒に買いに行こうか」
「え、いいんですか!? 嬉しい! ありがとうございます!」
レオナルドの提案にアンナが子供らしくはしゃぐ。その姿に、今度はレオナルドがアンナの滅多に見ない一面に驚いた。
「……ん。お父様、私は?」
いつのまにかレオナルドのそばにいたフィオナが、レオナルドの気を引くためにぐいぐいと彼の服を引っ張る。
それに気づいて、レオナルドはフィオナの視線までしゃがみ、腰を落とした。
「フィオナもよく似合っている。つい最近まで抱っこをせがんでいたはずが、いつの間にかこんなに大きくなっていたんだな」
ぽんぽんとレオナルドがフィオナの頭を撫でる。
すると、フィオナは不貞腐れたように口を膨らませた。
「む。最近じゃないし。もっと小さいときだし」
「そうか。もう今は立派なレディだものな」
「ふふんっ。……でも、お父様がどうしてもって言うなら抱っこさせてあげてもいいよ」
「あぁ、では今度フィオナにお願いするとしよう」
「うん」
フィオナが満足そうに頷くと、ふと口元を緩めるレオナルド。それを見て、セレナが隣にいるアンナに「ねぇねぇ」と話しかけた。
「今日のお父様、ずいぶん優しいけど変なものでも食べたのかしら」
「きっとシア様のおかげですよ。最近ちょっとずつお父様とまた色々話せるようになって嬉しいです」
「え、えーーーー……? まぁ、確かにあいつが来てから変わったような気がしなくもないけど、えーー……」
「お姉様ももっと素直になればいいのに」
「べ、別にっ。私はいつも素直だし」
家族でそれぞれそんなやりとりをしていると、不意に奥からパンパンと手を鳴らす音と共に「おーまーたーせーーーー!!」とジュダの大きな声が聞こえてくる。
「さて、本日のメインイベント! シアちゃんのドレスのお披露目よ~! はい、みんな! ご注目~!!」
ジュダがわざと注目を集めるよう声を上げた。すると奥から「ジュダさん、やめてくださいよっ」と普段に比べてかなりか細いシアの声が聞こえてくる。
ドアの奥にシアがいるようだが、ジュダの声かけのせいでレオナルド達の前に出るのを躊躇っているようだった。
そんなシアを察して、ジュダがツカツカと再び奥へと戻っていく。
「なぁーに言ってるのよ! ドレスは着て見せてなんぼでしょ! シアちゃん、あたしのドレスにケチつける気~?」
「そ、そうじゃなくてっ! ドレスは完璧ですけど、着てるの私なんですから、そんな注目集めるような行為はちょっと……っ」
「大丈夫よ~! シアちゃん最高に綺麗だからっ! あたしがプロデュースしたのよ~? ドレスもあたし的に最高傑作なんだからっ!! ほらっ、そんなへっぴり腰でいないでさっさと来なさいっ!」
「ひぇっ」
ジュダの圧にシアが短く悲鳴を上げる。
ジュダはシアの腕を掴むとそのままレオナルドやセレナ、アンナ、フィオナ達の前へと連れてきた。
「えっと、いい年して恥ずかしいんだけど。どう……かしら?」
シアが不安そうに声を出す。
だが、レオナルドもセレナもアンナもフィオナも固まったまま動かなかった。
(え、そんなに変ってこと? やっぱ年甲斐もないとか思われたのかしら)
家族の反応に、自分の格好はそんなに酷いのかと今すぐにでも隠れたくなるシア。
シアの赤毛が映えるようにとジュダの独断でドレスの色は黄金色。デザインは身長と細身を生かしてスレンダーラインのものが採用されている。胸元には花に見立てたビジューの装飾や華やかなレースがいくつも施され、背中はお尻が見えそうなくらいがっつりと開いていて、かなり大胆な仕様のドレスになっていた。
(ジュダさんは絶対大丈夫、あたしの感性を信じなさいとか言ってたけど、この年でこんな攻めたデザインじゃ引かれてもおかしくないわよね)
やはり自分にはもっと大人しくてシンプルなドレスのほうがよかったのではないか、とそう思ったときだった。
