18 / 25
4-3:勇者、四天王を瞬殺す
しおりを挟む
4-3:勇者、四天王を瞬殺す
夕闇が忍び寄る王国北方――国境にほど近い峡谷地帯。
切り立った岩肌に囲まれたその地を、不吉な地鳴りと共に異形の軍勢が進軍していた。
突如として魔界より出現した、魔王直属の四つの軍団。
それこそが、四天王の率いる魔軍であった。
各軍は単独で一つの都市国家を滅ぼすほどの戦力を有し、その中枢には“四天王”と呼ばれる強大な幹部が鎮座している。
数、質、指揮能力――いずれを取っても、人類側が太刀打ちできるものではない。
王国騎士団は必死の迎撃を試みた。
「だ、だめだ……押し返せない! 退け! 退けぇっ!!」
叫びは虚しく、陣形は崩壊する。
各地の守備隊は蹂躙され、街は炎に包まれ、逃げ惑う民の悲鳴が夜空に響いた。
希望は、どこにもなかった。
――そのはずだった。
そんな地獄の戦場に、ただ一人、静かに現れた男がいる。
漆黒のマントを翻し、その縁を彩る金の装飾が夕闇に鈍く輝く。
銀色の髪を風になびかせ、無言のまま歩みを進める青年。
伝説の勇者――ファイエル。
彼は、第一軍の進軍路の正面に、たった一人で立ちはだかった。
「……人間風情が」
第一軍を率いる四天王の一人、獣人系の巨漢――ベルギウスが、低く鼻を鳴らす。
「貴様一人で、この軍勢を止めるつもりか?」
嘲笑と共に放たれた問いに、勇者は答えない。
ただ、静かに――一歩、前へ踏み出した。
その瞬間だった。
空気が裂け、地面が砕ける。
ベルギウスの巨体が、ぐしゃりと音を立てて崩れ落ちた。
否、沈んだのではない。
首は刎ね飛ばされ、胴は断ち割られ、内臓すらも地面に散乱している。
一瞬にして、完全な絶命。
「な……なにが……起きた……?」
理解が追いつく前に、第一軍は壊滅へと向かっていた。
勇者は止まらない。
数千に及ぶ魔兵を、ただ剣を振るうだけで切り裂き、叩き伏せ、蹂躙する。
数分後――
第一軍、全滅。
勇者は、血一滴浴びぬまま、次なる戦場へと歩を進めた。
第二軍の前に立ちはだかるその姿に、異様な静寂が落ちる。
「ほう……第一軍を破ったか。それは評価してやろう……が」
第二軍の将、アンデッドの傀儡王――モルトが、不気味な笑い声を響かせる。
「私はあの脳筋どもとは違う。策略と呪詛を司る王ぞ?」
返答は、ない。
勇者はただ、右手の剣をゆるやかに構えた。
「言葉が通じぬか……愚か者よ!」
魔方陣が展開され、無数の呪詛が波となって押し寄せる。
死と腐敗の魔力が、勇者を呑み込む――はずだった。
「……は?」
何も、起こらない。
次の瞬間、モルトの胸元を閃光が貫いた。
骨も肉も魂すらも、光の中で灰となって消え去る。
第二軍、壊滅。
勇者は、一歩も退かず、傷一つ負っていなかった。
「ば……ばかな……魔王様の命で……」
その言葉を、最後まで聞く者は存在しなかった。
第三軍は、空を支配する魔族の軍団だった。
黒き翼、鋼鉄の鎧。
天を裂く奇声と共に、一斉に襲いかかる。
第三の四天王、ガルダリオンが哄笑する。
「ふははは! 第一、第二がやられたとしても、我ら最強の空軍は別格よ!」
その言葉に、勇者は淡々と告げた。
「このファイエルが、空を飛べぬとでも思ったか?」
地面を蹴る。
雷鳴のような衝撃と共に、勇者の身体は空へと跳躍した。
魔力の翼すら用いず、純粋な脚力だけで雲を突き抜ける。
そして――
空を舞う魔族たちは、まるで紙屑のように切り裂かれていった。
「そ……そんな、馬鹿な……!」
ガルダリオンの恐怖が表情に浮かぶより早く、彼の身体は五つに分断されていた。
「第三軍……壊滅……?」
残されたのは、最後の第四軍。
魔界最強と噂された“黒炎の軍団”。
その将、ラザーヴは、不敵な笑みを浮かべていた。
「我らが最強。お前などに……勝ち目はない」
黒炎が大地を焼き、周囲一帯は火の海と化す。
だが勇者は、炎の中を真っ直ぐに歩く。
一歩も退かず、迷いもなく。
「お前たちが最強なら――魔界の未来は、ないな」
ラザーヴの黒炎を正面から受け止め、剣を振るう。
一閃。
大地が真っ二つに裂け、軍団ごと、黒炎の将は深淵へと呑み込まれた。
こうして、四天王の四軍は――
勇者ファイエルの手によって、文字通り“瞬殺”された。
残るのは、ただ一人。
魔王本人のみ。
勇者は、静かに剣を納めた。
