『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾

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第6話「実家の大反対」

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 翌朝、リオネッタが朝食を終えるよりも早く、父エルバーナ公爵が執務室から使いを寄越してきた。

「お前に確認したいことがある」とだけ。

 無駄に仰々しい呼び出しにリオネッタが向かうと、父と母が重苦しい空気の中で待っていた。兄も珍しく揃っている。

(あら、珍しく“家族会議”ですこと)

 嫌な予感は、見事に的中した。

「お前、アイザック伯爵家と結婚するつもりか?」

 父の言葉に、リオネッタは少しも動じず、にこりと微笑んだ。

「ええ、“白い結婚”という形式であれば、前向きに考えていますわ」

 その瞬間、父の眉が跳ね上がり、母が卓を叩いた。

「ふざけるのはおやめなさい!」

「“婚約破棄された娘を拾うような男”に、エルバーナ家の名を渡すつもりはない!」

 母の声が一段高く響いたが、リオネッタは微動だにしなかった。

「ご心配なく。私は“エルバーナ家の名”など、とうの昔に返したつもりですわ。あとはご自由に、お家の体面でも守っていてくださいな」

 その冷ややかな物言いに、母の顔が怒りで染まる。

「なんという口の利き方! まるで、勘当されたがっているような……!」

「ええ、していただけるなら助かります。伯爵家にお世話になる予定なので、無一文でも構いません」

 父が立ち上がり、重く言い放った。

「……娘である限り、お前には“義務”がある。エルバーナ家は、お前を手放さん」

(きた、拘束発言)

 リオネッタがため息をつこうとした、その時――。

「それなら、迎えにあがりました」

 応接間の扉がバンッと開いた。

 その入り口に、陽光を背負って立っていたのは――

「ご無礼を承知で参上しました。アイザック伯爵家長男、クリストファーです」

 公爵家の騎士たちが一瞬手を伸ばしかけたが、同行していた騎士団長らしき男が手で制した。

「この館での不当な拘束が行われる可能性を考慮し、騎士を連れて参りました」

「なんだと……!」

 父の顔が怒りで真っ赤に染まる。

 だがクリスは真っ直ぐにリオネッタを見つめ、ゆっくりと手を差し出した。

「リオネッタ様。貴女の意思で、私たちの元へ来ていただけますか?」

 一瞬の沈黙ののち、リオネッタは笑った。

 完璧な、貴族令嬢の微笑みを浮かべて。

「ええ、参ります。公爵家の令嬢としてではなく、一人の人間として」

 その言葉に、父は激怒し、母は顔を覆い、兄はため息をついた。

 けれど、それらはすべて、もう関係のないことだった。

 リオネッタは堂々と立ち上がり、クリスの手を取り――

「さようなら、お父様。お母様。……どうぞ、家名の誇りはご自身でお守りくださいませ」

 そうして、エルバーナ公爵邸を後にした。

 陽光の中、彼女のドレスの裾が、風にひるがえる。

 その背中は、誰にも縛られない、自由そのものだった。


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