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第8話 実家からの手紙と、教会の影
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第8話 実家からの手紙と、教会の影
開店から一ヶ月が過ぎ、店はルヴェリアの名物として完全に定着していた。
朝の開店前から行列ができ、夕方には在庫がなくなるのが日常になった。
マジックポッキーは特に人気で、冒険者たちが「ダンジョン必須アイテム」と呼ぶほど。
ライアンは、毎日のように顔を出し、時には材料の運搬を手伝ってくれる。
エレナやガレンら他の上位冒険者たちも常連になり、店は笑い声で溢れていた。
この日、閉店後の工房で新商品の試作をしていると、ドアの前に一通の手紙が置かれていた。
封蝋にはエルグランド家の紋章。
父からのものだ。
私は、キッチンのテーブルに座り、手紙を開いた。
『アプローズ
お前の店が辺境で騒ぎを起こしていると聞いた。
回復クッキーが教会のポーションを凌駕しているなど、ありえぬ話だ。
すぐに店を閉め、王都に戻れ。
アルテアが困っている。
教会から「エルグランド家の秘伝のクッキー」を正式に献上するよう求められている。
お前が作らなければ、アルテアの王太子妃の座が危うくなる。
レシピを教会に献上し、店を畳めば、追放を許してやる。
実家に戻って、アルテアを支えろ。
それが娘としての務めだ。
ガルハルト・フォン・エルグランド』
手紙を読み終え、私は静かに折りたたんだ。
アルテアが困っている?
私が追放されたのは、アルテアを王太子妃にするためだったのに。
実家で私が作っていたクッキーは、アルテアの阻害を受けながらも教会のポーションを超えていた。
それなのに、今さら私のレシピを欲しがる。
私は、手紙をゴミ箱に捨てた。
もう、戻らない。
この店が、私の居場所だ。
翌朝、店を開けると、ライアンがいつもより早く来ていた。
「アプローズ、顔色が悪いな。何かあったか?」
私は、笑って首を振った。
「少し、寝不足です」
本当は、手紙のことが胸に引っかかっていた。
ライアンは、クッキーを食べながら言った。
「王都から、教会の司祭がこの街に来てるらしい。噂では、回復アイテムの調査だとか」
私は、どきりとした。
教会が、動き始めた。
実家と連携して、私を引き戻そうとしているのかもしれない。
昼過ぎ、店が混み合っている時。
一人の男が、店に入ってきた。
教会の司祭服を着た中年男。
表情は厳しく、周囲の冒険者たちがざわついた。
「ここが、異端の菓子を売る店か」
司祭は、私に近づき、低い声で言った。
「アプローズ・フォン・エルグランドだな。教会本部から来た。お前の菓子は、神の奇跡を冒涜している。即刻販売を止め、レシピを献上せよ」
店内が静まり返った。
冒険者たちが、司祭を睨み始めた。
ライアンが、カウンターの前に立った。
「教会のポーションが高くて苦いから、みんなこっちを選んでるだけだ。異端なんて、笑わせるな」
司祭が、顔を赤くした。
「黙れ! これは神の教えに反する!」
私は、静かに答えた。
「このクッキーは、私の力で作ったものです。誰にも渡しません」
司祭は、悔しげに私を睨んだ。
「……後悔するぞ。王都の本部が動けば、この街ごと制裁が下る」
そう言い残し、去っていった。
店内が、怒りの声で溢れた。
「教会の連中、売上が減って焦ってるだけだろ!」
「アプローズさん、俺たちが守るよ!」
ライアンが、私に近づいた。
「王都から手紙が来たんだろ?」
私は、驚いて頷いた。
「……どうして」
「ギルドの情報だ。お前の実家が、教会と組んでるらしい」
私は、静かに決意した。
「でも、私は負けません。ここで、みんなのために作り続けます」
ライアンが、優しく微笑んだ。
「なら、俺も全力で支える」
実家と教会の影が、ゆっくりと近づいてくる。
