SparkingHeros ~聖獣の子守歌~

如月霞

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第一章 出会いと旅立ちの序曲

出会いと旅立ちの序曲 その3

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「どうかしたのか、ヒロキ殿?」

 少年の表情が大きく変わった為か、メルキドは心配そうに声をかけてきた。けれど、少年にとってはそんな事はどうでもよかった。今、彼にとって最大の関心は、メルキドの後ろを歩いているモノだった。

「なっ、何だあれ?」

 それを指さしながら、必死に絞り出した声がそれだった。

「あぁ、”プリム”か。安心せい、あれは草食魔獣まじゅうじゃから危険はない」

 聞き覚えのない言葉に困惑しながらも、少年はその姿から視線をそらすことができなかった。
 プリムと呼ばれたそれは、ネズミだ。そうネズミなのだ、少年が知る限り、間違いなくネズミだ。ただ、体長が2~3mはある巨大なネズミだ。いや、ネズミでは無いのかもしれないが、見た目はネズミだ。大きさ的に、恐竜の類にも見えるが、見た目だけは間違いなくネズミなのだ。

「んな馬鹿な?!」

 開いた口が塞がらないまま、呆然とプリムと呼ばれた生き物を見ていると、突然、その背中に変な鳥が降り立った。しかも、少年の常識から大きく逸脱した形をした鳥だ。

「手がある」

「あぁ、あれは”ハンドフィッチャー”と呼ばれる魔獣まじゅうじゃな。プリムなんかの背中に住み着いて、プリムに付いておる虫などを食べておるんじゃ」

 少年の言葉に、的確な回答をするメルキドだが、少年が聞きたいのは生物の名前や生態ではない。

「いや、そういう事じゃなくて、鳥に手が生えてる」

 ハンドフィッチャーと呼ばれた魔獣まじゅうは、見た目だけなら南国に棲んでいそうなくちばしの大きなカラフルな鳥だ、いわゆる鳥類と呼ばれる種類だと思われる。羽もあり、足も細いものが2本生えている。そんな、綺麗で可愛らしい鳥だ……手が横から生えている以外は。翼の付け根辺りから、細い腕が出てきており、指の数は3本しかないが、間違いなく手が生えている。

「ハンドフィッチャーは手があって当然じゃろう」

 当然らしかった、鳥類なのに。
 地球には絶対に存在しない生物が、目の前をゆっくりと歩いて行き、森の奥へと消えていくのを見送ると、少年は呆然としながら、自分が居る場所が地球ではないことを改めて深く感じていた。

「やっぱり、ここは違う世界なんだな」

「なるほど、魔獣まじゅうを見たのは初めてじゃったか。ヒロキ殿の世界には、魔獣まじゅうはおらんかったのか?」

 その問いに、少年は何も言わず、ただ首を縦に振って答えた。そして、諦めにも近いため息をこぼすと、これまでの常識と今の常識が大きく乖離してしまったことに悩み、座り込んだまま頭を抱えてしまった。

 改めて辺りをよく見てみると、森の木々や花々も見たことのないものが多かった。当然、少年が知らないだけで、世界中には多くの草花や木々があることは知っているが、それでも、明らかに変な植物があり、本当に自分が住んでいた世界ではないのだろうと実感させられた。

魔獣まじゅうか……」

「まぁ、他の獣とさほど変わらんよ。凶暴な奴は危険じゃが、そんなものは多くない。下手にこちらから手出ししなければ、襲ってくることもないしのぉ、普通に共存できるものじゃ」

 簡単に言うが、体長2mを超えるネズミとは共存できないだろうと少年は思わず頭の中でツッコミを入れつつ、この不思議な森の景色を眺めて、再び諦めにも近いため息をこぼした。

「ここが地球じゃないのはわかったけど、じゃあどうすればいいんだ、俺は? こんなところに急においてけぼりにされてさ」

 そう、少年は、たった今、世にも恐ろしい生き物を見て、自分の常識とは全く違うこの世界に突然放り出されたことを実感していた。

「そうじゃな……」

 メルキドは、少年の言葉に何かしらの答えを出そうと、考え始めていた。
 しかし、彼は答えを期待していたわけではない。ただ、この絶望感の中、目の前の老婆を困らせてやろうと考えただけだった。けれど、彼女は……

