永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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6-1 深紅の誓い

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6-1

「……どうして、こうなったのかしらね」

 鏡の前に立つキクコ・イソファガスは、深いため息をひとつ零した。

 映し出されているのは、深紅のウェディングドレスに身を包んだ自分自身。
 燃え立つような赤は決して派手ではなく、むしろ抑えられた気品を宿し、銀糸のような髪と白磁の肌を際立たせていた。
 装飾は最小限。だが、その色彩そのものが、彼女の存在を雄弁に語っている。

「赤いウェディングドレスとは……ずいぶん珍しいですね」

 背後から、落ち着いた声がかかる。

 キクコは振り返らず、鏡越しにわずかに口元を緩めた。

「これはね、自己主張よ。私はあなたの色には染まりません、っていう……最後の抵抗」

「それでいい」

 即答だった。

「貴方は、貴方のままでいてください」

 その言葉に、キクコの表情がほんの一瞬だけ揺れる。

「……そう。やっぱり赤を選んで正解だったわ」

「え?」

「赤を纏うと、三倍強くなるらしいのよ。誰かが言ってたわ。そうでもしないと、あなたに対抗できそうもないから」

「強くなるかどうかは分かりませんが……」

 一拍置いて、彼は微笑む。

「三倍、美しいとは思います」

 キクコは思わず顔を背けた。

「……貴方も、そんなこと言うのね」

「“も”? ということは、誰かにも言われたことが?」

「教えなーい」

 ふっと笑い、扇子で顔を隠す。
 その仕草は、まさに“永遠の十七歳”と称される少女のそれだった。

「秘密があったほうが、女は魅力的でしょう?」

「キクコ様には、秘密がなくても十分魅力的です。だから、教えてください」

「教えなーい。ほら、もう入場の時間よ」

 その言葉に呼応するように、扉の向こうから宮廷楽団の演奏が流れ込んできた。
 荘厳な結婚行進曲が、王宮の回廊に静かに満ちていく。

 キクコは深紅のドレスの裾を少しつまみ、くるりと一回転してみせる。

「さ、いくわよ。国王陛下」

「……はい。私の妃、キクコ・イソファガス様」

 互いの手が重なった、その瞬間。

 重厚な扉がゆっくりと開かれ、祝福の光が二人を包み込んだ。


---

 入場の時が迫る。

 赤いウェディングドレスの裾を整えながら、キクコは小さくぶつぶつと呟いていた。

「どうしてこうなったのかしら……。いや、わかってるわよ。全部、あの暴走国王のせい。なんで私が、こんな大舞台で、しかも主役の一人なのよ」

 付き添いの侍女たちは、必死に笑いをこらえながら、最後の仕上げを施している。

「でもまあ……」

 大きく深呼吸し、鏡に映る自分を見つめた。

 深紅のドレスは、彼女をまるで舞台の女王のように見せていた。

「ここまで来たら、笑うしかないわね……。ふふ、いいわ。やってやろうじゃないの」

 城の扉が、静かに開かれる。

 柔らかな音楽が会場へと流れ込み、満場の来賓が一斉に振り返った。

 そして——
 キクコが一歩、会場へ足を踏み入れた瞬間。

「……っ」
「なんて美しい……」
「赤のドレスが、あんなに映えるなんて……」
「まるで、女神様だ……」

 ため息混じりの賞賛が、波のように広がっていく。

 キクコは、先ほどまでの皮肉も呟きもすべて胸の奥にしまい込み、完璧な微笑を浮かべていた。
 それは、王国の式典にふさわしい、完成された“ヒロイン”の笑み。

(……まさか、私が本当にこの舞台に立つ日が来るなんてね)

 隣には、正装に身を包んだアルフェリット新国王。
 堂々としたその姿で、彼はキクコの手を取り、長い絨毯の上を歩き始める。

「お似合いの美男美女だ……」
「キクコ様が、あんな幸せそうなお顔を……」
「本当に、お似合いです」

 祝福の声が、鐘の音のように耳へと届く。

 キクコは、ふと視線を上げた。
 ステンドグラスから降り注ぐ光が、二人を優しく照らしている。

 心のどこかで、思った。

 これもまた、平穏な日常なのだと。

 魔王を倒し、世界を救い、数えきれない戦いを越えてきた。
 それらすべてが、彼女の人生だった。

 けれど——
 今この瞬間、彼女はただ一人の人間として、誰かの隣に立っている。

 派手な魔法も、命を賭けた戦いもない。
 ただ、祝福の中を歩くだけの時間。

(……案外、悪くないわね)

「キクコ様」

 アルフェリットが小さく囁く。

「緊張していますか?」

「いいえ。むしろ退屈するかと思ってたくらいよ」

「それは良かった。……実は、私のほうが少し緊張しています」

「それは困るわね。国王がガチガチだったら、妃として立つ瀬がないもの」

 微笑み合う二人。

 祭壇へと近づき、誓いの言葉が交わされる直前——
 キクコは、アルフェリットの手の温もりに意識を向けた。

 温かい。
 確かな鼓動。

 それは、魔法でも奇跡でもない。
 ただ、一人の男と女が手を取り合っているだけの現実。

(……たしかに、これは今の私にとって——一つの幸福なのかもしれないわね)

 式典の鐘が高らかに鳴り響き、王宮全体を祝福の音が包み込んだ。

 こうして、
最も自由な花嫁は、
最も自由な王とともに、新たな日常へと歩み始めたのだった。


---

次は
▶ 6-2:王妃生活初日(想像以上に放任される)
▶ 6-3:民衆が思っていた王妃像と違いすぎ問題

どちらへ進めましょうか?
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