永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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第4章 セクション4―復讐の魔王王子

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第4章 セクション4―復讐の魔王王子

 イソファガス領の空が、突如として暗転した。

 雲は渦を巻き、雷鳴にも似た轟音が大地を震わせる。
 空気そのものが歪み、まるで世界が悲鳴を上げているかのようだった。

 次の瞬間、狂気と憎悪に満ちた咆哮が、領内全域に響き渡る。

「キクコ・イソファガスッ!!
 今度こそ貴様を屈服させ、この王国を闇に沈めてやる!!」

 漆黒の魔力が嵐のように吹き荒れ、空間そのものを引き裂く。
 裂け目の奥から現れたのは、もはや人の形を保っていない異形の存在だった。

 かつて王太子ジルベールであった“それ”は、
 その魂を完全に喰らい尽くされ、十年前に勇者と聖女によって討たれた魔王が、
 完全なる復活を遂げた姿だった。

 瘴気が地に降り注ぎ、草木は瞬時に枯れ果てる。
 ただ立っているだけで、周囲の生命を否定する圧倒的存在。

 ――だが。

「……誰?」

 その問いは、あまりにもあっさりとしていた。

 キクコ・イソファガスは、振り返るでもなく、
 ただくるりと踵を返しながら、淡々とそう呟いた。

「な……なんだと!?
 この私の顔を忘れたというのか!?
 貴様のすべてを奪った、この魔王の姿を!!」

 怒気に満ちた叫びが再び空を震わせる。

 だがキクコは、ほんの少し首を傾げた後、思い出すように言った。

「ああ……ジルベールくん?
 ごめんなさい。最初から覚える価値のない相手だったみたい。
 記憶の棚に、すら入ってなかったわ」

「ぐ……ッ!!」

 魔王の顔――否、もはや顔とも呼べぬ歪んだ器官が、怒りに歪む。
 その感情は即座に魔力へと変換され、空気が悲鳴を上げるように振動した。

「もう許さん……!!
 今度こそ終わりだ、キクコ・イソファガス!!」

 空に漆黒の螺旋が描かれ、
 数十本もの魔力の刃が、殺意そのものの形を取って生成される。

 ――その光景を前にして。

「きゃー! 誰か助けてー!
 恐ろしい魔王が現れたわー!」

 キクコは両手を頬に当て、わざとらしく声を張り上げた。
 感情の一切こもっていない、完全な棒読みで。

「……なんてね」

 次の瞬間、何事もなかったかのように口調が戻る。

「今、お茶の時間なのよ。
 できれば次からは、ちゃんとアポイントを取って来てくれる?」

「貴様ァァアアアアアアアアア!!」

 理性を完全に失った魔王の怒号と共に、
 漆黒の刃が一斉にキクコへと襲いかかる。

 だが――

「……じゃあ、あと五秒だけ、遊んであげるわ」

 その声は、驚くほど静かだった。

 キクコの指先が、ほんのわずかに動く。

 それだけで、世界は一変した。

 無詠唱。
 同時発動。

 火、水、雷、風、土、氷。
 光と影、重力と空間。
 毒、精神、幻、音、爆破、裂断。
 そして――聖属性。

 十七種の高位魔法が、同時に解き放たれる。

 それはもはや攻撃ではなく、現象だった。

 魔王の防御結界は一瞬で崩壊し、
 肉体は分解され、魂は引き裂かれ、
 存在そのものが否定されていく。

「ぐおおおおおおおおおおおおっ……!!」

 悲鳴を上げる暇すら与えられなかった。
 黒き魔王は、悪夢が朝日に溶けるように、
 跡形もなく――完全に消滅した。

 ……そして、訪れる静寂。

 キクコは、魔法の余波で乱れたスカートを軽く払い、
 何事もなかったかのように呟いた。

「あら、ヤダ……
 五秒、オーバーしちゃったわ。
 発動してから消えるまで、五秒もかかるなんて……」

 くるりと踵を返し、扇子を開いて軽く頬を仰ぐ。

 歩調は穏やかで、気分は上々。
 そこに、戦いの疲労も、恐怖も、迷いもない。

 ただ――
 永遠の十七歳として、
 世界を静かに見守り続ける、伝説の少女の背中だけがあった。

 こうして、
 復讐の魔王王子は、再び歴史の闇へと消え去った。


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