「シア様、すごい綺麗ですっ! いえ、いつもお綺麗なんですけど、いつもよりもさらに美しいですっ!! まるで女神様のようですっ」
アンナが熱弁すると、セレナも「まぁ、これなら及第点ね。馬子にも衣装っていうし、ジュダさんのおかげで見られるようにはなってるんじゃない?」と一応褒め言葉らしきものが返ってくる。フィオナに至っては「別人じゃないの?」とシアかどうか疑っているような素ぶりを見せていた。
「そ、そんなに?」
「はい! とっても素敵ですっ! 普段も美しいですけど、さらに麗人さに磨きがかかってますっ」
「でしょう~!? シアちゃん素がいいから、磨きがいがあるのよ~!! それにこのドレス! シアちゃんの魅力を最大限に引き出すよう出すとこ出して、締めるとこは締めてメリハリをつけてるから、シアちゃんのこの曲線美が映えるのよ~!! あー、このまま肖像画を描いてもらいたいほどの美しさだわ!」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず褒められているのはわかってホッとするシア。ふと、レオナルドを見ると、彼は惚けたようにシアを見たまま動いていないことに気づいた。
「あの、レオナルドさん。いかがでしょうか?」
「綺麗だ」
「え?」
レオナルドからの想定外の言葉に、シアの口から間抜けな声が漏れる。あまりに驚きすぎてシアが困惑した表情を浮かべると、レオナルドがさらに続けた。
「とても、よく似合っている。……だが、普段の姿も別に悪くない、とも思っている」
「え? えーっと、それはどうも、ありがとうございます……」
レオナルドからこんなに褒めてもらえるとは思わず、ドキドキする。今までカッコいい、素敵とは言われたことはあれど、綺麗だなんてほぼ言われたことがなかったシアは聞き慣れない褒め言葉にどんな表情をしたらいいのかわからなかった。
「やだもー、ご馳走様! 何よっ、ラブラブじゃない! って、あら。もしかしてこれってチューしちゃう流れ?」
「し、しませんっ」
シアが頬を染めて抗議すると「シアちゃんて自分のことになると案外初心なのね~!」とニヤニヤするジュダ。シアの恥ずかしそうな素ぶりに、満足気であった。
「さてっ、最終チェックも済んだし、納品完了したからお邪魔虫は去りましょうかね~」
手を叩いてジュダが声をかけると、ぞろぞろと従業員達が一斉に撤収作業を始める。
そこでシアは、そういえば支払いをまだ済ませていなかったことを思い出し、撤収作業を始めるジュダを引き留めた。
「あ、ジュダさん! お支払い。今ここで済ませたほうがいいですよね? おいくらですか?」
「なーに、言ってるの。いらないわよ」
「へ? いやいやいやいや、急ぎで四着も作っていただいて支払わないわけには……っ」
「んもー、察しが悪いわねぇ~。あたしからの結婚祝いよ~! お金取るわけないじゃなーい!!」
「えぇぇ!?」
「これからもご贔屓にしてくれればそれで十分よ。ということで、今回の支払いはナ・シ! 渡されても受け取らないからね」
ジュダにウインクされて撃沈するシア。
シアも頑固ではあるが、それ以上にジュダは頑固であった。
「すみません。ありがとうございます」
「どういたしまして~!」
「あ、ではせめてお礼としてこれだけは受け取ってくださいっ」
シアがお礼の品として用意していたものを渡す。何を渡すかずっと悩んでいたが、お礼の品は結局、以前ジュダが好きだと言っていたジャムをたっぷり使った自作のクッキーにした。
「市販品でなくて申し訳ないですが」
「あら、シアちゃんあたしがこれ好きだって言ってたの覚えててくれたの~? 嬉しいーー!! シアちゃんのそういうとこあたし大好きよ。帰ってからみんなで食べるわね。ありがとう~!」