夕闇が忍び寄る王国北方――国境にほど近い峡谷地帯。
切り立った岩肌に囲まれたその地を、不吉な地鳴りと共に異形の軍勢が進軍していた。
突如として魔界より出現した、魔王直属の四つの軍団。
それこそが、四天王の率いる魔軍であった。
各軍は単独で一つの都市国家を滅ぼすほどの戦力を有し、その中枢には“四天王”と呼ばれる強大な幹部が鎮座している。
数、質、指揮能力――いずれを取っても、人類側が太刀打ちできるものではない。
王国騎士団は必死の迎撃を試みた。
「だ、だめだ……押し返せない! 退け! 退けぇっ!!」
叫びは虚しく、陣形は崩壊する。
各地の守備隊は蹂躙され、街は炎に包まれ、逃げ惑う民の悲鳴が夜空に響いた。
希望は、どこにもなかった。
――そのはずだった。
そんな地獄の戦場に、ただ一人、静かに現れた男がいる。
漆黒のマントを翻し、その縁を彩る金の装飾が夕闇に鈍く輝く。
銀色の髪を風になびかせ、無言のまま歩みを進める青年。
伝説の勇者――ファイエル。
彼は、第一軍の進軍路の正面に、たった一人で立ちはだかった。
「……人間風情が」
第一軍を率いる四天王の一人、獣人系の巨漢――ベルギウスが、低く鼻を鳴らす。
「貴様一人で、この軍勢を止めるつもりか?」
嘲笑と共に放たれた問いに、勇者は答えない。
ただ、静かに――一歩、前へ踏み出した。
その瞬間だった。
空気が裂け、地面が砕ける。
ベルギウスの巨体が、ぐしゃりと音を立てて崩れ落ちた。
否、沈んだのではない。
首は刎ね飛ばされ、胴は断ち割られ、内臓すらも地面に散乱している。
一瞬にして、完全な絶命。
「な……なにが……起きた……?」
理解が追いつく前に、第一軍は壊滅へと向かっていた。
勇者は止まらない。
数千に及ぶ魔兵を、ただ剣を振るうだけで切り裂き、叩き伏せ、蹂躙する。
数分後――
第一軍、全滅。
勇者は、血一滴浴びぬまま、次なる戦場へと歩を進めた。
第二軍の前に立ちはだかるその姿に、異様な静寂が落ちる。
「ほう……第一軍を破ったか。それは評価してやろう……が」
第二軍の将、アンデッドの傀儡王――モルトが、不気味な笑い声を響かせる。
「私はあの脳筋どもとは違う。策略と呪詛を司る王ぞ?」
返答は、ない。
勇者はただ、右手の剣をゆるやかに構えた。
「言葉が通じぬか……愚か者よ!」
魔方陣が展開され、無数の呪詛が波となって押し寄せる。
死と腐敗の魔力が、勇者を呑み込む――はずだった。
「……は?」
何も、起こらない。
次の瞬間、モルトの胸元を閃光が貫いた。
骨も肉も魂すらも、光の中で灰となって消え去る。
第二軍、壊滅。
勇者は、一歩も退かず、傷一つ負っていなかった。
「ば……ばかな……魔王様の命で……」
その言葉を、最後まで聞く者は存在しなかった。
第三軍は、空を支配する魔族の軍団だった。
黒き翼、鋼鉄の鎧。
天を裂く奇声と共に、一斉に襲いかかる。
第三の四天王、ガルダリオンが哄笑する。
「ふははは! 第一、第二がやられたとしても、我ら最強の空軍は別格よ!」
その言葉に、勇者は淡々と告げた。
「このファイエルが、空を飛べぬとでも思ったか?」
地面を蹴る。
雷鳴のような衝撃と共に、勇者の身体は空へと跳躍した。
魔力の翼すら用いず、純粋な脚力だけで雲を突き抜ける。
そして――
空を舞う魔族たちは、まるで紙屑のように切り裂かれていった。
「そ……そんな、馬鹿な……!」
ガルダリオンの恐怖が表情に浮かぶより早く、彼の身体は五つに分断されていた。
「第三軍……壊滅……?」
残されたのは、最後の第四軍。
魔界最強と噂された“黒炎の軍団”。
その将、ラザーヴは、不敵な笑みを浮かべていた。
「我らが最強。お前などに……勝ち目はない」
黒炎が大地を焼き、周囲一帯は火の海と化す。
だが勇者は、炎の中を真っ直ぐに歩く。
一歩も退かず、迷いもなく。
「お前たちが最強なら――魔界の未来は、ないな」
ラザーヴの黒炎を正面から受け止め、剣を振るう。
一閃。
大地が真っ二つに裂け、軍団ごと、黒炎の将は深淵へと呑み込まれた。
こうして、四天王の四軍は――
勇者ファイエルの手によって、文字通り“瞬殺”された。
残るのは、ただ一人。
魔王本人のみ。
勇者は、静かに剣を納めた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる