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第9話 公式発表――取り消されたのは、信頼だった
第9話 公式発表――取り消されたのは、信頼だった
王城の鐘が鳴り、臨時の集会が告げられた。
その音を聞いた瞬間、ケーニグセグ王太子は嫌な予感を覚えた。
胸の奥で、冷たいものが広がる。
(……まさか)
執務室にいた側近が、硬い表情で告げる。
「殿下。謁見の間へ。
本日、正式な発表があるとのことです」
「……誰の?」
問い返した声は、思った以上に掠れていた。
「……ハルヴァン伯爵家から、です」
その一言で、すべてを察した。
謁見の間には、すでに多くの貴族が集まっていた。
重臣、騎士団長、外交使節。
そして――国王。
視線が、一斉にケーニグセグへ向けられる。
同情も、期待もない。
ただの、確認。
国王が、ゆっくりと口を開いた。
「本日は、王太子の婚約に関する件について、
正式な報告がある」
会場が、静まり返る。
前に進み出たのは、ハルヴァン伯爵だった。
落ち着いた佇まい。
だが、その目には、はっきりとした決意が宿っている。
「ハルヴァン伯爵家は――」
一呼吸。
「王太子ケーニグセグ殿下との婚約話を、
辞退いたします」
言葉は、簡潔だった。
どよめきは起きない。
誰もが、予想していたからだ。
「理由を、述べさせていただきます」
伯爵は、まっすぐ前を見据える。
「我が娘ルイーゼは、殿下を尊敬しようと努めました」
「ですが――」
視線が、わずかにケーニグセグを掠めた。
「信頼することができませんでした」
その言葉が、謁見の間に落ちる。
「殿下は、
危機に際して守る意思を示されなかった」
「それは、一度や二度の過ちではございません」
重臣の何人かが、小さく頷いた。
「我が娘は、
“同じ立場に立った時、自分も見捨てられる”
そう確信したと申しております」
伯爵は、淡々と告げる。
「以上の理由から、
この縁談を受けることはできません」
国王が、静かに確認する。
「……それは、正式な意思か」
「はい」
迷いはなかった。
ケーニグセグは、何も言えなかった。
喉が、動かない。
(……違う)
そう叫びたかった。
だが、
違わなかった。
国王は、重く息を吐く。
「承知した」
短い言葉だった。
「この件は、
王太子側の不徳による婚約不成立
として記録される」
その瞬間、
何かが決定的に崩れた。
会議が終わり、人々が散っていく。
残されたケーニグセグは、玉座の前で立ち尽くしていた。
「……殿下」
側近が、声をかける。
「これ以上、事を荒立てぬ方が……」
「……分かっている」
そう答えながら、
心の中では、何も分かっていなかった。
(なぜだ)
自分は、選ぶ立場のはずだった。
断る側で、断られる側ではない。
なのに。
(……なぜ、誰も私を信じない)
その答えは、
すでに何度も示されている。
だが、彼は受け入れられなかった。
その日の夕方。
城内外に、一斉に通達が出された。
――王太子ケーニグセグ、
再び婚約不成立。
噂は、瞬く間に広がる。
「また?」
「やっぱり、問題があるのよ」
「今度は、逆に断られたんですって」
社交界の評価は、容赦なかった。
“選ばれない王太子”
“守らない男”
“言葉だけの責任者”
もはや、弁明の余地はない。
一方、帝国。
皇城の一室で、ビアンキーナは書簡を読んでいた。
内容は、簡潔だ。
――王太子、再婚約失敗。
――伯爵家より、正式辞退。
私は、そっと紙を閉じた。
(……そう)
胸の奥に、波紋は広がらなかった。
驚きも、怒りもない。
ただ――。
(私は、戻る場所を失ったんじゃない)
そう、理解した。
(……もう、戻る理由がない)
皇帝の言葉が、脳裏をよぎる。
――選べ。
今なら、その意味が少し分かる。
王国では、
私は“捨てられた婚約者”であり、
“守られなかった女”だった。
だが、帝国では。
(……私は、価値を問われている)
誰かの都合ではなく、
私自身の意思として。
窓の外で、夕陽が沈む。
王太子ケーニグセグは、
この日を境に、
二度と「未来の王」として語られなくなった。
