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第11話 皇帝の隣に立つということ
第11話 皇帝の隣に立つということ
翌朝、城内の空気が、どこか違っていた。
目覚めてすぐにそれを感じたのは、気のせいではない。
いつもと同じ部屋、同じ調度品、同じ静けさ。
それなのに――
城そのものが、少しだけ“張り詰めて”いる。
「お目覚めでございますか、ビアンキーナ様」
メイドの声も、いつもより引き締まっている。
「本日は、陛下よりお呼びでございます」
「……私が?」
「はい。謁見の間へ」
胸の奥で、小さく音が鳴った。
(……来たわね)
いつかは来ると思っていた。
ただ、“今日”だとは思っていなかっただけだ。
身支度を整えながら、私は自分の立場を考える。
私は客人だ。
だが、囚人ではない。
保護されている。
だが、自由がないわけではない。
――中途半端。
それが、今の私の立ち位置だった。
謁見の間へ向かう回廊は、やけに長く感じられた。
扉の前に立つと、護衛が静かに開ける。
中に入った瞬間、視線が集まった。
皇帝シボレー・ノヴァ。
その左右に、重臣たち。
見覚えのない高官や将軍の姿もある。
(……これは)
個人的な呼び出しではない。
公式の場だ。
「ビアンキーナ・アヴェンタドール」
皇帝が、私の名を呼ぶ。
「前へ」
一歩、進み出る。
背中に、数えきれない視線を感じる。
皇帝は、私を見下ろす位置に立っていた。
だが、その視線は、評価するものではない。
確認だ。
「昨夜の話を、覚えているな」
「はい」
「選ぶ時間を与えると言った」
私は、息を吸う。
「……覚えています」
皇帝は、静かに頷いた。
「結論は急がせぬ。
だが、帝国としての立場を曖昧にしたまま、
お前を置いておくわけにもいかん」
重臣の一人が、一歩前に出る。
「現在、王国では――
アヴェンタドール公爵令嬢の処遇について、
“帝国の意向”を探る動きが活発化しております」
(……やっぱり)
私が不要になったのではない。
取り戻せるかもしれない“駒”として、見られている。
「曖昧なままでは、
お前が再び利用される」
皇帝の声が、少し低くなる。
「それは、許さぬ」
その一言で、場の空気が決定的に変わった。
「よって、宣言する」
皇帝は、はっきりと言った。
「本日より、
ビアンキーナ・アヴェンタドールは――
帝国皇帝の庇護下にある存在とする」
ざわり、と空気が揺れる。
それは、保護宣言。
同時に、牽制。
「帝国の許可なく、
彼女に接触することを禁ずる」
つまり――
王国は、もう勝手に私を呼び戻せない。
私は、気づかぬうちに拳を握っていた。
(……退路が、消えた)
だが、不思議と恐怖はなかった。
皇帝は、私を見下ろす。
「これは、強制ではない」
「……はい」
「だが、帝国に身を置く以上、
責任も生じる」
その言葉に、私は顔を上げた。
「私は……」
一瞬、迷い。
だが、はっきりと言う。
「守られるだけの立場は、望みません」
場が、静まる。
「役割があるなら、果たします」
それは、昨日の夜に決めたことだった。
「利用されるのではなく、
自分の意思で立ちます」
皇帝は、じっと私を見つめた。
長い沈黙。
やがて、低く笑う。
「……いい覚悟だ」
そして、告げる。
「ならば、しばらくは
“皇帝の隣に立つ者”として学べ」
その言葉は、重かった。
装飾でも、慰みでもない。
後継でも、妃でもない。
だが、無関係でもない。
絶妙な位置。
私は、深く一礼した。
「承知いたしました」
その瞬間、
私は“客人”ではなくなった。
帝国の中で、
名前を持つ存在になったのだ。
謁見の間を出たあと、
背後から囁く声が聞こえた。
「……あの令嬢、ただ者ではないな」
「攫われた被害者、では終わらない」
私は、歩みを止めなかった。
(……終わらせない)
選ばれるのではない。
自分で選ぶ。
それが、
