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第4話 王宮がざわつく理由
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第4話 王宮がざわつく理由
それは、ほんの小さな違和感から始まった。
「……あれ?」
朝の執務開始から一刻も経たないうちに、王宮のあちこちで同じ声が上がる。
「この書類、承認済みではなかったのか?」 「いや、まだだ。王子殿下の署名待ちだ」 「では、会議はいつ開かれる?」 「……聞いていない」
廊下で立ち尽くす文官たちの表情は、揃って困惑していた。
以前なら――
その疑問は、そもそも生まれなかった。
「エテルナ様なら、もう手配を済ませておられたはずだが……」
誰かが、ぽつりと口にする。
その名は、すでに王宮の“共通認識”になりつつあった。
会議室。
本来なら、開始時刻の少し前には全員が揃っているはずの場に、席の空きが目立つ。
「……まだ来ていないのか?」 「連絡が……届いておりません」
宰相が眉をひそめ、時計を確認する。
五分。
十分。
ようやく集まった顔ぶれは、どこか疲れ切っていた。
「議題は?」 「……こちらに」
提出された資料を見た宰相は、思わず沈黙した。
「……これは、草案ですらない」
数字の裏付けが甘く、前提条件も曖昧。
以前なら、会議に上がる前に“ふるい”にかけられていたはずの代物だ。
(……エテルナ嬢が、いない)
その事実が、じわじわと重くのしかかる。
一方、その頃。
「……どういうことだ?」
第一王子アルトゥーラは、自室で机に向かい、苛立ちを隠せずにいた。
積み上がった書類は減るどころか、むしろ増えている。
「なぜ、こんなに多い……?」
以前は、必要なものだけが、必要な順番で、目の前に並んでいた。
(……あれは、当たり前ではなかったのか?)
王子は、初めてそんな疑問を抱いた。
「アルトゥーラ様」
控えめに扉を叩き、新しい婚約者が顔を覗かせる。
「お疲れのようでしたので、お茶を……」
「あ、ああ……ありがとう」
差し出された茶は、確かに温かい。
だが、書類の山は減らない。
「……君は、これをどう思う?」
王子は、無意識のうちに、一枚の書類を差し出していた。
「え……?」
少女は、紙面を覗き込み――
数秒、沈黙する。
「……ご、ごめんなさい。文字が多くて……」
それ以上、続かなかった。
アルトゥーラは、思わず目を逸らす。
(……そうか)
比較するつもりはなかった。
だが、現実は、否応なく突きつけてくる。
その日の午後。
王宮の廊下では、ささやき声が止まらなかった。
「最近、進みが遅くない?」 「ええ……不思議ですわね」 「エテルナ様がいなくなってから、ですわ」
誰も、責める口調ではない。
ただ事実を並べているだけだ。
それが、なおさら残酷だった。
夕刻。
執務を終えた宰相は、深く息を吐いた。
「……殿下」
呼び出されたアルトゥーラは、不機嫌そうに応じる。
「何だ」
「最近の政務の遅れについて、把握しておられますな?」
「それは――一時的なものだ」
即答だった。
だが、宰相は首を横に振る。
「いいえ。これは、構造的な問題です」
静かな声が、重く響く。
「……エテルナ嬢が担っていた役割を、誰も引き継げていない」
その言葉に、アルトゥーラは言葉を失った。
反論しようとして、できなかった。
なぜなら――
心当たりが、ありすぎたからだ。
その夜。
王子は一人、執務室に残っていた。
灯りの下、書類を睨みながら、ぽつりと呟く。
「……可愛げ、か」
あの日、自分が口にした言葉。
それが、今になって、
重く、鋭く、胸に刺さっていた。
一方、同じ夜。
伯爵家の書斎で。
「王宮、騒がしくなってきましたわね」
エテルナは、紅茶を口にしながら、穏やかに微笑んだ。
(想定より、少し早いかしら)
何もしなくても、世界は動く。
――それを一番知っているのは、
