婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾

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第三十話 義妹の誤算

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第三十話 義妹の誤算

王太子の再編案が成功してから、宮廷の空気は少しだけ和らいだ。

「殿下は持ち直された」

「焦らず進めれば違う」

そんな声が広がる。

けれど。

その空気を面白く思わない者もいる。

セシリアだ。


---

王太子妃教育の一環として開かれた茶会。

若い令嬢たちが集まり、和やかな笑い声が響く。

「お姉様は相変わらずお忙しいのですね」

セシリアが微笑みながら言う。

表情は柔らかい。

だが、言葉の奥には棘がある。

「公爵家は実務がお得意ですもの」

令嬢の一人が曖昧に笑う。

空気が少し揺れる。

「わたくしは華やかな役目を」

セシリアは続ける。

「それぞれ役割が違いますわ」

その言葉は、一見穏やか。

だが。

“実務の人”と“華の人”。

無意識の線引き。

その場にいた数人が、視線を伏せる。

軽い一言。

だが、響く。


---

数日後。

その茶会の発言は、形を変えて広がった。

「公爵令嬢は裏方専門」

「王太子妃には向かない」

噂は、歪む。

そして。

それは王の耳にも届く。


---

王の私室。

「その発言は事実か」

王の声は静か。

セシリアは青ざめる。

「悪意はございません」

「悪意がなければ許されると思うか」

冷たい問い。

「王家の柱を軽んじる発言は、王家を軽んじることと同義だ」

空気が凍る。

王は感情的ではない。

だが、線は引く。

「軽率だ」

それだけ。

叱責は短い。

だが、重い。


---

王太子執務室。

報告を受けたカイルは、目を閉じる。

「なぜ余計なことを」

焦り。

不安。

劣等感。

それが彼女を動かしたと分かっている。

だが、今はそれが命取り。

「殿下の評価にも影響が」

側近の言葉に、拳が固まる。

ようやく持ち直した。

だが、足元を揺らすのは身内。

「私が話す」

短い声。


---

別邸。

茶会の噂は、当然届いている。

侍女が心配そうに言う。

「お嬢様」

「知っているわ」

怒りはない。

驚きもない。

焦りが生んだ一言。

「誤算ね」

侍女が首を傾げる。

「殿下が持ち直された今、比較は危うい」

王は見ている。

誰が柱か。

誰が軽率か。

華は尊い。

だが、柱を否定すれば、自らの立場も揺れる。

「何もなさらないのですか」

「ええ」

反論しない。

弁明もしない。

沈黙。

それが一番、効く。


---

夜。

王は一人、窓の外を見る。

王太子は持ち直しつつある。

だが、王太子妃候補は軽率。

「継承は、個人ではない」

二人で一つ。

片方が揺れれば、全体が揺れる。

天秤は、再びわずかに動く。

廃嫡ではない。

だが。

王太子妃の再考。

それは、現実味を帯び始める。


---

王太子府。

カイルはセシリアに向き合う。

「なぜ言った」

「……不安でした」

小さな声。

「皆、お姉様ばかり」

本音。

「私は華だけなのかと」

その言葉に、カイルは沈黙する。

彼も同じ不安を抱いていた。

だが。

焦りは失点を生む。

彼はようやく学んだはず。

「軽率だ」

それ以上は言わない。

責めない。

だが、重い。


---

別邸。

夜風が静かに吹く。

義妹の誤算。

焦りが、評価を削る。

わたくしは何もしていない。

ただ、揺れないだけ。

強いざまあとは、叫びでも破滅でもない。

自らの軽率が、自らを削ること。

それが一番、痛い。

天秤は止まりかけた。

だが。

また、わずかに動く。

終局は、近い。
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