『婚約破棄?新しい婚約者が人妻でしたので、王家ごと終わらせました』

鷹 綾

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第七話 続けるという意思

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第七話 続けるという意思

 王城からの招待が、再び届いた。

 今度は公式の狩猟会。

 参加者は王族と主要貴族。

 王太子とその婚約者も当然含まれる。

 私は書状を読み終え、机に置いた。

 形式は整えられている。

 だが問題は形式ではない。

 誰が誰の隣に立つか。

 それだけだ。

 

 当日。

 王城郊外の森。

 王族用の天幕が設営され、貴族が順に到着する。

 私は予定通り、王太子の到着を待つ位置に立った。

 父とクラリスは少し離れた場所。

 王太子が馬を降りる。

 視線が動く。

 一瞬、私へ。

 そしてすぐ、クラリスへ。

 迷いはなかった。

「クラリス、初めての狩猟会だろう。緊張していないか」

 王太子は自然に声をかける。

 自然すぎる。

 私は動かない。

 止めない。

 確認する。

 彼は私の隣に立たない。

 代わりにクラリスの隣に立つ。

 公の場で。

 貴族が見ている前で。

 父が低く言う。

「殿下は気を遣っているだけだ」

「婚約者への配慮より、若い公爵夫人への配慮を優先するのが“気遣い”ですか」

 私は静かに返す。

 父は言葉を失う。

 狩猟が始まる。

 王太子は終始クラリスの近くにいる。

 弓の構えを教え、手を取る。

 距離が近い。

 公然と。

 私は馬上からそれを見ている。

 怒りはない。

 悲しみもない。

 ただ、結論が一つ増えた。

 続けるという意思。

 偶然ではない。

 一度ではない。

 彼は自分の行動を修正しない。

 つまり、選んでいる。

 

 狩猟が終わり、貴族たちが休息する。

 一人の伯爵が私に近づく。

「ご立派ですな」

「何がでしょう」

「殿下の行動に動じない」

「動じる理由がございません」

「婚約者があの扱いで」

「扱いではありません」

 私は淡々と答える。

「優先順位が示された」

 伯爵は意味深に笑う。

「なるほど」

 理解した者は、もう理解している。

 噂ではない。

 行動だ。

 

 帰邸後、父が私を呼ぶ。

「お前は何も言わないのか」

「何をでしょう」

「殿下の態度だ」

「言う必要がございません」

「なぜだ」

「すでに公の場で示されております」

 父は苛立つ。

「このままでは婚約が」

「維持できるとお考えですか」

 私は遮る。

「二度続きました」

「次があれば、意図と見なされます」

「意図?」

「婚約を軽視する意思」

 父の顔色が変わる。

 ようやく、言葉の重みが届いた。

「お前はどうする」

「何もしません」

「何も?」

「選択は殿下です」

 私は視線を逸らさない。

「私は、結果を整理するだけです」

 沈黙。

 父は初めて、明確に不安を見せた。

 

 その夜。

 王城から非公式の噂が届く。

 “王太子は婚約の見直しを検討している”

 私はそれを読んで、紙を畳む。

 驚きはない。

 続けたのは彼だ。

 私は止めなかった。

 止めれば、曖昧になる。

 今は明確だ。

 公の場で、二度。

 婚約者より公爵夫人を優先。

 偶然ではない。

 意思。

 私は机に手を置く。

 婚約とは契約。

 契約を軽視すれば、契約は機能しない。

 彼が続けるなら、私は受け取る。

 そして整理する。

 責任を。

 順番に。

 次に動くのは、王太子だ。

 私はもう止めない。

 確認するだけ。

 続けるという意思は、
 やがて宣言になる。
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