行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ

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第二章 恋

第五話 思春期

 いつも通りの朝。
 レオナルドは早朝から仕事があると朝食を先に済ませ、シアは彼が家を出て行くのを見送ったあと、子供達の朝食を準備する。
 その後、アンナとフィオナはそれぞれ時間通りに席についたのだが、一向にセレナは来る気配がなかった。

「お姉様、遅いですね」
「寝坊かしら。フィオナ、申し訳ないんだけどセレナを起こしてきてもらえる?」
「お姉ちゃんならもう起きてる。朝からバタバタしてて煩かった」
「そうなの? だったら支度に手間取ってるのかしら」

 最近、身支度に時間をかける傾向にあるセレナ。
 思春期なこともあってか、下手に口出しすると面倒なことはわかっていたので、シアはある程度目をつむることにしていた。

「私が呼んできましょうか?」
「大丈夫よ、アンナ。そのうち来るだろうし」
「だったらもう食べていい? お腹ぺこぺこ」
「えぇ、時間も時間だし、先に食べてていいわよ」

 アンナとフィオナに先に食べるよう促すと、大人しく従う二人。一応登校するのに余裕もって早めに起こしてはいるものの、あまり悠長にしている時間はない。もう少し待って来なければ、呼びに行こうかとシアが思っていたときだった。
 どうやらセレナが来たらしく、足音が聞こえる。

「おはよう、セレナ。あまり時間がないから早めにご飯を……って、セレナどうしたのその姿!?」

 思わず二度見し、悲鳴に似た声を上げるシア。
 というのも、セレナの顔があまりにも突拍子もないものだったからだ。

 ファンデーションはひび割れるくらいの厚塗り。まるでサーカスか大道芸にでも出るのかと思うくらいのビビットなアイメイク。チークをこれでもかと塗ったのか、頬は真っ赤に染まっていて、唇もグロスを広くつけたせいかいつもの二倍くらい分厚さに。
 おまけにヘアスタイルもどこの夜会に行っても驚かれそうなくらい盛りに盛りまくり、天井に届きそうなほどの高さになっていた。

 フィオナだけでなく、アンナでさえも絶句しているレベルだ。

「何よ、なんか文句あるの?」
「文句じゃないけど、言いたいことは大アリよ! アンナ。フィオナ。セレナは遅れていくって学校に伝えておいてちょうだい。セレナ、こっちに来て。今日は遅刻よ」
「えぇ!? 何で!」
「何でも何もないでしょ! 鏡見た!?」

 さすがにこんな姿で学校には行かせられないと思わず声を荒げる。シアの大声に怖気づいたのか、「なんなのよ、もう」と不貞腐れつつも渋々と言った様子のセレナ。
 そのやりとりを見ながらアンナとフィオナは顔を見合わせると早々に食事を終え、「では、先に学校に行ってきますね。遅刻の旨は先生に伝えておきます」「いってくる」といそいそと二人は家を出て行った。

 そしてシアは二人を見送ると、すぐさまセレナのほうに向き直る。相変わらずセレナは不貞腐れたままだった。

「はぁ。私、遅刻したことなかったのに」
「セレナ。まずは鏡を見て」
「鏡なんてさっき散々見たわよ」
「いいから。全身鏡で見てみなさい」

 シアが全身が映る姿見の前にセレナを連れて行く。セレナは渋々といった様子でシアに言われるがまま、姿見の前に立ち、自分の異様な姿に気づいたのか絶句していた。

「セレナはきっと、一つ一つのパーツのみを鏡を見ていたんでしょうけど、全体で見たらすごいことになってるでしょう? そもそも鏡は自分の見たいイメージで映すと言われてるから、実際の見え方とは違うのよ。全身を見てみて、こんな状態で人前に出るわけにはいかないと思わない?」

 あくまで諭すようにゆっくりと言う。セレナは威勢を張った手前気まずいのか不服そうにはしていたが、さすがにこれ以上反抗したところで自分に非があることは理解しているようだった。

「……わかったわよ。直せばいいんでしょ、直せば」

 吐き捨てるように言いながらそっぽを向くセレナ。羞恥心もあってか態度が刺々しい。
 けれど、セレナのそんな気持ちもわかるので、シアはあえてその態度に関して言及はせずにできるだけ穏便に話を持っていこうと心がけた。

「とりあえず、直すというよりもまずは元に戻しましょう。そのあと、改めてメイクもヘアメイクもしたらいいじゃない。一生懸命メイクやヘアセットしたのも可愛くしようとしたからでしょう?」
「……別に」
「そう意地を張らないの。せっかくやるなら可愛くて似合うほうがいいじゃない。ジュダさんとビアンカを知ってるくらいなんだから、そういうの興味あるんでしょう? 二人がよく言ってるけど、若いのなんて今だけなんだからできるオシャレはしていいんだから」

 シアがそう言うと、俯きながらもセレナは納得したのかだんまりのまま。けれど、抵抗するわけでも拒絶しているわけでもなかった。

「とにかく、まずは全てまっさらに戻しましょう。ってことで、セレナの部屋に行くわよ」
「……ふんっ」

(思春期だもの、しょうがないわよね)

 自分にもそういう時期があったなぁと頭の端で考えながら、シアは未だむすっと仏頂面なままのセレナの手を引きながら、彼女の部屋へと向かうのだった。
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