それが、
公式に下された評価だった。
王城の鐘が鳴り、臨時の集会が告げられた。
その音を聞いた瞬間、ケーニグセグ王太子は嫌な予感を覚えた。
胸の奥で、冷たいものが広がる。
(……まさか)
執務室にいた側近が、硬い表情で告げる。
「殿下。謁見の間へ。
本日、正式な発表があるとのことです」
「……誰の?」
問い返した声は、思った以上に掠れていた。
「……ハルヴァン伯爵家から、です」
その一言で、すべてを察した。
謁見の間には、すでに多くの貴族が集まっていた。
重臣、騎士団長、外交使節。
そして――国王。
視線が、一斉にケーニグセグへ向けられる。
同情も、期待もない。
ただの、確認。
国王が、ゆっくりと口を開いた。
「本日は、王太子の婚約に関する件について、
正式な報告がある」
会場が、静まり返る。
前に進み出たのは、ハルヴァン伯爵だった。
落ち着いた佇まい。
だが、その目には、はっきりとした決意が宿っている。
「ハルヴァン伯爵家は――」
一呼吸。
「王太子ケーニグセグ殿下との婚約話を、
辞退いたします」
言葉は、簡潔だった。
どよめきは起きない。
誰もが、予想していたからだ。
「理由を、述べさせていただきます」
伯爵は、まっすぐ前を見据える。
「我が娘ルイーゼは、殿下を尊敬しようと努めました」
「ですが――」
視線が、わずかにケーニグセグを掠めた。
「信頼することができませんでした」
その言葉が、謁見の間に落ちる。
「殿下は、
危機に際して守る意思を示されなかった」
「それは、一度や二度の過ちではございません」
重臣の何人かが、小さく頷いた。
「我が娘は、
“同じ立場に立った時、自分も見捨てられる”
そう確信したと申しております」
伯爵は、淡々と告げる。
「以上の理由から、
この縁談を受けることはできません」
国王が、静かに確認する。
「……それは、正式な意思か」
「はい」
迷いはなかった。
ケーニグセグは、何も言えなかった。
喉が、動かない。
(……違う)
そう叫びたかった。
だが、
違わなかった。
国王は、重く息を吐く。
「承知した」
短い言葉だった。
「この件は、
王太子側の不徳による婚約不成立
として記録される」
その瞬間、
何かが決定的に崩れた。
会議が終わり、人々が散っていく。
残されたケーニグセグは、玉座の前で立ち尽くしていた。
「……殿下」
側近が、声をかける。
「これ以上、事を荒立てぬ方が……」
「……分かっている」
そう答えながら、
心の中では、何も分かっていなかった。
(なぜだ)
自分は、選ぶ立場のはずだった。
断る側で、断られる側ではない。
なのに。
(……なぜ、誰も私を信じない)
その答えは、
すでに何度も示されている。
だが、彼は受け入れられなかった。
その日の夕方。
城内外に、一斉に通達が出された。
――王太子ケーニグセグ、
再び婚約不成立。
噂は、瞬く間に広がる。
「また?」
「やっぱり、問題があるのよ」
「今度は、逆に断られたんですって」
社交界の評価は、容赦なかった。
“選ばれない王太子”
“守らない男”
“言葉だけの責任者”
もはや、弁明の余地はない。
一方、帝国。
皇城の一室で、ビアンキーナは書簡を読んでいた。
内容は、簡潔だ。
――王太子、再婚約失敗。
――伯爵家より、正式辞退。
私は、そっと紙を閉じた。
(……そう)
胸の奥に、波紋は広がらなかった。
驚きも、怒りもない。
ただ――。
(私は、戻る場所を失ったんじゃない)
そう、理解した。
(……もう、戻る理由がない)
皇帝の言葉が、脳裏をよぎる。
――選べ。
今なら、その意味が少し分かる。
王国では、
私は“捨てられた婚約者”であり、
“守られなかった女”だった。
だが、帝国では。
(……私は、価値を問われている)
誰かの都合ではなく、
私自身の意思として。
窓の外で、夕陽が沈む。
王太子ケーニグセグは、
この日を境に、
二度と「未来の王」として語られなくなった。
それが、
公式に下された評価だった。
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