婚約破棄された悪役令嬢、パンがなかったので貴族から菓子を奪って民衆に食べさせますわ! 馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい 1/4

鷹 綾

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第6話:王宮からの土下座使者

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第6話:王宮からの土下座使者

王宮の謁見の間は、重厚な空気に満ちていた。  
午後の陽光がステンドグラスを通り、床に色とりどりの光を落としている。  
第一王子セドリックは玉座に座り、貴族たちに囲まれていた。  
彼の表情は苛立ちを隠せない。

「フォーマルハウトの馬鹿な女が……  
菓子工房を三軒も強奪しただと?  
しかも、下町で民衆に配給を続けている」

貴族の一人が、扇子で口元を隠しながら言った。

「殿下、あの女は危険ですわ。  
菓子は高級品で貴族のためのもの。  
それを庶民に渡すなんて、価値を破壊する行為です」

セドリックは、拳を握った。

「価値などどうでもいい。  
あの女が民衆を味方につけているのが問題だ。  
『クラッカー様』などと呼ばれているらしいな」

貴族たちは嘲笑を漏らした。

「馬鹿な女が、クラッカーで民を洗脳?  
笑わせるわ」

「菓子が高額だからこそ価値があるのに、  
ただで配るなんて愚かすぎる」

セドリックは、冷たく命じた。

「パティシエ長ギルベルトを呼べ。  
王宮の甘味が不足している。  
あの女から軟質小麦を分けてもらえ」

ギルベルトは、すぐに謁見の間に現れた。  
彼は、王宮の菓子職人として長年仕え、  
セドリック王子の甘味へのこだわりを一手に支えてきた男だった。  
しかし、今の彼の表情は苦悶に満ちていた。

「殿下……お呼びでしょうか」

セドリックは、苛立った声で言った。

「ギルベルト。  
フォーマルハウトの女が軟質小麦を買い占めている。  
王宮のケーキが作れないではないか。  
今すぐ、わずかでも分けてもらえ」

ギルベルトは、深く頭を下げた。

「殿下……すでに、使者を送りました。  
しかし、アルキオーネ様は拒否なさいます。  
交換条件として、硬質小麦1000キロを要求されました」

セドリックは、目を細めた。

「1000キロ?  
硬質小麦は市場から消えている。  
そんな量、持ち出せるわけがない」

ギルベルトは、震える声で続けた。

「それで……私自身が、直接お会いすることになりました」

セドリックは、苛立ちを抑えきれず、  
テーブルを叩いた。

「行け!  
土下座でもして、軟質小麦を分けてもらえ。  
王宮の面目が立たないぞ!」

ギルベルトは、深く頭を下げ、  
謁見の間を後にした。

その数時間後、  
フォーマルハウト邸の応接間に、ギルベルトは通された。  
彼は、額に汗を浮かべ、  
膝をついて頭を下げた。

「お嬢様……どうか、軟質小麦をわずかでも分けていただけませんか。  
王子の誕生日舞踏会が迫っております……  
ケーキのない舞踏会など、王宮の面目が立ちません」

アルキオーネは、ゆったりと紅茶を啜り、  
冷ややかな笑みを浮かべた。

「王子殿下のご機嫌取りが最優先ですの?  
飢えた民より?」

ギルベルトは、額を床につけた。

「いえ……もちろん、民の苦しみも理解しております。  
しかし王宮としては……」

アルキオーネは、カップを置いた。  
ぱたり、という音が、静かな威圧となった。

「理解しているのなら、こうはなっていないはずですわ。  
貴族たちは、菓子が高額で自分たちのものだと思い込んでいる。  
だからこそ、私がその幻想を砕くのですわ」

ギルベルトは、震える声で言った。

「お嬢様……金貨なら、いくらでも!  
宝石でも、土地でも構いません!」

アルキオーネは、静かに首を振った。

「食べられない金貨や紙幣をいくら積まれても、  
私の答えは変わりませんわ」

ギルベルトは、言葉を失った。

アルキオーネは、立ち上がり、  
窓辺から王都の景色を眺めた。

「……とはいえ。取引そのものを一切断つとは言いません」

ギルベルトの目に、わずかな希望が宿る。

「ほ、本当ですか……!?」

「ええ。  
どうしてもとおっしゃるのなら、交換条件を提示いたしますわ」

ギルベルトは、身を乗り出した。

「なんなりと……」

アルキオーネは、ゆっくりと振り返った。

「軟質小麦1キロと、硬質小麦1000キロ。  
交換比率はそれでいかがかしら?」

ギルベルトは、凍りついたように固まった。

「……!」

その条件が、現実的でないことは誰の目にも明らかだった。  
硬質小麦はもはや市場から消え、  
金銀よりも価値があるとされている。  
1000キロなど、国王でも持ち出せるかどうかすら怪しい。

アルキオーネは、冷たく微笑んだ。

「無理なら、無理だと言ってくださいな。  
私は、構いませんわ」

ギルベルトは、肩を落とし、  
深く頭を下げた。

「……失礼いたします」

彼の背中を見送ったクラリスが、ぽつりと呟く。

「お嬢様……これで、王宮も本気で動くかもしれません」

アルキオーネは、静かに頷いた。

「ええ。  
ようやく気づくでしょう。  
スイーツが消えるというのは、ただの『贅沢の喪失』ではないのだと」

甘味を奪えば、貴族たちの虚飾が剥がれる。  
その飢えが、本物の飢えに繋がっていることに気づけば――  
この国は、少しは変わるかもしれない。

アルキオーネは、紅茶を一口啜った。  
彼女自身も、甘味を断ち続けている。  
その味は、苦く、しかし清々しかった。

「馬鹿な貴族どもは、クラッカーでもかじってなさい。  
1/4しかあげませんけど、ダイエットにちょうどいいですわ」

彼女は、窓の外を見た。  
王都の空は、曇っていた。  
しかし、アルキオーネの心は、  
静かな炎で燃え続けていた。

逆襲は、まだ始まったばかりだった。
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