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第二章 恋
第三十話 弁当
まさに順風満帆だった。
レオナルドは仕事が滞りなく進み、アンナもハロルドとの仲は順調そうで、フィオナも特に変わった様子はないので、問題なく日々を淡々と過ごしているようだ。
そして何よりここのところセレナの機嫌がよく、積極的にシアとの生活に参加するようになっていた。
さすがに物凄く仲良しとまではいかないものの、はたから見たら普通の母子に見えなくはないほどの仲睦まじさと言えるだろう。
「特に好き嫌いがないというなら、玉子サンドとハムサンド、トマトサンド辺りはどう?」
「ならそうするわ」
「じゃあ、早速用意しましょうか」
ゆで卵にする茹で時間を確認しつつ、その間にトマトを切ったりハムを切ったり。
かつて包丁を振り上げた人物と同じとは思えないほどの手際の良さで食材が用意されていく。
「だいぶ腕前が上達したわね」
「当然でしょ。ここのところはほぼ毎日キッチンに立ってるんだし」
「それもそうね。もうそろそろ一人で料理を任せても大丈夫かしら」
「そっ、それとこれとは別だしっ。なんかあったらどうするのよっ」
「別に、普段通り料理してたらなんかあったりはしないと思うけど」
「それでも! 何かあるかもしれないでしょ!」
(なんだかんだ言って自分一人じゃまだ不安なのね)
声を荒げながら必死に抗議するセレナを見ながら「はいはい。わかったわよ」と言えば、途端に安堵した表情になるセレナ。非常にわかりやすい。
「さて、いい感じに食材も用意できたし、これをそれぞれパンに挟んでいきましょうか。挟んだあとにピックもつけてね」
「ピックってどうやってつけたらいいの?」
「そんなに難しくはないわ。具材とパンがバラけないようにするだけ。でも、刺し込みすぎると潰れちゃうから力加減はほどほどにね」
「そう言われると難しいわね」
セレナは真剣な表情でサンドイッチを作っていく。あまりに険しい表情すぎて、これから戦場に行くのではないかと錯覚しそうなほどの気迫だ。
「っはぁ! できた!」
「うん、とてもよくできたわね。お疲れさま。早起き苦手なのにお弁当のために頑張って偉いわ」
「そ、そりゃ、人に頼まれたんだから、早起きくらい頑張れるわよ」
「それはいい心がけね」
苦手な早起きすら克服できるなんて恋の力は偉大だなと思いつつ、今度は朝食の用意をすると、アンナとフィオナも起きてくる。
アンナがシアとセレナが一緒にいるのを見るなり、「ここのところお姉様がシア様を独り占めしていてズルいですっ」と不貞腐れるのを「では、明日はアンナも一緒にハロルドくんのぶんも作りましょうよ」と慰めた。
「せっかくだから、フィオナも早起きして一緒に作る?」
「イヤ。無理」
「それは残念」
フィオナに早起きさせるいい口実だと思ったのだが、あっさり却下される。やはりいくら色々と順風満帆だからといって人生そう甘いわけもなく、何でもかんでも一筋縄ではいかないようだ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「シア様いってきますね」
「……いってきまーす」
「いってくるわ」
朝食を終え、それぞれ挨拶をするとそのまま家を出ていく三人。シアはその後ろ姿を見送りながら、今日も一日頑張るぞーと気合いを入れた。
◇
「ただいまー」
「お帰りセレナ。お弁当どうだった?」
「全部美味しかったって言ってくれたわ!」
「そう! それはよかった。ではバスケットもらってもいい? 片付けるから」
「はい」
セレナからバスケットをもらい、ピックなどを回収しようと中を覗き込むシア。
(……あれ?)
だが、そこにはピックはおろか、パン屑も野菜の屑も何もなかった。あまりに綺麗なバスケットの状態に、シアは思わず固まる。
(え、もしかして、バスケットをひっくり返して中身を捨てた? いや、まさか……相手が食べたいって言ったというし、わざわざ捨てるなんてことあるわけないわよね)
「どうしたの?」
「え? いえ、綺麗に食べてくれたんだなって思っただけよ」
シアが固まっていたことを不審に思ったのか尋ねてくるセレナ。ここで下手なことを言ってはまたセレナの機嫌を損ねてしまうだろうと、シアは慌てて怪しまれないように言い繕う。
「そうなの! すごく綺麗に食べてくれたわよね」
興奮気味に話すセレナは、このことに恐らく気づいてないだろう。普段弁当を作ってないのだから仕方ない。
(きっと、ピックはゴミだと思って捨ててしまったのね。そうよ、きっとそうに違いない)
シアはそう思い直しながら、バスケットについたわずかな汚れを布巾で拭った。
「えっと、明日もサンドイッチがいいんですって。でも、今日とまた中身は違うものを食べたいって」
「そう。なら、ジャムとか作りましょうか。ちょうど先程友人からカゴいっぱいにオレンジをもらったの。だからそれを煮詰めてジャムにしましょう」
「わかったわ。ちょっと待ってて! あっ、アンナも呼んでくるわね! 今朝文句言ってたし、抜け駆けとか言われたくないし」
「えぇ。お願い」
シアが頷くと、慌ただしく自室へと戻っていくセレナ。その後ろ姿を見たあと、再びバスケットに視線を落としてシアは小さく「はぁ」と溜め息をついた。
(杞憂よね。お願いだから杞憂であってちょうだい)
また再燃する不信感。頭のどこかで警鐘が鳴り響くも、頭を振って考えないようにする。
(ダメダメ。信じてあげなきゃ)
ギュッと強く目を瞑り、思考を散らす。
