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第22話 王都支店の日常と、新たな常連
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第22話 王都支店の日常と、新たな常連
王都支店がオープンしてから、一ヶ月が経っていた。
店は朝から晩まで客足が絶えず、ルヴェリア本店に匹敵する賑わいを見せていた。
高級エリアにあるため、貴族や王族関係者の来店も多く、ドレスアップした令嬢たちが優雅にクッキーを選ぶ姿が日常になった。
マジックポッキーは、特に貴族の冒険者子息たちに人気で、「パーティーで配ると話題になる」と評判だった。
この日も、店内は甘い香りで満ちていた。
私は、王都支店のカウンターに立って客を迎えていた。
ルヴェリアと王都を往復する生活だが、王都滞在時はここで直接接客するのが楽しみだった。
午後の時間帯、貴族らしい服装の若い男性が入ってきた。
二十代半ば、黒髪に緑の瞳のイケメン。
腰に細剣を下げ、冒険者でもあるらしい。
彼は店内を見回し、マジックポッキーの棚の前で立ち止まった。
「これが、噂のポッキーか」
私は笑顔で対応した。
「いらっしゃいませ。試食はいかがですか?」
彼は一本取り、サクッとかじった。
次の瞬間、目を見開いた。
「……MP回復が、驚異的だ。しかも、このチョコの味わい……上質だ」
彼はすぐに箱を買ってくれた。
「毎日来る。名前は?」
「アプローズです。よろしくお願いします」
彼は、静かに名乗った。
「セイルだ。王都の貴族、ヴァレンティン家の次男。冒険者も兼ねてる」
セイルは、それから常連になった。
毎日のように来店し、ポッキーを買いながら、少しずつ話すようになった。
「君の菓子は、教会のものとは違う。魔力が純粋で、心まで癒やされる」
「セイルさんは、どんな冒険を?」
「主に、王都近郊のダンジョン。貴族の義務で、魔物討伐も」
セイルは、穏やかで知的な人物だった。
ある日、セイルが少し疲れた様子で来店した。
「今日は、強めの魔物と戦ってな。君のポッキーのおかげで、魔力切れを免れた」
私は、心配そうに聞いた。
「無理はしないでくださいね」
セイルは、珍しく少し照れたように笑った。
「ありがとう。アプローズ、君の笑顔を見ると、疲れが飛ぶよ」
その言葉に、頰が熱くなった。
ライアンは、王都滞在時はいつも近くにいてくれるが、今日はルヴェリアに戻っていた。
夕方、セイルがまた来て、新商品のトリュフチョコクッキーを試食した。
「これ、最高だ。パーティーで出したい」
彼は、少し真剣な顔で言った。
「アプローズ、もしよければ、ヴァレンティン家のパーティーに、菓子を提供してくれないか?」
私は、少し驚いた。
「貴族のパーティーですか? 光栄です」
セイルは、優しく微笑んだ。
「君の菓子なら、みんな喜ぶ。……それに、君にも来てほしい」
招待――。
王都の貴族社会に、再び足を踏み入れることになる。
かつての婚約破棄の傷が、少し疼いた。
だが、今は違う。
私の力は、みんなに認められている。
「考えてみます。ありがとうございます」
セイルは、満足げに頷いた。
「待ってるよ」
閉店後、店を片付けながら、私は考えた。
王都支店の日常は、穏やかで楽しい。
新たな常連、セイルのような人たち。
彼は、ライアンとは違うタイプの優しさを持っている。
少し、ドキドキする。
だが、私の心は、ライアンにある。
王都での生活は、新しい出会いを生む。
私の甘い奇跡が、王都の貴族たちにも広がっていく。
新たな常連が、私の日常を、少し彩りを加えてくれた。
ルヴェリアに帰る日が、近づいている。
ライアンに、会いたい。
王都の夜が、更けていく。
王都支店がオープンしてから、一ヶ月が経っていた。
店は朝から晩まで客足が絶えず、ルヴェリア本店に匹敵する賑わいを見せていた。
高級エリアにあるため、貴族や王族関係者の来店も多く、ドレスアップした令嬢たちが優雅にクッキーを選ぶ姿が日常になった。
マジックポッキーは、特に貴族の冒険者子息たちに人気で、「パーティーで配ると話題になる」と評判だった。
この日も、店内は甘い香りで満ちていた。
私は、王都支店のカウンターに立って客を迎えていた。
ルヴェリアと王都を往復する生活だが、王都滞在時はここで直接接客するのが楽しみだった。
午後の時間帯、貴族らしい服装の若い男性が入ってきた。
二十代半ば、黒髪に緑の瞳のイケメン。
腰に細剣を下げ、冒険者でもあるらしい。
彼は店内を見回し、マジックポッキーの棚の前で立ち止まった。
「これが、噂のポッキーか」
私は笑顔で対応した。
「いらっしゃいませ。試食はいかがですか?」
彼は一本取り、サクッとかじった。
次の瞬間、目を見開いた。
「……MP回復が、驚異的だ。しかも、このチョコの味わい……上質だ」
彼はすぐに箱を買ってくれた。
「毎日来る。名前は?」
「アプローズです。よろしくお願いします」
彼は、静かに名乗った。
「セイルだ。王都の貴族、ヴァレンティン家の次男。冒険者も兼ねてる」
セイルは、それから常連になった。
毎日のように来店し、ポッキーを買いながら、少しずつ話すようになった。
「君の菓子は、教会のものとは違う。魔力が純粋で、心まで癒やされる」
「セイルさんは、どんな冒険を?」
「主に、王都近郊のダンジョン。貴族の義務で、魔物討伐も」
セイルは、穏やかで知的な人物だった。
ある日、セイルが少し疲れた様子で来店した。
「今日は、強めの魔物と戦ってな。君のポッキーのおかげで、魔力切れを免れた」
私は、心配そうに聞いた。
「無理はしないでくださいね」
セイルは、珍しく少し照れたように笑った。
「ありがとう。アプローズ、君の笑顔を見ると、疲れが飛ぶよ」
その言葉に、頰が熱くなった。
ライアンは、王都滞在時はいつも近くにいてくれるが、今日はルヴェリアに戻っていた。
夕方、セイルがまた来て、新商品のトリュフチョコクッキーを試食した。
「これ、最高だ。パーティーで出したい」
彼は、少し真剣な顔で言った。
「アプローズ、もしよければ、ヴァレンティン家のパーティーに、菓子を提供してくれないか?」
私は、少し驚いた。
「貴族のパーティーですか? 光栄です」
セイルは、優しく微笑んだ。
「君の菓子なら、みんな喜ぶ。……それに、君にも来てほしい」
招待――。
王都の貴族社会に、再び足を踏み入れることになる。
かつての婚約破棄の傷が、少し疼いた。
だが、今は違う。
私の力は、みんなに認められている。
「考えてみます。ありがとうございます」
セイルは、満足げに頷いた。
「待ってるよ」
閉店後、店を片付けながら、私は考えた。
王都支店の日常は、穏やかで楽しい。
新たな常連、セイルのような人たち。
彼は、ライアンとは違うタイプの優しさを持っている。
少し、ドキドキする。
だが、私の心は、ライアンにある。
王都での生活は、新しい出会いを生む。
私の甘い奇跡が、王都の貴族たちにも広がっていく。
新たな常連が、私の日常を、少し彩りを加えてくれた。
ルヴェリアに帰る日が、近づいている。
ライアンに、会いたい。
王都の夜が、更けていく。
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