婚約破棄された悪役令嬢、パンがなかったので貴族から菓子を奪って民衆に食べさせますわ! 馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい 1/4

鷹 綾

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第2話:氷の薔薇の覚悟

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第2話:氷の薔薇の覚悟

フォーマルハウト公爵邸の書斎は、夜の静寂に包まれていた。  
暖炉の炎がゆらゆらと揺れ、アルキオーネの白い髪を赤く染めている。  
彼女は大きな地図を広げ、指で王都の流通ルートをなぞっていた。  
硬質小麦の流れは、貴族商会が独占している赤い線で示され、庶民の市場はほとんど空白だった。

「クラリス。報告を」

メイド長クラリスが、静かに一枚の紙を差し出した。

「お嬢様。硬質小麦の市場在庫は、ほぼゼロです。  
貴族商会が先回りして買い占め、庶民に渡る分はほとんどありません。  
一方、軟質小麦は今のところ通常通り流通しておりますが……」

アルキオーネは、冷たい笑みを浮かべた。

「軟質小麦は、パンには不向きで、焼き菓子やケーキに使われる穀物ですわね。  
貴族たちは『菓子は貴族のための高級品』と思い込んでいる。  
だからこそ、高額で自分たちだけが楽しめるものだと信じ込んでいる」

クラリスが少し躊躇う。

「はい……実際、貴族たちの菓子工房では、軟質小麦を高値で扱い、庶民には手の届かない贅沢品として売りさばいています。  
だからこそ、お嬢様が『お菓子を民に与える』と言われたとき、貴族たちは嘲笑ったのです」

アルキオーネは、ゆったりとティーカップを手に取った。  
紅茶の香りが、部屋に広がる。

「馬鹿な人々ですわね。  
軟質小麦は、硬質小麦より安価で、大量生産に向いている。  
それを焼き菓子やクラッカーに変えれば、保存が効き、栄養も補える。  
貴族たちは、菓子が高額だからこそ自分たちのものだと思い込んでいるけれど……  
それはただの思い込みに過ぎませんわ」

彼女はカップを置き、地図に指を置いた。

「クラリス。軟質小麦の買い占めを開始しなさい。  
目標は、王都の在庫の八割。  
そして、貴族の菓子工房から、強制的に材料と完成品を奪いなさい」

クラリスが息を呑む。

「お嬢様、それは……貴族の反発が激しくなります。  
菓子工房は貴族の財産です。強奪は、反逆罪に問われかねません」

アルキオーネは、冷たく微笑んだ。

「反逆罪?  
ふふ……どうせ私は、すでに『馬鹿な女』『悪役令嬢』と蔑まれているのですもの。  
婚約破棄の夜に、王太子に『民の飢えを嘲笑う愚かな女』と呼ばれた私が、  
今さら何を恐れるというのですか?」

彼女は立ち上がり、窓辺に近づいた。  
外は暗く、王都の灯りがまばらに揺れている。  
その灯りの下で、飢えた民衆が眠っている。

「貴族たちは、菓子が高額で貴族のためのものだと信じ込んでいる。  
だからこそ、私がその幻想を砕くのですわ。  
安価な軟質小麦を大量に買い占め、奪った材料でクラッカーを焼き、  
民衆に配給する。  
パンがないなら、お菓子を食べさせますわ」

クラリスが、深く頭を下げた。

「お嬢様の覚悟、痛いほどわかります。  
ただ……お体は大丈夫ですか?  
婚約破棄の屈辱で、心が傷ついていらっしゃるのでは……」

アルキオーネは、静かに振り返った。

「傷つく?  
いいえ。  
あの夜、王太子の言葉は、私に火をつけただけですわ。  
民の飢えを嘲笑う?  
民の飢えに目を向けもしない人々に、何を言う資格があるのかしら?」

彼女の声は、低く、しかし力強かった。

「クラリス。  
私自身も、甘味を断つことにします。  
民が飢えている間は、私もパンや菓子を口にしません。  
麦粥だけで十分ですわ」

クラリスが驚いて顔を上げる。

「お嬢様、そんな……!  
お体が……」

「問題ありません。  
悪役令嬢とは、嫌われ、誤解され、そして――正義を通す者のことですわ。  
私が民と苦しみを分かち合うことで、  
貴族たちの思い込みを、根底から崩します」

アルキオーネは、地図に赤い線を引いた。  
それは、貴族の菓子工房を結ぶルートだった。

「まずは、商会を通じて軟質小麦を買い占め。  
次に、私兵を動かし、貴族の菓子工房から材料と完成品を強奪する。  
奪った菓子は、すべて民に配給しますわ」

クラリスが、静かに頷いた。

「承知いたしました。  
お嬢様の命令通り、すぐに手配します」

アルキオーネは、暖炉の炎を見つめた。  
炎が揺れるたび、彼女の瞳に決意が映る。

「貴族たちは、菓子が高額だからこそ自分たちのものだと思い込んでいる。  
けれど、私は証明しますわ。  
菓子は、民の命を繋ぐものにもなり得ることを」

彼女は、静かに呟いた。

「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。  
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」

その言葉に、クラリスは小さく息を呑んだが、  
すぐに微笑んだ。

「お嬢様の逆襲、必ず成功します」

アルキオーネは、窓の外に広がる王都を見下ろした。  
飢えた民の灯りが、彼女の心に火を灯していた。

「あなた方の主観ですわね。  
私が『悪役』だと言うなら、  
悪役らしく、民を救い、貴族を地獄に落としますわ」

決意の夜は、静かに明けていった。
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