行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ

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第二章 恋

第三話 ホットミルク

「はぁ、楽しかった」

 アンナとの恋バナを満喫して自室へと戻ると、なぜかシアの部屋の前にレオナルドが立っていた。

(どうして、レオナルドさんがここに?)

 レオナルドの部屋からシアの部屋まで遠い。
 そのため、わざわざここまで来るということは何か用事があるのだろう。

 シアはこれ以上レオナルドを待たせるのはしのびないと、慌ててレオナルドに駆け寄った。

「レオナルドさん。どうかなさったんですか?」
「あぁ。ちょっとシアに話したいことがあって。夜更けに申し訳ないが、今からちょっといいだろうか」
「もちろん、いいですけど。私の部屋で話します?」
「あ、いや。女性の部屋に入るというのは……私の部屋かリビングで話そう」
「そうですか? では、リビングに向かいましょうか」
「あぁ」

(妻だから一々気にしなくていいのに)

 相変わらず変なところで律儀だなと思いつつも、既に夜更けということもあってここで押し問答してもしょうがないので、大人しくレオナルドの提案に従う。
 これ以上遅くなるとレオナルドは明日の仕事に響いてしまうだろうし、以前のように睡眠不足にさせるのは妻として看過できなかった。

「結構待ってもらいました?」

 リビングに向かう道中、何となく沈黙が息苦しくてレオナルドに話しかける。

 ついアンナとの女子会が盛り上がってしまったため、こんな夜更けになってしまった。レオナルドがいつからシアのことを待っていたかは定かではないが、恐らく長らく待ってもらっていたのではないかと気がかりだったのだ。

「あぁ、まぁ。何をしていたんだ?」
「すみません、お待たせしてしまったようで。ちょっとアンナと学校のことなどの話を。あまり今日は食事中に話ができなかったので」
「そうか」

 嘘は言っていない。
 けれど、さすがにハロルドのことを話していたなど正直には言えなかったので、シアはあえてはぐらかした。

「レオナルドさん、何か飲みます? ホットミルクでも作りましょうか?」
「そうだな。では、頼む」
「わかりました」

 リビングに到着し、早速キッチンに向かうシア。すると、なぜかレオナルドも着いてくる。
 珍しいなと思いつつも鍋に牛乳を入れていると、その様子をジーッと見つめてくるレオナルド。

「どうかしました? 何か気になることでもありますか?」
「え? あぁ、いや。私はホットミルクの作り方も知らなかったからな。作り方を知っておこうかと思って」
「なるほど、そういうことでしたか」

 レオナルドが料理に興味を持つのは意外だなと思いつつ、手順を説明しながら作っていく。
 とはいっても、あくまでホットミルクなので温めて砂糖を入れるくらいしか工程はないのだが。

「この温めるときに牛乳を沸騰させないよう気をつけてください」
「沸騰とは?」
「温まりすぎて沸々とすることです。温めすぎるとぼこぼこと水面が動くの見たことありませんか?」
「あぁ、なんか熱すると下から泡がぼこぼことするやつか」
「そうです、それです。牛乳を沸騰させると独特な臭みが出てしまうので、沸騰する前に火を止めて砂糖を加えると美味しく仕上がります」
「そうなのか」

 ふむふむ、と感心した様子のレオナルド。
 シアが来たばかりのころの全てを拒絶していたときとは大違いである。

(やっぱり一緒に暮らしてる以上、興味を持ってくれるほうが嬉しいものね)

 利害の一致ゆえの結婚だとはわかっているものの、それでも楽しいほうがいい。

 シアはレオナルドが歩み寄ってくれていることを嬉しく思いながらホットミルクを仕上げた。

「とまぁ、大した手間ではありませんがこんな感じです」
「なるほど。一見手間がなさそうな料理だというのに、コツがあるとは。料理とは奥深いものなのだな」
「そうですね。やっぱり料理はより美味しく食べたほうがいいですから」
「そういうものか」
「はい、そういうものです。ところで、ご用事って?」

 適当にリビングに移動しながら近くのソファーに腰かけると、なぜかその隣に座るレオナルド。
 こういうときはなぜか異様に距離感が近く、不意打ちだったこともあってシアはドキッとしたが、小さく深呼吸をしながら平静を装った。

「実は……今日、料理をして思ったのだが私は力不足だったなと」
「まぁ、ほぼ初めてだったわけですし、誰だって最初はそういうものですから」
「だが、あれをアンナに一人で負担させていたと思うとな。……それで、その、私も料理を始めてみようかと思ったんだが、どうだろうか」

 レオナルドに真剣な眼差しで見つめられ、思わず面食らう。まさかレオナルドから料理をしたいと言い出すだなんてシアは思ってもみなかったため、これは現実なのかと頬をつねりかけた。

「やはり、ダメだろうか?」
「いいえ! お料理やるのいいと思います!!」

 しょんぼりとした表情をしたレオナルドを全力で否定するように手を握る。そして、ジッと見つめながら「レオナルドさんからそうおっしゃっていただけてとても嬉しいですっ」とシアは微笑んだ。

「そ、そうか?」
「はいっ! 以前も子供達に言いましたが、私が体調崩したときや不在になったときなど、いざというときに料理ができる人が一人でも多くいるのはいいことですから」
「それは……確かに、そうだな」
「それに、料理は覚えておいて損はないですよ。ちょっと前から料理男子も流行ってますし。そうそう、ドゥークー辺境伯が先駆けでアウトドア料理なんかを定期的にお披露目されてますよ」
「そうなのか。ご迷惑でなければ、ぜひともそれに参加したいな」
「では、今度の手紙にその旨お伝えしておきますね。先日のパーティーでドゥークー辺境伯夫人にもお誘いされてましたし、恐らく都合が合えば近日中にでもお伺いできると思いますよ」
「そうか」

 ふっと柔らかく笑うレオナルド。それに呼応するようにシアも微笑み返す。
 料理のことだけでなく、レオナルドが交友関係を広げようとしていることがシアは嬉しかった。
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