SparkingHeros ~聖獣の子守歌~

如月霞

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第一章 出会いと旅立ちの序曲

出会いと旅立ちの序曲 その4

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「そんでもって、結果がこれだ……」

 崖っぷちに寝転がる様にして、少年は空を見上げていた。

 暮れていく夕暮れの空を見上げると、暖かい光がゆっくりと照らしてくれる。それは、彼が忘れてしまいたい時間をゆっくりと消し去ってくれる様だった。

 この世界は、地球にいた頃には考えられないほど美しい景色が広がっていた。地球では、緑が減っただの、空気が汚いだの、空が見えないだの、色々と話題になっていたことを思い出した。しかし、この世界は地球の環境問題など想像できないような空間だった。空はどこまでも蒼く、緑は果てしなく続いていた。

「綺麗だな」

 寝転がっていた体を起こすと、目の前には壮大な自然の姿が広がっている。そして、夕日がその自然を紅に染め上げていく。空も、森も、そして眼下に見えるあの小さな街の姿も。
 もしも、これがガイヤではなかったら、彼はどれくらい感動できただろう? もっと素直に、もっと純粋に、この壮大な景色に感動できたかもしれない。けれど、もう感動することはできない。

「シャレになんねぇ」

 先ほどから、いくら歩いても、この崖っぷちに出てきてしまう。しかも、どこを歩いて戻ってきてるのかサッパリわからない。簡単に言えば、道に迷ってしまったということだろうが、登山の経験が無い少年には、まさかこれほどまでわからなくなるものだとは思ってもいなかった。

「だいたい、この世界はどうなってるんだよ。魔獣はウヨウヨしてるし、変な動物には追っかけ回されるし」

 初めは、初めて見る景色や動物達に、少しだけ気持ちが高ぶることもあった。しかし、実際には、草食動物だろうと草食魔獣だろうと、近くを通れば寄ってきたり追いかけてくるし、威嚇して襲ってくるものもいた。挙げ句の果てには、人間よりも大きなカブトムシが突進してきた時は、泣きそうになった。そんな中、どうにかここまでやってきたのだ。

 そもそも、何故、死んでまで苦労しなければならないのか? 異世界とやらにやってきたなら、せめて生きていけるように考慮などしてくれないものなのか? 自分は、そんなに悪いことをしたか? テストの点数はお世辞でも良いとは言えなかったが、それでも、こんな目に遭うほど悪いことはしてないはずだ。少年は自分へ意味の無い問いかけを何度も何度も行いながら、この森を彷徨い続けたこれまでのことを思い返していた。

「まぁ、今更そんなこと考えてもしょうがないか」

 そう、今更なのである。
 辺りの景色が、紅色から深い蒼色へと変わっていこうとしている。もうすぐ、この世界にも夜が来る。夜になれば、夜行性の獣や魔獣も出てくるだろう。こういう場合の夜行性生物は凶暴なのが一般的だ。そうすれば、対処する術のない自分は間違いなく喰い殺されるだろうと考えていた。

「1回死んでるんだから、もう死なないとかないのかね」

 ため息をこぼしながら、かなり空想的な希望を口にしながら、少年は先ほどのことを思い返していた。
 それは、この崖の近くで木に躓いてこけた時のことだ。自分でもドジだな、とは思ったが、それ以上に足に響いた痛みと僅かにすりむけた膝から流れていた血の色を見て、自分は生きている、そして、下手すれば間違いなくもう一度死ねると実感した。

「最悪だ……俺の人生」

 少年は、もうどうでも良くなっていた。
 夕日も、いつの間にか地平線の向こう側に沈みはじめ、辺りは蒼の世界に包まれつつあった。十数分、いや数分で世界は蒼に塗り潰されることだろう。
 そして、自身は獣や魔獣に襲われ……そう考えると、なんともあっけない人生である、1日のうちに、車にはねられて死亡し、魔獣に喰われて死亡するという、2回も死ぬ偉業を達成しつつも、いとも簡単に、あっさりと終わるのである。

「ここに居ったのか?」

「えっ!?」

 突然声をかけられて、少年は慌てて振り向いた。
 その先には……

「ばーさん、何でこんな所に」

 メルキドが立っていた。少年に、この世界のことや街への道筋を話してくれた老婆だ。

「おぬし、街に行って何かあてでもあるのか?」

「はぁ? いや、別にないけど」

 突然の問いに、少年は間抜けな声を上げながら、そう答えた。すると、メルキドは、ゆっくりと少年の横に立つと、並んで崖から見下ろす景色を見つめた。

「そうじゃろうな、この世界に来たばかりの様子じゃったからな」

 まさか、そんな事を聞くためにわざわざここまで追っかけてきたのだろうか。
 そんな事を考えながら、少年は、横に立ったメルキドを少し呆れ顔で見上げていた。

「まだ、ここに居ったという事は、道にでも迷っておったんじゃろう?」

 言い返してやりたい所だが、本当にそうなので、言い返せずに視線をそらしてしまう。

「ここからの夕日、見たのか?」

 そんな少年を気にとめることなく、彼女は話し続けた。そして、その言葉を聞いた時、改めて気づいた。いつの間にか太陽が沈み、辺りが夜の闇に飲み込まれ、蒼い絵の具をこぼしたかの様な闇の世界と化していたことに。

「ああ、見た……凄く綺麗だった」

「そうか……」

 最後に沈み消える夕日を見られなかったことが、少しだけ悔やまれたが、それでもなんとなく彼は満足げな表情をしていた。だからこそ、2人は沈んでしまった太陽を惜しむ様に地平線を見つめ続けていたのだろう。
 そして、僅かな沈黙の後……

「……来るか?」

「えっ?」

 メルキドの言葉を上手く聞き取れず、少年は尋ね返した。

「一緒に来るか?」

 メルキドは、少年の方を見ることなく、そう尋ねた。

「おぬし、剣も使えんのじゃろう? それでは、この森を抜けるなど至難の業じゃな」

「そのくせに、俺を森に放したのかよ?」

 続けて出た彼女の言葉に、少年はすかさず言い返した。

「悪かったと思っておる。じゃから、こうして迎えに来たじゃろう」

 そう言いながら、メルキドはチラリと少年の方をのぞき見た。そして、そんな仕草に、少年は気づいた。彼女が、少年と別れた後、ずっと探していたであろうことを。

「一緒に来るか?」

「………」

 壮大な景色を見つめたまま、自分にそう尋ねてくる彼女を見上げながら、僅かに笑みをこぼした。

「わしにできる事など、それほどない。剣術とこの世界のことくらいしか、お前に教えてやれることはないが……それでも、一緒に来るか?」

 それくらいと、彼女は言った。けれど、少年には、それほどのことがと聞こえたのだ。
 だから……

「ああ、ばーさん」

 少年はそう答えたのだった。

 それが、異世界から来た少年ヒロと老騎士メルキドとの出会いだった。
 忘れられない、新しい世界での新しい日々の始まり……そう、少年にとって、生まれ変わった日の出会いだった。





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