そしてシアは顔をパンパンッと軽くはたくと、セレナに悟られないように笑顔を貼りつけるのだった。
レオナルドは仕事が滞りなく進み、アンナもハロルドとの仲は順調そうで、フィオナも特に変わった様子はないので、問題なく日々を淡々と過ごしているようだ。
そして何よりここのところセレナの機嫌がよく、積極的にシアとの生活に参加するようになっていた。
さすがに物凄く仲良しとまではいかないものの、はたから見たら普通の母子に見えなくはないほどの仲睦まじさと言えるだろう。
「特に好き嫌いがないというなら、玉子サンドとハムサンド、トマトサンド辺りはどう?」
「ならそうするわ」
「じゃあ、早速用意しましょうか」
ゆで卵にする茹で時間を確認しつつ、その間にトマトを切ったりハムを切ったり。
かつて包丁を振り上げた人物と同じとは思えないほどの手際の良さで食材が用意されていく。
「だいぶ腕前が上達したわね」
「当然でしょ。ここのところはほぼ毎日キッチンに立ってるんだし」
「それもそうね。もうそろそろ一人で料理を任せても大丈夫かしら」
「そっ、それとこれとは別だしっ。なんかあったらどうするのよっ」
「別に、普段通り料理してたらなんかあったりはしないと思うけど」
「それでも! 何かあるかもしれないでしょ!」
(なんだかんだ言って自分一人じゃまだ不安なのね)
声を荒げながら必死に抗議するセレナを見ながら「はいはい。わかったわよ」と言えば、途端に安堵した表情になるセレナ。非常にわかりやすい。
「さて、いい感じに食材も用意できたし、これをそれぞれパンに挟んでいきましょうか。挟んだあとにピックもつけてね」
「ピックってどうやってつけたらいいの?」
「そんなに難しくはないわ。具材とパンがバラけないようにするだけ。でも、刺し込みすぎると潰れちゃうから力加減はほどほどにね」
「そう言われると難しいわね」
セレナは真剣な表情でサンドイッチを作っていく。あまりに険しい表情すぎて、これから戦場に行くのではないかと錯覚しそうなほどの気迫だ。
「っはぁ! できた!」
「うん、とてもよくできたわね。お疲れさま。早起き苦手なのにお弁当のために頑張って偉いわ」
「そ、そりゃ、人に頼まれたんだから、早起きくらい頑張れるわよ」
「それはいい心がけね」
苦手な早起きすら克服できるなんて恋の力は偉大だなと思いつつ、今度は朝食の用意をすると、アンナとフィオナも起きてくる。
アンナがシアとセレナが一緒にいるのを見るなり、「ここのところお姉様がシア様を独り占めしていてズルいですっ」と不貞腐れるのを「では、明日はアンナも一緒にハロルドくんのぶんも作りましょうよ」と慰めた。
「せっかくだから、フィオナも早起きして一緒に作る?」
「イヤ。無理」
「それは残念」
フィオナに早起きさせるいい口実だと思ったのだが、あっさり却下される。やはりいくら色々と順風満帆だからといって人生そう甘いわけもなく、何でもかんでも一筋縄ではいかないようだ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「シア様いってきますね」
「……いってきまーす」
「いってくるわ」
朝食を終え、それぞれ挨拶をするとそのまま家を出ていく三人。シアはその後ろ姿を見送りながら、今日も一日頑張るぞーと気合いを入れた。
◇
「ただいまー」
「お帰りセレナ。お弁当どうだった?」
「全部美味しかったって言ってくれたわ!」
「そう! それはよかった。ではバスケットもらってもいい? 片付けるから」
「はい」
セレナからバスケットをもらい、ピックなどを回収しようと中を覗き込むシア。
(……あれ?)
だが、そこにはピックはおろか、パン屑も野菜の屑も何もなかった。あまりに綺麗なバスケットの状態に、シアは思わず固まる。
(え、もしかして、バスケットをひっくり返して中身を捨てた? いや、まさか……相手が食べたいって言ったというし、わざわざ捨てるなんてことあるわけないわよね)
「どうしたの?」
「え? いえ、綺麗に食べてくれたんだなって思っただけよ」
シアが固まっていたことを不審に思ったのか尋ねてくるセレナ。ここで下手なことを言ってはまたセレナの機嫌を損ねてしまうだろうと、シアは慌てて怪しまれないように言い繕う。
「そうなの! すごく綺麗に食べてくれたわよね」
興奮気味に話すセレナは、このことに恐らく気づいてないだろう。普段弁当を作ってないのだから仕方ない。
(きっと、ピックはゴミだと思って捨ててしまったのね。そうよ、きっとそうに違いない)
シアはそう思い直しながら、バスケットについたわずかな汚れを布巾で拭った。
「えっと、明日もサンドイッチがいいんですって。でも、今日とまた中身は違うものを食べたいって」
「そう。なら、ジャムとか作りましょうか。ちょうど先程友人からカゴいっぱいにオレンジをもらったの。だからそれを煮詰めてジャムにしましょう」
「わかったわ。ちょっと待ってて! あっ、アンナも呼んでくるわね! 今朝文句言ってたし、抜け駆けとか言われたくないし」
「えぇ。お願い」
シアが頷くと、慌ただしく自室へと戻っていくセレナ。その後ろ姿を見たあと、再びバスケットに視線を落としてシアは小さく「はぁ」と溜め息をついた。
(杞憂よね。お願いだから杞憂であってちょうだい)
また再燃する不信感。頭のどこかで警鐘が鳴り響くも、頭を振って考えないようにする。
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