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第3話 新しいご婚約者様
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第3話 新しいご婚約者様
婚約破棄の翌日。
王宮は、朝から妙なざわめきに包まれていた。
「――聞きました? 第一王子殿下の新しいご婚約者様」 「ええ……平民出身だとか」 「それも、あの場で正式に……」
囁き声は、廊下を、応接室を、食堂を巡っていく。
話題の中心は、もちろん――
第一王子アルトゥーラと、新しい婚約者だった。
当の本人たちはというと。
「アルトゥーラ様、このお部屋……とっても広いんですね!」
少女はきょろきょろと視線を動かし、王子の執務室を見回していた。
「ああ、そうだな」
アルトゥーラは、どこか誇らしげに頷く。
「これからは、君もここを自由に使っていい」
「ほ、本当ですか……!」
ぱっと顔を輝かせるその様子に、王子は満足した。
(やはり、これで良かったのだ)
エテルナのように、無言で書類を整え、予定を把握し、先回りして指示を出す女性は――正直、息が詰まる。
こうして素直に喜び、感謝し、頼ってくれる存在こそ、
“守るべき婚約者”にふさわしい。
……はずだった。
「では、まず本日の予定だが」
アルトゥーラは机に向かい、積まれた書類を手に取る。
「……?」
一枚、二枚、三枚。
目を通すうち、眉が自然と寄っていった。
「……何だ、これは」
会議の時間が曖昧。
必要な承認が抜け落ちている。
そもそも、重要書類の並びが雑だ。
以前なら、こんな状態になる前に――
(……エテルナが、整えていたのか?)
その考えが浮かび、王子はすぐに打ち消した。
(いや、違う。たまたまだ)
そう思いたかった。
「アルトゥーラ様?」
少女が、不安そうに首を傾げる。
「どうかなさいました?」
「あ、いや……」
王子は曖昧に笑い、書類を机に戻した。
「少し確認が必要なだけだ」
「そうなんですね……。あ、でしたらお茶を淹れてきます!」
そう言って、少女はぱたぱたと部屋を出ていった。
残された執務室で、アルトゥーラは椅子に深く腰掛ける。
「……」
静寂。
――いや。
“静かすぎる”。
以前は、エテルナのペンの音、書類をめくる音、低い声での簡潔な報告が、常にそこにあった。
(……妙だな)
そんな違和感を抱えたまま、数時間後。
王子は、昼の小規模な茶会に顔を出していた。
「殿下、ご機嫌麗しゅう」
貴族たちが一斉に頭を下げる。
その視線の先――
アルトゥーラの腕には、新しい婚約者が控えめに寄り添っていた。
……寄り添いすぎていた。
「!」
彼女は、周囲の貴族令嬢たちの視線に気圧されたのか、王子の袖をぎゅっと掴む。
「だ、大丈夫だ」
王子はそう言って微笑むが、
周囲の空気は、はっきりと冷えていた。
(……近すぎですわね) (礼の角度も、間の取り方も……)
令嬢たちは口には出さない。
だが、視線がすべてを物語っている。
――比較対象が、悪すぎた。
ほんの一日前まで、そこに立っていたのは
完璧な伯爵令嬢・エテルナだったのだから。
「……エテルナ様なら」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「こういう場でも、堂々としていらしたのに……」
その声は小さかったが、確かに王子の耳に届いた。
アルトゥーラは、ぎゅっと唇を結ぶ。
(……比べる必要はない)
そう、比べる必要などない。
――だが。
茶会の終わり。
貴族たちが去っていく中で、残された視線は冷ややかだった。
「アルトゥーラ様……」
少女が不安そうに見上げる。
「わ、私……うまくできていませんでしたか……?」
「そんなことはない」
王子は即座に否定した。
「君は、君のままでいい」
その言葉に、少女は安堵したように微笑む。
だがその背後で。
王子の胸の奥に、
小さな棘のような違和感が、確かに残っていた。
――そしてその頃。
王宮の外れ、伯爵家の馬車の中で。
「……ふふ」
エテルナは、窓の外を眺めながら、静かに微笑んでいた。
(始まりましたわね)
比較。違和感。滞り。
すべては、想定通り。
彼女が何もしなくても、世界は勝手に答えを出し始めていた。
