退廃成人

阿弖流為

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決定的な浮気

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夫の借金のことを知った夜から、私の中で何かが変わった。

　これまで「知らないふり」をしていたこと、目を背けていたこと——それらすべてが、もう許せなくなった。

　だから私は、確かめることにした。
　夫の裏側を、徹底的に。

＊＊＊

　私は夫のスマートフォンを手に取った。
　夫は借金のことを知られたことに動揺していたせいか、ロックを解除したまま寝てしまっていた。

　——今しかない。

　私は震える指で、夫のメッセージアプリを開いた。

　そこには、浮気の証拠がありすぎるほどあった。

　「昨日は楽しかったね」
　「早く会いたいな、M」
　「次はどこで会おうか」

　そして、決定的なものを見つけた。

　——ラブホテルの領収書の写真

　私の中で何かが砕ける音がした。

＊＊＊

　翌朝、私は平然を装って朝食を用意した。
　夫は借金のことを気にしているのか、少し機嫌が悪そうだった。

　「コーヒー、飲む？」

　「……ああ」

　夫が新聞を広げる。

　私は静かにスマートフォンを取り出し、夫の目の前に置いた。

　「これは何？」

　夫は一瞬、意味がわからないという顔をした。
　だが、画面を見た瞬間、顔色が変わった。

　ラブホテルの領収書の写真が、そこにあった。

　「……どこでそれを？」

　私は冷静に答えた。

　「あなたが寝てる間に見たの」

　夫はしばらく言葉を発さなかった。
　私はその沈黙をじっと待った。

　やがて、夫は小さく舌打ちしながら、低く呟いた。

　「……詮索するなよ」

　「詮索？」

　私は鼻で笑った。

　「夫の借金を知り、浮気の証拠を掴んで、それでも黙っていろと？」

　夫はムッとした表情を浮かべ、新聞を乱暴に置いた。

　「これは俺の問題だろ。お前には関係ない」

　「関係ない？」

　私は笑った。

　「結婚してるのに？家庭を支えてるのに？あなたの借金も、あなたの女も、私には関係ない？」

　夫はしばらく黙っていたが、やがて苛立ったように椅子から立ち上がった。

　「朝からくだらない話をするな」

　「くだらない話？」

　「そうだよ」

　夫は冷蔵庫からビールを取り出し、一気に飲み干した。

　私はその様子をただ見ていた。

　夫はもう、隠すことすらしなくなった。

　私は知ってしまったのだ。
　借金のことも、女のことも。

　だから、夫にとって私は「もうどうでもいい存在」になったのだろう。

＊＊＊

　夜、夫は外へ出て行った。

　私は一人、リビングでワイングラスを傾けながら、スマートフォンの画面を見つめていた。

　夫の浮気相手——「M」という女のSNSを見つけたのだ。

　そこには、最近の投稿が並んでいた。

　——「大好きな人と温泉旅行♡」
　——「彼がプレゼントしてくれたバッグ♪」

　私は静かにスマートフォンを置いた。

　次第に、笑いがこみ上げてきた。

　夫は借金をしてまで、この女に貢いでいたのだ。
　そして、私はその事実を、もう知ってしまった。

　私はグラスを空にし、ゆっくりと立ち上がった。

　これで、もう迷う必要はない。

　この家は、もう終わりに向かっている。
　私はそれを受け入れる準備を始めなければならなかった。

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