『婚約破棄された令嬢、白い結婚で第二の人生始めます ~王太子ざまぁはご褒美です~』

鷹 綾

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第39話「正式な求婚」

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夜風が涼やかな、満月の晩。
静かな庭園には、香り高い花々が月光を浴び、幻想的に輝いていた。

リオネッタは、ひとりベンチに腰掛けて、夜空を見上げていた。

(こうして過ごせる日常が……あんな婚約破棄のあとに待っていたなんて)

(人生って、わからないものですわね)

 と、そのとき。

「リオネッタ」

 振り返ると、少し息を弾ませたクリスが立っていた。

「……クリス様?」

「今夜、君に話したいことがあって……少し、いいかい?」

「ええ。もちろんです」

 彼は、まっすぐ彼女の前に立ち、深呼吸した。

「僕たちは“白い結婚”として始まった。
 君の自由を守ることが、僕の役目だった」

 リオネッタは静かにうなずく。

「けれど、君がこの伯爵領で笑い、働き、人に愛されていくのを見て――
 僕は気づいたんだ。
 ……君の隣に、“ただ守るだけの男”では、いられないって」

「……」

「リオネッタ。君が望むなら、白いままでも構わない。
 けれど、僕の気持ちは……もう、隠せない」

 彼は胸元から、小さなケースを取り出した。
 そこには、派手すぎない、けれど繊細な細工の指輪が入っていた。

「リオネッタ・エルンスト。君を心から愛している。
 もし、僕と“本当の夫婦”になってくれるなら――この指輪を、受け取ってほしい」

 彼女の目が、かすかに揺れた。

 それから、ゆっくりと彼女は立ち上がり、彼の手を取る。

「……あの時、私は婚約破棄されて、“もう誰のものにもならない”って、そう決めていたのに」

「……」

「でも、あなたのそばにいて……気づいてしまったの。
 ――“誰かと生きること”って、こんなにあたたかいのね」

 そして、涙をこぼしながら微笑んだ。

「はい。喜んで、お受けします。……愛しています、クリス様」

* * *

「よっっしゃぁぁぁぁあああああ!!!!!」

屋敷の影から控えめな絶叫が響いた。

「ミーナ……!? 見てたの!?」

「まさか。ごくごく偶然です。偶然! 超偶然ですとも!」

 だが、その手には花束と祝杯用のグラスが握られていたのだった。


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