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婚約破棄の翌日。
王宮は、朝から妙なざわめきに包まれていた。
「――聞きました? 第一王子殿下の新しいご婚約者様」 「ええ……平民出身だとか」 「それも、あの場で正式に……」
囁き声は、廊下を、応接室を、食堂を巡っていく。
話題の中心は、もちろん――
第一王子アルトゥーラと、新しい婚約者だった。
当の本人たちはというと。
「アルトゥーラ様、このお部屋……とっても広いんですね!」
少女はきょろきょろと視線を動かし、王子の執務室を見回していた。
「ああ、そうだな」
アルトゥーラは、どこか誇らしげに頷く。
「これからは、君もここを自由に使っていい」
「ほ、本当ですか……!」
ぱっと顔を輝かせるその様子に、王子は満足した。
(やはり、これで良かったのだ)
エテルナのように、無言で書類を整え、予定を把握し、先回りして指示を出す女性は――正直、息が詰まる。
こうして素直に喜び、感謝し、頼ってくれる存在こそ、
“守るべき婚約者”にふさわしい。
……はずだった。
「では、まず本日の予定だが」
アルトゥーラは机に向かい、積まれた書類を手に取る。
「……?」
一枚、二枚、三枚。
目を通すうち、眉が自然と寄っていった。
「……何だ、これは」
会議の時間が曖昧。
必要な承認が抜け落ちている。
そもそも、重要書類の並びが雑だ。
以前なら、こんな状態になる前に――
(……エテルナが、整えていたのか?)
その考えが浮かび、王子はすぐに打ち消した。
(いや、違う。たまたまだ)
そう思いたかった。
「アルトゥーラ様?」
少女が、不安そうに首を傾げる。
「どうかなさいました?」
「あ、いや……」
王子は曖昧に笑い、書類を机に戻した。
「少し確認が必要なだけだ」
「そうなんですね……。あ、でしたらお茶を淹れてきます!」
そう言って、少女はぱたぱたと部屋を出ていった。
残された執務室で、アルトゥーラは椅子に深く腰掛ける。
「……」
静寂。
――いや。
“静かすぎる”。
以前は、エテルナのペンの音、書類をめくる音、低い声での簡潔な報告が、常にそこにあった。
(……妙だな)
そんな違和感を抱えたまま、数時間後。
王子は、昼の小規模な茶会に顔を出していた。
「殿下、ご機嫌麗しゅう」
貴族たちが一斉に頭を下げる。
その視線の先――
アルトゥーラの腕には、新しい婚約者が控えめに寄り添っていた。
……寄り添いすぎていた。
「!」
彼女は、周囲の貴族令嬢たちの視線に気圧されたのか、王子の袖をぎゅっと掴む。
「だ、大丈夫だ」
王子はそう言って微笑むが、
周囲の空気は、はっきりと冷えていた。
(……近すぎですわね) (礼の角度も、間の取り方も……)
令嬢たちは口には出さない。
だが、視線がすべてを物語っている。
――比較対象が、悪すぎた。
ほんの一日前まで、そこに立っていたのは
完璧な伯爵令嬢・エテルナだったのだから。
「……エテルナ様なら」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「こういう場でも、堂々としていらしたのに……」
その声は小さかったが、確かに王子の耳に届いた。
アルトゥーラは、ぎゅっと唇を結ぶ。
(……比べる必要はない)
そう、比べる必要などない。
――だが。
茶会の終わり。
貴族たちが去っていく中で、残された視線は冷ややかだった。
「アルトゥーラ様……」
少女が不安そうに見上げる。
「わ、私……うまくできていませんでしたか……?」
「そんなことはない」
王子は即座に否定した。
「君は、君のままでいい」
その言葉に、少女は安堵したように微笑む。
だがその背後で。
王子の胸の奥に、
小さな棘のような違和感が、確かに残っていた。
――そしてその頃。
王宮の外れ、伯爵家の馬車の中で。
「……ふふ」
エテルナは、窓の外を眺めながら、静かに微笑んでいた。
(始まりましたわね)
比較。違和感。滞り。
すべては、想定通り。
彼女が何もしなくても、世界は勝手に答えを出し始めていた。
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