それからさくさくと撤収作業は進み、ジュダの号令後あっという間に支度が済むと「じゃあねー! バイバーイ!!」とジュダはすぐさま去っていった。
「まるで嵐のようだったな」
「そうですね」
ジュダの馬車を見送りながらシアがつい微笑む。
すると、シアにつられてかレオナルドも口元を弛めた。
(レオナルドさんもこんなに優しく笑うのね)
いつにも増してレオナルドの柔らかい表情にシアは内心嬉しくなる。
そして、「もっとレオナルドさんが笑ってくれるような家庭にしたいな」と密かに思うのだった。
(こうやって何もせずに待つというのは久々だな)
ここのところ多忙な日々を送っていたレオナルド。
近隣諸国との軋轢のせいで膨大な仕事があったこともそうだが、仕事以外にも何かと忙しいと理由をつけ、彼は子供達に向き合っていなかった。
最近は特にこうして娘達のために何かをするといったことがなかったことを思い出し、シアに指摘された通り彼女達を全く見ていなかったと改めて気づかされる。
(いや、そもそも私は今までも娘達のことをちゃんと見ていただろうか)
__貴方は私達に関心なんて全くないのでしょう?
以前に言われた言葉を思い出し、胸が痛む。
__だから何も気づかない。バカな人。
(あぁ、そうだな)
蓋をしたはずの記憶が溢れ出て、手が震える。
こうして待っている時間があると、今まで考えないようにしていたあれこれが脳裏をよぎっていった。レオナルドがそれを払拭するように目を瞑る。
すると、なぜか笑ったシアの顔が思い浮かんだ。
「……家族なのだから、言いたいことはきちんと言わないと、か」
そうレオナルドが呟いたとき、部屋の外が何やら騒がしくなってきたことに気づいて顔を上げる。そこには、想像以上に美しくなった娘達がいた。
つい先日までまだあどけなさが残っていたはずなのに、こんなにも女性らしく成長していたのかと驚き、目を見張る。
「お父様~! ねぇねぇ、見て! どうかしら? 似合ってる?」
セレナが一足先にレオナルドのそばに駆け寄る。そして彼の前に立つと、くるりとゆっくり一周回って見せた。
「あぁ、とてもよく似合っている。いつも明るい色ばかり着ているイメージだったが、こういう落ち着いた色もいいな」
レオナルドが柔和な表情でセレナを見つめる。セレナは父親のそんな表情など見たことがなかったため、一瞬ぽかんと呆気に取られ、すぐさま我に返った。
「そ、そうでしょう!? さすが、ジュディスさんよね! ほらっ、アンナもお父様に見せなさいな!」
セレナがアンナを自分の前に引っ張ってくる。アンナは照れくさそうにしながら、おずおずとレオナルドの前に立った。
「どうでしょう? あまり普段着ない色なので、その……似合ってますでしょうか?」
普段は茶色やベージュなどのアースカラーをよく着ていたアンナ。
今まで暗い色ばかり身につけていたアンナしか見ていなかったレオナルドは、こういった明るい色を着たアンナを新鮮に感じる。
シアを疑っていたわけではないものの、本当にアンナは若草色が好きだったのかとレオナルドは改めて再認識した。
「あぁ、アンナもよく似合っている。普段の服もこういう明るい色があってもいいな。時間があるときに買い足そう」
「っ! ありがとうございます」
「そういえば、髪を伸ばしているんだな。今まで髪を短くしていたから、あまり髪飾りを持っていなかっただろう? 今度一緒に買いに行こうか」
「え、いいんですか!? 嬉しい! ありがとうございます!」
レオナルドの提案にアンナが子供らしくはしゃぐ。その姿に、今度はレオナルドがアンナの滅多に見ない一面に驚いた。
「……ん。お父様、私は?」
いつのまにかレオナルドのそばにいたフィオナが、レオナルドの気を引くためにぐいぐいと彼の服を引っ張る。
それに気づいて、レオナルドはフィオナの視線までしゃがみ、腰を落とした。
