『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾

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第36話「リリィの救済」

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王都、王太子の私邸――

かつて“平民から王子の恋人”という夢のような扱いを受けた少女リリィは、
いまやその屋敷の奥で、誰にも会わず暮らしていた。

(こんなはずじゃ……なかったのに)

あの頃は信じていた。
好きと言ってくれた言葉も、幸せにすると言った手も。

でも今は――

「お前のせいで全部狂ったんだ!」

怒鳴る声、荒れる手、外出の許されない日々。
そして何より恐ろしかったのは、“愛情という名の支配”だった。

リリィは気づいてしまった。

(私、ただ……お人形みたいに扱われていただけだったんだ)

涙も、声も、出なかった。
けれど――

* * *

「リオネッタ様が王都にいらしていたって……本当なんですか?」

ある日、屋敷に仕えていた女中のひとりが、そっと耳打ちした。

「本当です。しかも今は、伯爵家の婚約者としてご活躍中とか」

その言葉を聞いたとき――

(……会いたい)

心が初めて、強く動いた。

* * *

それから二日後、王都郊外の修道院。

「どうしてここが……?」

「わたくしが連絡いたしました」

そう答えたのは、リオネッタだった。

対面したリリィは、すっかりやつれ、怯えたままだったが――

リオネッタは、そっと彼女の手を取った。

「大丈夫。もう、誰もあなたを縛らないわ」

「わたし……わたし、あなたのこと……ひどい人だと思ってました……!」

「ええ、そうでしょうね。でも、あなたは悪くない。誰かに“信じて”しまっただけだもの」

「どうして……そんなに優しくしてくれるんですか……?」

リオネッタは、かすかに微笑んだ。

「私も昔、似たような立場だったから。
 “いい子でいなきゃいけない”って思っていた。
 でも、そんな場所から抜け出したとき、ようやく自由になれたのよ」

リリィの目から、ぼろぼろと涙がこぼれた。

「……私も……自由になりたい……!」

「だったら、一緒に来ましょう。
 あなたがやり直したいと思うなら、私のいる場所で支えます」

 その手を、リリィは――強く、握り返した。

* * *

その後、リリィはリオネッタとともに伯爵領へと移った。

始まりは、ただの“避難”だったかもしれない。
けれど、花のように消えかけていた彼女の表情は、
少しずつ、確かに光を取り戻しはじめていた。


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