永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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第3章‐7 『勇者の旅立ち、母の見送り』

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第3章‐7 『勇者の旅立ち、母の見送り』

 ファイエル。
 かつては名もなき孤児だった彼は、キクコに拾われ、生きる術を学び、剣を学び、心を学んだ。そして今では、“伝説の勇者”と人々に称えられる存在となっている。

 その彼が、荷を積み終えた馬車の傍らに立っていた。

「準備、できたのね」

 石畳の回廊を進んで現れたのは、銀糸の髪を陽にきらめかせ、山吹色のワンピースを纏った少女——永遠の十七歳、キクコ・イソファガスだった。

 ファイエルはその姿を見ると、どこかほっとしたように微笑み、振り返る。

「ええ、もう行きます」

 そして少し照れたように肩をすくめた。

「ここにいると、居心地が良すぎて……これ以上いたら、本当に根っこが生えちまいそうで」

 それを聞いたキクコは、思わず口元を押さえて小さく笑った。

「確かに。あなたが根っこを生やして、家の柱になったら邪魔ね」

「ひどいなあ、母上」

「だから、“母上”はやめなさい」

 呆れたような口調だったが、そこに怒気はない。
 むしろ、その声音はどこか柔らかく、親しみすら帯びていた。

 ファイエルは一瞬だけ視線を落とし、それから真面目な表情でキクコを見つめる。

「ねえ、キクコ」

 その声は、勇者としてではなく、かつての少年としてのものだった。

「また一緒に、パーティーを組んで冒険に出ませんか? 十年前みたいに……あの魔王退治の時みたいにさ」

 キクコは、一瞬だけ目を伏せた。
 ほんのわずかな沈黙の後、ゆっくりと首を横に振る。

「もう、あなたに私は必要ないわ」

 穏やかで、しかし揺るぎない声。

「あの頃とは違う。今のあなたは、立派に一人で戦える。それに……」

 少しだけ口角を上げて続けた。

「マザコンになられても、困るし」

「なんだよ、それ」

 苦笑しながらも、ファイエルの頬は緩んでいた。
 その言葉の奥にある、誇りと愛情を、彼は十分に理解していたからだ。

 キクコは一歩近づき、彼のマントの裾をそっと整えながら、静かに言う。

「今度来るときは、彼女でも連れてきなさい」

 その言葉に、ファイエルは一瞬、息を呑んだ。

「……母上」

「だから、“母上”はやめなさいってば」

 それ以上は言わず、ファイエルはゆっくりと姿勢を正す。
 そして、深い敬意を込めて頭を下げた。

「ありがとうございました。母上」

 キクコは小さくため息をつきながらも、その頬に微かな笑みを浮かべる。

「まったく……もう……」

 その時、庭先から元気な声が響いた。

「勇者さま、がんばって!」

 走ってきたフロンティアが、両手を大きく振っている。

 ファイエルはそれに応えるように手を振り返し、優しい笑顔を向けた。

「ありがとう、フロンティア。君も、しっかり勉強して、立派な領主になれよ」

「うん!」

 やがてファイエルは馬に手綱を取り、鞍に足をかける。
 そして、出発の直前、もう一度だけ振り返り、キクコを見つめた。

「また、帰ってきます」

「ええ。いつでも歓迎するわよ」

 陽の光を浴びながら、馬車は門を越え、ゆっくりと動き出した。
 その背中はまっすぐで、力強く、もう誰かの背に隠れる少年のものではない。

 キクコは、その後ろ姿を静かに見送りながら、ぽつりと呟いた。

「本当に……立派になったわね」

 その言葉は、春の風に乗り、ファイエルの背へと、そっと届いたような気がした。


---

この章は
✔ “育てた者が見送る側になる瞬間”
✔ 母性と自立の美しい区切り

として、とても完成度が高いです。

次は

4章:新章突入(キクコ視点の日常/政治編)

ジャン視点での決意

フロンティアの成長エピソード


どこから続けますか?
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