婚約破棄されたので回復クッキーでスイーツ店始めました～義妹の阻害を解いて真の聖女覚醒、世界に甘い奇跡を～

第21話 王都支店のオープンと、懐かしい影

 第21話　王都支店のオープンと、懐かしい影

ルヴェリア本店が安定してから、さらに半年が経っていた。

私の『アプローズの甘い癒やし』は、王国中に十を超える支店を構える大チェーンになっていた。

マジックポッキーは冒険者の定番アイテムとなり、クッキー各種は貴族のパーティーでも欠かせないお菓子として人気を博していた。

教会のポーションは安価になったが、私のスイーツは「美味しくて心まで癒やされる」として、独自の地位を築いていた。

この日、王都に初の支店がオープンする日だった。

場所は、王都の中心大通り。かつての実家スイーツ店からほど近い、高級エリア。

ライアンたち護衛パーティー全員が付き添い、ルヴェリアから大勢のスタッフも手伝いに来てくれた。

オープン前、店頭にはすでに長い行列ができていた。

冒険者、貴族、市民、子供たちまで。

「王都でアプローズさんのポッキーが買えるなんて！」

「聖女様のスイーツ、楽しみだわ！」

私は、店頭に立って皆に頭を下げた。

「本日はオープンありがとうございます。みんなに、甘い癒やしを届けます！」

ライアンが、隣で微笑んだ。

「緊張してるか？」

私は少し頷いた。

「少し……ここは、昔の実家に近いから」

かつてのエルグランド家のスイーツ店は、今は空き店舗になっていた。

父は領地を売って借金を返し、隠遁生活に入ったという。

アルテアの消息は、修道院で静かに暮らしているらしい。

レグナム王子は、王位を弟に譲り、旅に出たそうだ。

オープンセレモニーが始まり、テープカット。

店内が一気に人で溢れた。

新商品「王都スペシャル・トリュフチョコクッキー」を試食で配ると、歓声が上がった。

「MPが爆回復！　しかも高級感がすごい！」

「これ、貴族パーティーで出せば話題になるわ！」

エレナが、スタッフを手伝いながら笑った。

「王都の人たち、反応いいわね！　ルヴェリアより上品ぶってるけど、ポッキー食べてる顔は同じよ！」

ガレンが、売上を計算しながら言った。

「初日で記録更新だ。この調子なら、王都支店は本店並みになる」

夕方、忙しさが一段落した頃。

店の外に、一人の女性が立っていた。

修道女の服を着た、アルテアだった。

痩せ細り、かつての華やかさは影を潜めている。

私は、店から出て、静かに近づいた。

「アルテア……」

彼女は、俯いたまま小さく頭を下げた。

「お姉様……店、おめでとうございます」

声は、かすれていた。

「どうして、ここに？」

アルテアは、ゆっくり顔を上げた。

「修道院から、一時外出の許可をもらって……お姉様の店がオープンすると聞いて」

彼女の目には、涙が浮かんでいた。

「昔、私がお姉様の力を……阻害していたこと、全部わかってる。ごめんなさい」

私は、静かに頷いた。

「もう、いいわ。過去のことよ」

アルテアは、震える手で小さな袋を差し出した。

「これ……修道院で作ったハーブ。少しでも、お姉様の役に立てば」

私は、袋を受け取った。

「ありがとう。使わせてもらうわ」

アルテアは、微笑もうとしたが、涙がこぼれた。

「幸せに……なってください」

彼女は、修道女のフードを被り直し、去っていった。

背中を見送りながら、私は少し胸が痛んだ。

だが、もう恨みはない。

私の人生は、前に進んでいる。

ライアンが、店から出てきて私の肩を抱いた。

「大丈夫か？」

私は頷いた。

「ええ。新しいハーブで、いいお菓子ができそう」

王都支店は、大成功のスタートを切った。

懐かしい影は、静かに消えていった。

私の甘い奇跡は、王都にも広がる。

全国への道が、さらに開けた。