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第4章‐2『追放の果てに』
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第4章‐2『追放の果てに』
不毛の荒野に、乾いた風が吹き荒れていた。
地表を舐めるように吹きすさぶそれは、草一本生えぬ大地を掻き鳴らし、まるでこの地そのものが嘆き、呻いているかのような音を響かせている。水も影もなく、ただ果てしなく続く灰色の地平だけが広がっていた。
その荒野の中央に、ぽつんと一台の馬車が止まっていた。
朽ちかけた木製の幌車。
装飾は剥がれ落ち、車輪は軋み、王族が用いる馬車とは到底思えぬ、あまりにも粗末な代物だった。
その中に、かつて“王太子”と呼ばれた青年が、虚ろな目をして座り込んでいた。
「……キクコ……キクコめ……」
掠れた声が、風にかき消される。
「俺を……俺を辱めやがって……!」
それは怒りとも呪詛ともつかぬ、濁った呻きだった。
誰に届くこともない言葉を、彼はただ繰り返し、繰り返し吐き出す。
思考はすでにまともに機能していない。
かつての尊大な態度も、王族としての威厳も、今や影も形もなかった。そこにいるのは、追放され、すべてを失った一人の男に過ぎない。
国外追放された王族の末路など、誰も気に留めはしない。
この荒野には、王都の目も、貴族の耳も、正義も秩序も届かない。
——だからこそ。
その瞬間は、訪れた。
「……その復讐に、力を貸してやろう」
低く、底知れぬ禍々しさを帯びた声が、唐突に青年の脳裏へと直接響き渡った。
「だ……誰だ!?」
跳ね起きようとした瞬間、彼の身体が不自然に痙攣する。
頭を抱え、馬車の中で転げ回り、喉が裂けるような悲鳴を上げた。
「ぐ……うあああああああっ!!」
その叫びと同時に、黒く濃い瘴気が彼の身体から噴き上がった。
周囲の空気は一気に冷え込み、まるで世界そのものが拒絶反応を起こしたかのように凍りつく。
「き、貴様……何を……!」
「我は——魔王」
声は静かでありながら、圧倒的な威圧を孕んでいた。
「十年前、貴様の国の“勇者”によって討たれた存在……
そして今、貴様の怨念に導かれ、再びこの世に呼び寄せられた者だ」
青年の目が大きく見開かれる。
瞳の奥に浮かんだのは、恐怖——そして、その奥に芽生える歪んだ歓喜。
「……力を……くれるのか?」
震える声で問いかける。
「キクコを……勇者を……あいつら全員を殺せる力を……!」
「望み通りにしてやろう」
その言葉が告げられた瞬間、青年の身体は完全に支配された。
黒い瘴気が全身を覆い、肉体は軋み、骨は歪み、姿は見る影もなく変貌していく。
かつて王太子であった面影は、もはやどこにも残されていなかった。
「フフ……フハハハハハハハ!!」
哄笑が荒野に響き渡る。
魔王はゆっくりと手を掲げ、その掌から灼けつくような魔力を解き放った。
空は暗転し、渦巻く暗雲が瞬く間に広がっていく。
「集え……我が眷属どもよ」
裂けるような轟音と共に、空間が歪む。
「四天王よ! 再びこの地に顕現せよ!!」
異界の門が開かれ、次々と異形の存在が姿を現す。
大地を踏み鳴らす巨躯の剛獣。
空を切り裂く翼を持つ魔鳥。
毒と瘴気を撒き散らす無貌の邪神——。
「我が名はデスレイン」
復活した魔王は、荒野に向かって高らかに宣言する。
「再び世界を、絶望で染め上げる者だ!」
四天王たちはそれぞれ軍勢を率い、王国の東西南北へと散っていった。
その先に待つのは、悲鳴と破壊、そして尽きることのない絶望。
だが——魔王はまだ知らない。
十年前とは比べ物にならぬほど強くなった勇者が、再び剣を取る日を待ち構えていることを。
そしてその勇者の“師”である、永遠の十七歳の少女が、すでにすべてを見据え、準備を整えていることを——。