ずっと世界を動かしてきた本人だった。
---
それは、ほんの小さな違和感から始まった。
「……あれ?」
朝の執務開始から一刻も経たないうちに、王宮のあちこちで同じ声が上がる。
「この書類、承認済みではなかったのか?」 「いや、まだだ。王子殿下の署名待ちだ」 「では、会議はいつ開かれる?」 「……聞いていない」
廊下で立ち尽くす文官たちの表情は、揃って困惑していた。
以前なら――
その疑問は、そもそも生まれなかった。
「エテルナ様なら、もう手配を済ませておられたはずだが……」
誰かが、ぽつりと口にする。
その名は、すでに王宮の“共通認識”になりつつあった。
会議室。
本来なら、開始時刻の少し前には全員が揃っているはずの場に、席の空きが目立つ。
「……まだ来ていないのか?」 「連絡が……届いておりません」
宰相が眉をひそめ、時計を確認する。
五分。
十分。
ようやく集まった顔ぶれは、どこか疲れ切っていた。
「議題は?」 「……こちらに」
提出された資料を見た宰相は、思わず沈黙した。
「……これは、草案ですらない」
数字の裏付けが甘く、前提条件も曖昧。
以前なら、会議に上がる前に“ふるい”にかけられていたはずの代物だ。
(……エテルナ嬢が、いない)
その事実が、じわじわと重くのしかかる。
一方、その頃。
「……どういうことだ?」
第一王子アルトゥーラは、自室で机に向かい、苛立ちを隠せずにいた。
積み上がった書類は減るどころか、むしろ増えている。
「なぜ、こんなに多い……?」
以前は、必要なものだけが、必要な順番で、目の前に並んでいた。
(……あれは、当たり前ではなかったのか?)
王子は、初めてそんな疑問を抱いた。
「アルトゥーラ様」
控えめに扉を叩き、新しい婚約者が顔を覗かせる。
「お疲れのようでしたので、お茶を……」
「あ、ああ……ありがとう」
差し出された茶は、確かに温かい。
だが、書類の山は減らない。
「……君は、これをどう思う?」
王子は、無意識のうちに、一枚の書類を差し出していた。
「え……?」
少女は、紙面を覗き込み――
数秒、沈黙する。
「……ご、ごめんなさい。文字が多くて……」
それ以上、続かなかった。
アルトゥーラは、思わず目を逸らす。
(……そうか)
比較するつもりはなかった。
だが、現実は、否応なく突きつけてくる。
その日の午後。
王宮の廊下では、ささやき声が止まらなかった。
「最近、進みが遅くない?」 「ええ……不思議ですわね」 「エテルナ様がいなくなってから、ですわ」
誰も、責める口調ではない。
ただ事実を並べているだけだ。
それが、なおさら残酷だった。
夕刻。
執務を終えた宰相は、深く息を吐いた。
「……殿下」
呼び出されたアルトゥーラは、不機嫌そうに応じる。
「何だ」
「最近の政務の遅れについて、把握しておられますな?」
「それは――一時的なものだ」
即答だった。
だが、宰相は首を横に振る。
「いいえ。これは、構造的な問題です」
静かな声が、重く響く。
「……エテルナ嬢が担っていた役割を、誰も引き継げていない」
その言葉に、アルトゥーラは言葉を失った。
反論しようとして、できなかった。
なぜなら――
心当たりが、ありすぎたからだ。
その夜。
王子は一人、執務室に残っていた。
灯りの下、書類を睨みながら、ぽつりと呟く。
「……可愛げ、か」
あの日、自分が口にした言葉。
それが、今になって、
重く、鋭く、胸に刺さっていた。
一方、同じ夜。
伯爵家の書斎で。
「王宮、騒がしくなってきましたわね」
エテルナは、紅茶を口にしながら、穏やかに微笑んだ。
(想定より、少し早いかしら)
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――それを一番知っているのは、
ずっと世界を動かしてきた本人だった。
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