「フィオナもよく似合っている。つい最近まで抱っこをせがんでいたはずが、いつの間にかこんなに大きくなっていたんだな」
ぽんぽんとレオナルドがフィオナの頭を撫でる。
すると、フィオナは不貞腐れたように口を膨らませた。
「む。最近じゃないし。もっと小さいときだし」
「そうか。もう今は立派なレディだものな」
「ふふんっ。……でも、お父様がどうしてもって言うなら抱っこさせてあげてもいいよ」
「あぁ、では今度フィオナにお願いするとしよう」
「うん」
フィオナが満足そうに頷くと、ふと口元を緩めるレオナルド。それを見て、セレナが隣にいるアンナに「ねぇねぇ」と話しかけた。
「今日のお父様、ずいぶん優しいけど変なものでも食べたのかしら」
「きっとシア様のおかげですよ。最近ちょっとずつお父様とまた色々話せるようになって嬉しいです」
「え、えーーーー……? まぁ、確かにあいつが来てから変わったような気がしなくもないけど、えーー……」
「お姉様ももっと素直になればいいのに」
「べ、別にっ。私はいつも素直だし」
家族でそれぞれそんなやりとりをしていると、不意に奥からパンパンと手を鳴らす音と共に「おーまーたーせーーーー!!」とジュダの大きな声が聞こえてくる。
「さて、本日のメインイベント! シアちゃんのドレスのお披露目よ~! はい、みんな! ご注目~!!」
ジュダがわざと注目を集めるよう声を上げた。すると奥から「ジュダさん、やめてくださいよっ」と普段に比べてかなりか細いシアの声が聞こえてくる。
ドアの奥にシアがいるようだが、ジュダの声かけのせいでレオナルド達の前に出るのを躊躇っているようだった。
そんなシアを察して、ジュダがツカツカと再び奥へと戻っていく。
「なぁーに言ってるのよ! ドレスは着て見せてなんぼでしょ! シアちゃん、あたしのドレスにケチつける気~?」
「そ、そうじゃなくてっ! ドレスは完璧ですけど、着てるの私なんですから、そんな注目集めるような行為はちょっと……っ」
「大丈夫よ~! シアちゃん最高に綺麗だからっ! あたしがプロデュースしたのよ~? ドレスもあたし的に最高傑作なんだからっ!! ほらっ、そんなへっぴり腰でいないでさっさと来なさいっ!」
「ひぇっ」
ジュダの圧にシアが短く悲鳴を上げる。
ジュダはシアの腕を掴むとそのままレオナルドやセレナ、アンナ、フィオナ達の前へと連れてきた。
「えっと、いい年して恥ずかしいんだけど。どう……かしら?」
シアが不安そうに声を出す。
だが、レオナルドもセレナもアンナもフィオナも固まったまま動かなかった。
(え、そんなに変ってこと? やっぱ年甲斐もないとか思われたのかしら)
家族の反応に、自分の格好はそんなに酷いのかと今すぐにでも隠れたくなるシア。
シアの赤毛が映えるようにとジュダの独断でドレスの色は黄金色。デザインは身長と細身を生かしてスレンダーラインのものが採用されている。胸元には花に見立てたビジューの装飾や華やかなレースがいくつも施され、背中はお尻が見えそうなくらいがっつりと開いていて、かなり大胆な仕様のドレスになっていた。
(ジュダさんは絶対大丈夫、あたしの感性を信じなさいとか言ってたけど、この年でこんな攻めたデザインじゃ引かれてもおかしくないわよね)
やはり自分にはもっと大人しくてシンプルなドレスのほうがよかったのではないか、とそう思ったときだった。
「シア様、すごい綺麗ですっ! いえ、いつもお綺麗なんですけど、いつもよりもさらに美しいですっ!! まるで女神様のようですっ」
アンナが熱弁すると、セレナも「まぁ、これなら及第点ね。馬子にも衣装っていうし、ジュダさんのおかげで見られるようにはなってるんじゃない?」と一応褒め言葉らしきものが返ってくる。フィオナに至っては「別人じゃないの?」とシアかどうか疑っているような素ぶりを見せていた。
