永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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第六章 エピローグ:陽だまりの花嫁

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第六章 エピローグ:陽だまりの花嫁

 

 城の中庭は、昼下がりの柔らかな陽射しに満ちていた。
 咲き誇る花々の色彩と、新緑の葉が風にそよぎ、穏やかな光景を描いている。

 その一角、テラスに置かれた白い椅子に腰かけ、キクコ・イソファガスはぼんやりと空を仰いでいた。

 深紅のウェディングドレスはもうない。
 今日の彼女は、やわらかなクリーム色のワンピース姿だ。
 結婚式からしばらくが経ち、王宮には“日常”と呼べる時間が戻ってきていた――はずだった。

 

「妃が、こんなに陽の当たる場所へ出てくるとは思っていませんでした」

 

 不意に、背後から声がかかる。
 聞き慣れた、そして嫌というほど印象に残る声。

 アルフェリット・ロワイヤル。
 現国王にして、彼女の夫。
 そして、暴走気味の自分ファースト王である。

 

「貴女のような美しい方が、山の山荘で隠遁生活など……どう考えても似合いませんよ」

 

 キクコは小さくため息をつき、紅茶のカップを持ち上げた。

 

「……山荘で静かに暮らすのが、私の理想だったのだけれど」

 

 紅茶を一口含み、ゆっくりと喉を潤す。
 結婚したことで、その理想は見事に吹き飛んだ。

 今や彼女は王妃。
 かつてないほど、目立つ場所、陽の当たる場所に立っている。

 

「結婚する前にね、呪いを解いて……普通に時の流れを過ごせるようになりたかったわ」

 

 ぽつりと漏れた本音。

 

「それは困る」

 

「……は?」

 

 あまりにも即答だった。
 思わずキクコの眉が、ぴくりと跳ね上がる。

 

「貴女が普通に歳を取る姿など、私は見たくありません。永遠に十七歳でいてほしい。それが、私の幸せです」

 

 まったく悪びれる様子もなく、真顔で言い切るアルフェリット。
 あまりの言い草に、キクコは紅茶を吹き出しかけた。

 

「私は、幸せなんかじゃありませんけど?」

 

 永遠の十七歳であり続ける呪い。
 見た目は変わらずとも、周囲の人々は老いていく。
 新しい出会いがあっても、別れは必ず訪れる。

 それは、孤独と紙一重の人生だった。

 

「普通、女性は永遠の美を欲したりするものでしょう?」

 

「それは幻想を抱いている間だけよ。実際に手に入れてしまうと……案外、がっかりすることのほうが多いの」

 

 キクコは紅茶のカップをテーブルに戻し、肩をすくめた。

 本当に、こんな人生になるなんて。
 誰が想像しただろうか。

 

「ですが、私の幸せが最優先ですので。呪いを解くことは禁じます」

 

「……横暴ですわね、この横暴王」

 

「ふむ。“暴走君横暴王”……なかなか良いネーミングじゃないですか。採用しましょう」

 

「本当に、いい根性してるわね」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてない!」

 

 紅茶のカップが、テーブルの上で小さく跳ねた。
 けれどキクコの口元には、すでにあの皮肉交じりの微笑が戻っている。

 

 この国の王と妃は、どこまでもマイペースで、どこまでも自由。

 だが、そんな自由な二人が治める王国は、意外なほど安定し、穏やかに繁栄していった。

 

 ――“永遠の十七歳”と“自分ファースト王”。

 少しズレていて、少し騒がしくて、
 それでも確かに温かい。

 そんな王国の、ちょっと幸せな日常は、
 こうして静かに始まったのである。


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