世界が、再び混沌へと引きずり込まれる。
その始まりの刻であった。
不毛の荒野に、乾いた風が吹き荒れていた。
地表を舐めるように吹きすさぶそれは、草一本生えぬ大地を掻き鳴らし、まるでこの地そのものが嘆き、呻いているかのような音を響かせている。水も影もなく、ただ果てしなく続く灰色の地平だけが広がっていた。
その荒野の中央に、ぽつんと一台の馬車が止まっていた。
朽ちかけた木製の幌車。
装飾は剥がれ落ち、車輪は軋み、王族が用いる馬車とは到底思えぬ、あまりにも粗末な代物だった。
その中に、かつて“王太子”と呼ばれた青年が、虚ろな目をして座り込んでいた。
「……キクコ……キクコめ……」
掠れた声が、風にかき消される。
「俺を……俺を辱めやがって……!」
それは怒りとも呪詛ともつかぬ、濁った呻きだった。
誰に届くこともない言葉を、彼はただ繰り返し、繰り返し吐き出す。
思考はすでにまともに機能していない。
かつての尊大な態度も、王族としての威厳も、今や影も形もなかった。そこにいるのは、追放され、すべてを失った一人の男に過ぎない。
国外追放された王族の末路など、誰も気に留めはしない。
この荒野には、王都の目も、貴族の耳も、正義も秩序も届かない。
——だからこそ。
その瞬間は、訪れた。
「……その復讐に、力を貸してやろう」
低く、底知れぬ禍々しさを帯びた声が、唐突に青年の脳裏へと直接響き渡った。
「だ……誰だ!?」
跳ね起きようとした瞬間、彼の身体が不自然に痙攣する。
頭を抱え、馬車の中で転げ回り、喉が裂けるような悲鳴を上げた。
「ぐ……うあああああああっ!!」
その叫びと同時に、黒く濃い瘴気が彼の身体から噴き上がった。
周囲の空気は一気に冷え込み、まるで世界そのものが拒絶反応を起こしたかのように凍りつく。
「き、貴様……何を……!」
「我は——魔王」
声は静かでありながら、圧倒的な威圧を孕んでいた。
「十年前、貴様の国の“勇者”によって討たれた存在……
そして今、貴様の怨念に導かれ、再びこの世に呼び寄せられた者だ」
青年の目が大きく見開かれる。
瞳の奥に浮かんだのは、恐怖——そして、その奥に芽生える歪んだ歓喜。
「……力を……くれるのか?」
震える声で問いかける。
「キクコを……勇者を……あいつら全員を殺せる力を……!」
「望み通りにしてやろう」
その言葉が告げられた瞬間、青年の身体は完全に支配された。
黒い瘴気が全身を覆い、肉体は軋み、骨は歪み、姿は見る影もなく変貌していく。
かつて王太子であった面影は、もはやどこにも残されていなかった。
「フフ……フハハハハハハハ!!」
哄笑が荒野に響き渡る。
魔王はゆっくりと手を掲げ、その掌から灼けつくような魔力を解き放った。
空は暗転し、渦巻く暗雲が瞬く間に広がっていく。
「集え……我が眷属どもよ」
裂けるような轟音と共に、空間が歪む。
「四天王よ! 再びこの地に顕現せよ!!」
異界の門が開かれ、次々と異形の存在が姿を現す。
大地を踏み鳴らす巨躯の剛獣。
空を切り裂く翼を持つ魔鳥。
毒と瘴気を撒き散らす無貌の邪神——。
「我が名はデスレイン」
復活した魔王は、荒野に向かって高らかに宣言する。
「再び世界を、絶望で染め上げる者だ!」
四天王たちはそれぞれ軍勢を率い、王国の東西南北へと散っていった。
その先に待つのは、悲鳴と破壊、そして尽きることのない絶望。
だが——魔王はまだ知らない。
十年前とは比べ物にならぬほど強くなった勇者が、再び剣を取る日を待ち構えていることを。
そしてその勇者の“師”である、永遠の十七歳の少女が、すでにすべてを見据え、準備を整えていることを——。
世界が、再び混沌へと引きずり込まれる。
その始まりの刻であった。
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