「そ、そんなに?」
「はい! とっても素敵ですっ! 普段も美しいですけど、さらに麗人さに磨きがかかってますっ」
「でしょう~!? シアちゃん素がいいから、磨きがいがあるのよ~!! それにこのドレス! シアちゃんの魅力を最大限に引き出すよう出すとこ出して、締めるとこは締めてメリハリをつけてるから、シアちゃんのこの曲線美が映えるのよ~!! あー、このまま肖像画を描いてもらいたいほどの美しさだわ!」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず褒められているのはわかってホッとするシア。ふと、レオナルドを見ると、彼は惚けたようにシアを見たまま動いていないことに気づいた。
「あの、レオナルドさん。いかがでしょうか?」
「綺麗だ」
「え?」
レオナルドからの想定外の言葉に、シアの口から間抜けな声が漏れる。あまりに驚きすぎてシアが困惑した表情を浮かべると、レオナルドがさらに続けた。
「とても、よく似合っている。……だが、普段の姿も別に悪くない、とも思っている」
「え? えーっと、それはどうも、ありがとうございます……」
レオナルドからこんなに褒めてもらえるとは思わず、ドキドキする。今までカッコいい、素敵とは言われたことはあれど、綺麗だなんてほぼ言われたことがなかったシアは聞き慣れない褒め言葉にどんな表情をしたらいいのかわからなかった。
「やだもー、ご馳走様! 何よっ、ラブラブじゃない! って、あら。もしかしてこれってチューしちゃう流れ?」
「し、しませんっ」
シアが頬を染めて抗議すると「シアちゃんて自分のことになると案外初心なのね~!」とニヤニヤするジュダ。シアの恥ずかしそうな素ぶりに、満足気であった。
「さてっ、最終チェックも済んだし、納品完了したからお邪魔虫は去りましょうかね~」
手を叩いてジュダが声をかけると、ぞろぞろと従業員達が一斉に撤収作業を始める。
そこでシアは、そういえば支払いをまだ済ませていなかったことを思い出し、撤収作業を始めるジュダを引き留めた。
「あ、ジュダさん! お支払い。今ここで済ませたほうがいいですよね? おいくらですか?」
「なーに、言ってるの。いらないわよ」
「へ? いやいやいやいや、急ぎで四着も作っていただいて支払わないわけには……っ」
「んもー、察しが悪いわねぇ~。あたしからの結婚祝いよ~! お金取るわけないじゃなーい!!」
「えぇぇ!?」
「これからもご贔屓にしてくれればそれで十分よ。ということで、今回の支払いはナ・シ! 渡されても受け取らないからね」
ジュダにウインクされて撃沈するシア。
シアも頑固ではあるが、それ以上にジュダは頑固であった。
「すみません。ありがとうございます」
「どういたしまして~!」
「あ、ではせめてお礼としてこれだけは受け取ってくださいっ」
シアがお礼の品として用意していたものを渡す。何を渡すかずっと悩んでいたが、お礼の品は結局、以前ジュダが好きだと言っていたジャムをたっぷり使った自作のクッキーにした。
「市販品でなくて申し訳ないですが」
「あら、シアちゃんあたしがこれ好きだって言ってたの覚えててくれたの~? 嬉しいーー!! シアちゃんのそういうとこあたし大好きよ。帰ってからみんなで食べるわね。ありがとう~!」
それからさくさくと撤収作業は進み、ジュダの号令後あっという間に支度が済むと「じゃあねー! バイバーイ!!」とジュダはすぐさま去っていった。
「まるで嵐のようだったな」
「そうですね」
ジュダの馬車を見送りながらシアがつい微笑む。
すると、シアにつられてかレオナルドも口元を弛めた。
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