『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾

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第3話 「家へ戻れば地獄」

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 王宮で壮大な“悲劇のヒロイン劇場”を終えたリオネッタは、その日の午後、馬車に揺られて実家エルバーナ公爵家へ戻っていた。

(ふぅ……やっと家に帰れるわ。あとは荷物をまとめて、悠々自適のスローライフへ一直線!)

 心は軽やか。頬が自然とゆるむ。

 だが――彼女は知らなかった。

 実家に帰るということは、“別の地獄のステージ”に突入するということを。

 屋敷に着くと、玄関で出迎えたのは冷えきった視線を向ける父と母だった。

「……戻ったのね、リオネッタ」

 母は細い眉を寄せ、あからさまに溜息をついた。

「婚約破棄された令嬢が、よく堂々と帰ってこられたものだわ」

(あ、これだ。久々に聞く“毒のある親の声”ね)

 リオネッタは平静を保ちながらドレスの裾を整えた。

「ただいま戻りました。お騒がせして申し訳ございません」

「騒がせた、ですって?」
 父が声を荒げる。まるで“娘に失敗された=家の恥”と決めつけている目だ。

「お前が婚約破棄されたせいで、社交界でどれほど噂になっていると思っている!
 王太子殿下に捨てられる公爵令嬢など、前代未聞だ!」

「そうよ。あなたが“完璧にふるまいすぎた”せいでしょ?」
 母はきつい口調で吐き捨てる。

(ああ、はいはい。始まりました、いつもの“娘のせいパレード”……)

 リオネッタの胸の奥に、冷えた痛みが広がる。家族なのに、彼らの言葉はいつも他人より冷たい。

「……私は、殿下のお望みに沿えなかっただけです。性格の不一致というやつですわ」

「言い訳など聞きたくない!」
 父の拳が机を叩くように震えた。

「お前は王家に嫁ぐことで家に恩を返すはずだった!
 それを台無しにした以上、責任を取ってもらう!」

「責任……?」
 リオネッタが眉をひそめる。

「そうよ。あなたを次にどこへ嫁がせるか、もう私たちで決めたわ」
 母が冷笑する。

(……は?)

 リオネッタは言葉を失った。

「ちょっと待ってくださいませ。私はまだ――」

「黙りなさい、リオネッタ」
 父の声が鋭く遮る。

「お前に選択肢などない。エルバーナ家の娘なのだからな」

(あ~~~これだから嫌なのよ、この家!)

 リオネッタは内心で頭を抱えるが、外では淑女の微笑みを保つ。

 だが、その笑みが少しだけ震えた。

「リオネッタ様……!」

 その声に振り返ると、侍女ミーナが泣きそうな目で駆け寄ってきた。

「お帰りになられたと聞いて……!」

 ミーナは両手でリオネッタの手をぎゅっと握りしめる。

 彼女だけは、どんな時もリオネッタの味方だった。

「お嬢様が……どれほど努力してきたか、私は知っています。
 どうか、ご自分を責めないでくださいませ……!」

 その言葉を聞いた瞬間、リオネッタの胸に熱いものが込み上げた。

(ああ……帰ってきたのは地獄だけど……それでも、ミーナがいてくれてよかった)

 だが、父母からの追撃は止まらない。

「リオネッタ、明日には次の縁談候補の家と会談する。準備しておけ」

「婚約破棄の傷物になった以上、条件は落ちるわよ? 覚悟しておきなさい」

(……ぜっったい、この家から出てやる)

 リオネッタの心に、今までで一番強い決意が宿った。

 王太子の婚約破棄よりも、家の圧よりも、彼女の人生はもっと自由で幸せであっていい。

 その夜――。

 静かな寝室で、リオネッタはひとり窓の外を見つめていた。

(私は、誰かのために生きているんじゃない)

(もう、誰の期待にも縛られない)

 そして、そっと拳を握る。

(“婚約破棄ざまぁ”を達成するのは……これからの私)

 満月の光が静かに彼女を照らしていた。
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