皇帝の隣に立つということなのだ。
翌朝、城内の空気が、どこか違っていた。
目覚めてすぐにそれを感じたのは、気のせいではない。
いつもと同じ部屋、同じ調度品、同じ静けさ。
それなのに――
城そのものが、少しだけ“張り詰めて”いる。
「お目覚めでございますか、ビアンキーナ様」
メイドの声も、いつもより引き締まっている。
「本日は、陛下よりお呼びでございます」
「……私が?」
「はい。謁見の間へ」
胸の奥で、小さく音が鳴った。
(……来たわね)
いつかは来ると思っていた。
ただ、“今日”だとは思っていなかっただけだ。
身支度を整えながら、私は自分の立場を考える。
私は客人だ。
だが、囚人ではない。
保護されている。
だが、自由がないわけではない。
――中途半端。
それが、今の私の立ち位置だった。
謁見の間へ向かう回廊は、やけに長く感じられた。
扉の前に立つと、護衛が静かに開ける。
中に入った瞬間、視線が集まった。
皇帝シボレー・ノヴァ。
その左右に、重臣たち。
見覚えのない高官や将軍の姿もある。
(……これは)
個人的な呼び出しではない。
公式の場だ。
「ビアンキーナ・アヴェンタドール」
皇帝が、私の名を呼ぶ。
「前へ」
一歩、進み出る。
背中に、数えきれない視線を感じる。
皇帝は、私を見下ろす位置に立っていた。
だが、その視線は、評価するものではない。
確認だ。
「昨夜の話を、覚えているな」
「はい」
「選ぶ時間を与えると言った」
私は、息を吸う。
「……覚えています」
皇帝は、静かに頷いた。
「結論は急がせぬ。
だが、帝国としての立場を曖昧にしたまま、
お前を置いておくわけにもいかん」
重臣の一人が、一歩前に出る。
「現在、王国では――
アヴェンタドール公爵令嬢の処遇について、
“帝国の意向”を探る動きが活発化しております」
(……やっぱり)
私が不要になったのではない。
取り戻せるかもしれない“駒”として、見られている。
「曖昧なままでは、
お前が再び利用される」
皇帝の声が、少し低くなる。
「それは、許さぬ」
その一言で、場の空気が決定的に変わった。
「よって、宣言する」
皇帝は、はっきりと言った。
「本日より、
ビアンキーナ・アヴェンタドールは――
帝国皇帝の庇護下にある存在とする」
ざわり、と空気が揺れる。
それは、保護宣言。
同時に、牽制。
「帝国の許可なく、
彼女に接触することを禁ずる」
つまり――
王国は、もう勝手に私を呼び戻せない。
私は、気づかぬうちに拳を握っていた。
(……退路が、消えた)
だが、不思議と恐怖はなかった。
皇帝は、私を見下ろす。
「これは、強制ではない」
「……はい」
「だが、帝国に身を置く以上、
責任も生じる」
その言葉に、私は顔を上げた。
「私は……」
一瞬、迷い。
だが、はっきりと言う。
「守られるだけの立場は、望みません」
場が、静まる。
「役割があるなら、果たします」
それは、昨日の夜に決めたことだった。
「利用されるのではなく、
自分の意思で立ちます」
皇帝は、じっと私を見つめた。
長い沈黙。
やがて、低く笑う。
「……いい覚悟だ」
そして、告げる。
「ならば、しばらくは
“皇帝の隣に立つ者”として学べ」
その言葉は、重かった。
装飾でも、慰みでもない。
後継でも、妃でもない。
だが、無関係でもない。
絶妙な位置。
私は、深く一礼した。
「承知いたしました」
その瞬間、
私は“客人”ではなくなった。
帝国の中で、
名前を持つ存在になったのだ。
謁見の間を出たあと、
背後から囁く声が聞こえた。
「……あの令嬢、ただ者ではないな」
「攫われた被害者、では終わらない」
私は、歩みを止めなかった。
(……終わらせない)
選ばれるのではない。
自分で選ぶ。
それが、
皇帝の隣に立つということなのだ。
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