だが、私はもう、怖くない。
私の甘い癒やしは、みんなのものだ。
誰にも、奪わせない。
開店から一ヶ月が過ぎ、店はルヴェリアの名物として完全に定着していた。
朝の開店前から行列ができ、夕方には在庫がなくなるのが日常になった。
マジックポッキーは特に人気で、冒険者たちが「ダンジョン必須アイテム」と呼ぶほど。
ライアンは、毎日のように顔を出し、時には材料の運搬を手伝ってくれる。
エレナやガレンら他の上位冒険者たちも常連になり、店は笑い声で溢れていた。
この日、閉店後の工房で新商品の試作をしていると、ドアの前に一通の手紙が置かれていた。
封蝋にはエルグランド家の紋章。
父からのものだ。
私は、キッチンのテーブルに座り、手紙を開いた。
『アプローズ
お前の店が辺境で騒ぎを起こしていると聞いた。
回復クッキーが教会のポーションを凌駕しているなど、ありえぬ話だ。
すぐに店を閉め、王都に戻れ。
アルテアが困っている。
教会から「エルグランド家の秘伝のクッキー」を正式に献上するよう求められている。
お前が作らなければ、アルテアの王太子妃の座が危うくなる。
レシピを教会に献上し、店を畳めば、追放を許してやる。
実家に戻って、アルテアを支えろ。
それが娘としての務めだ。
ガルハルト・フォン・エルグランド』
手紙を読み終え、私は静かに折りたたんだ。
アルテアが困っている?
私が追放されたのは、アルテアを王太子妃にするためだったのに。
実家で私が作っていたクッキーは、アルテアの阻害を受けながらも教会のポーションを超えていた。
それなのに、今さら私のレシピを欲しがる。
私は、手紙をゴミ箱に捨てた。
もう、戻らない。
この店が、私の居場所だ。
翌朝、店を開けると、ライアンがいつもより早く来ていた。
「アプローズ、顔色が悪いな。何かあったか?」
私は、笑って首を振った。
「少し、寝不足です」
本当は、手紙のことが胸に引っかかっていた。
ライアンは、クッキーを食べながら言った。
「王都から、教会の司祭がこの街に来てるらしい。噂では、回復アイテムの調査だとか」
私は、どきりとした。
教会が、動き始めた。
実家と連携して、私を引き戻そうとしているのかもしれない。
昼過ぎ、店が混み合っている時。
一人の男が、店に入ってきた。
教会の司祭服を着た中年男。
表情は厳しく、周囲の冒険者たちがざわついた。
「ここが、異端の菓子を売る店か」
司祭は、私に近づき、低い声で言った。
「アプローズ・フォン・エルグランドだな。教会本部から来た。お前の菓子は、神の奇跡を冒涜している。即刻販売を止め、レシピを献上せよ」
店内が静まり返った。
冒険者たちが、司祭を睨み始めた。
ライアンが、カウンターの前に立った。
「教会のポーションが高くて苦いから、みんなこっちを選んでるだけだ。異端なんて、笑わせるな」
司祭が、顔を赤くした。
「黙れ! これは神の教えに反する!」
私は、静かに答えた。
「このクッキーは、私の力で作ったものです。誰にも渡しません」
司祭は、悔しげに私を睨んだ。
「……後悔するぞ。王都の本部が動けば、この街ごと制裁が下る」
そう言い残し、去っていった。
店内が、怒りの声で溢れた。
「教会の連中、売上が減って焦ってるだけだろ!」
「アプローズさん、俺たちが守るよ!」
ライアンが、私に近づいた。
「王都から手紙が来たんだろ?」
私は、驚いて頷いた。
「……どうして」
「ギルドの情報だ。お前の実家が、教会と組んでるらしい」
私は、静かに決意した。
「でも、私は負けません。ここで、みんなのために作り続けます」
ライアンが、優しく微笑んだ。
「なら、俺も全力で支える」
実家と教会の影が、ゆっくりと近づいてくる。
だが、私はもう、怖くない。
私の甘い癒やしは、みんなのものだ。
誰にも、奪わせない。
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