「とりあえず、街へ降りてみてはどうじゃ?」

 意外な答えだったが、確かにメルキドのいうことも一理ある。

「こうして、ここにおっても何も始まらん。それに、おぬしがここに来たのも、何かの意味があったのやもしれん。それならば、まずは動き出してみてはどうじゃ? 街に行けば、魔獣まじゅうの危険も少ないじゃろうし、仕事も探せば見つかるはずじゃ」

 彼女の言葉は、厳しい一面もあったが、それでも今の少年には考えさせられるものがあった。
 あの魔獣まじゅうとかいう生き物が草食で優しいとしても、あの大きさは驚異だし、凶暴なのも居るらしい。そう考えると、森の中にいるのは危険だし、食べ物も無いのだから食糧の確保も考えなければならない。それならば、森を出て街に行き、そこで仕事を探す方が良いように思えた。そうすれば、もしかすると普通に暮らせるのかもしれない。

「その街って、どっちに行けばいいのかな?」

 少しだけ動き出すことへ気持ちが動いた少年が尋ねると、メルキドは少しだけ驚いた表情を見せた後、僅かに笑みを浮かべて答えていた。

「ここからずっと西に進めば、”セレモニ”という小さな街がある。あそこなら、職を探すのにも苦労はすまい」

 全てが上手くいくとは思えなかったが、それでも落ち込んだ気持ちを、少しだけ上向きにさせるには十分な言葉だった。不安は多く、本当にこれでどうにかなるとは思えないが、それでも何かをしないと不安が大きくなりそうだった少年は、とにかく歩き出すことを決めた。

「まずはその街を目指すかな、そこで改めて今後のことを考えるか」

 呟くように零した言葉を聞いて、メルキドは少しだけ満足げな表情を浮かべた。

「そうじゃ、1つ聞いても良いか?」

 そして、少しだけ表情の晴れてきた少年に、彼女は1つの問いを投げかけた。

「なに? 俺で答えられることがあれば、わかる範囲で答えるけど?」

「いや、おぬしが前に住んでおった世界は、地球というのか?」

 それは、意外な問いだった。けれど、彼女にとっては、確かに興味深いことだったのかもしれない。

「う~ん、世界の名か……まぁ、地球かな。この世界は、ガイヤだよな?」

 今度は、少年が確認するように問うと、メルキドは深くうなずいて答えてくれた。ガイヤ……それが、彼がこれから生きていく世界の名だった。

「さってと、西ってどっちだっけ?」

 ようやく、少年は立ち上がると、メルキドにそう尋ねた。よく考えれば、自分が進むべき方角もわかっていなかった。地球であれば、太陽の位置や進み方で把握できそうだが、地球ではない以上、太陽の昇り沈みでの方角確認はできないだろう。

「西はこっちじゃ。ここをまっすぐ行けば、小川に突き当たるからそれに沿って行けば良かろう。そのまま街まで出れるはずじゃ」

 その方角を指さしながら、メルキドは少年にそう告げた。
 そして、少し笑みを浮かべると……

「気をつけて行くんじゃぞ、達者でなヒロキ殿」

 そう少年に告げた。
 それを聞いて、少しだけ照れくさそうに少年は笑みを浮かべると……

「あのさ、その弘樹殿って呼ばれ慣れてなくて、友達からはヒロって呼ばれてたんだ、だから……」

「そうか……ヒロ、達者でな」

 少年の言葉に、彼女は優しくそう言い換えた。
 その言葉を聞いて、少年もまた小さく頷くと、ゆっくりと西へ向かって歩き出した。

「ありがとう、ばーさん!」

 最後に少年が振り返ると、そこにはメルキドの姿があった。見送ってくれる彼女に、少年は礼を告げると、少しだけビックリした様な顔をしながら、手を振る少年に答えるように、彼女も手を振り続けていた。





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