白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾

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第27話 王子の来訪

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第27話 王子の来訪

 来客の報は、予告なく届いた。

「……王子?」

 エテルナは、
 一瞬だけ言葉を失う。

 名乗られた名前は、
 アルトゥーラ。

 かつて婚約者だった人物。

「通す必要はない」

 即座に、
 セーブルが告げる。

 それは当然の判断だった。

 だが。

「……いえ」

 エテルナは、
 静かに首を横に振った。

「一度だけ、
 お会いします」

 逃げる理由はない。

 戻るつもりもない。

 だからこそ。

(……終わらせましょう)

 応接室。

 アルトゥーラは、
 かつての王子らしい装いのまま現れた。

 だが、
 以前のような自信はない。

「久しぶりだな、エテルナ」

 その呼び方に、
 彼の未練が滲む。

「お久しぶりです」

 エテルナは、
 礼儀正しく応じる。

 それ以上、
 感情は乗せない。

 セーブルは、
 一歩後ろに立ち、
 会話に割り込まない。

 だが、
 存在感だけで十分だった。

「……王宮の件は聞いている」

 アルトゥーラは、
 言いづらそうに切り出す。

「正直に言おう。
 あの時の判断は、
 間違っていた」

 エテルナは、
 驚かない。

 その言葉を、
 ずっと待っていたわけでもない。

「君は有能すぎた。
 周囲が、
 私を必要としなくなるほどに」

 ――いつか聞いた言葉。

 だが今は、
 言い訳にしか聞こえない。

「だから、
 距離を置いた。
 だが……」

 アルトゥーラは、
 視線を上げる。

「君を失って、
 王宮は崩れた」

 エテルナは、
 静かに答えた。

「それは、
 私の責任ではありません」

 即答。

 迷いも、
 揺らぎもない。

「私は、
 役割として尽くしました」

 一拍。

「ですが、
 人として扱われたとは
 思っていません」

 アルトゥーラは、
 言葉を失う。

「……戻るつもりは、
 ないのか」

「ありません」

 はっきりと。

「私は、
 もう“便利な存在”として
 選ばれる場所には
 戻りません」

 その瞬間。

「――彼女は、
 私の妻だ」

 セーブルが、
 初めて口を開いた。

 声は低く、
 感情を抑えている。

「選択権は、
 最初から彼女にある」

 アルトゥーラは、
 その言葉を聞いて、
 ようやく理解した。

 ――負けたのだ、と。

 地位でも、
 権力でもない。

 選ばれ方で。

「……そうか」

 王子は、
 小さく笑った。

「私は、
 最後まで
 君を理解しなかったな」

「いいえ」

 エテルナは、
 静かに否定する。

「理解しようと
 なさらなかっただけです」

 沈黙。

 長く、
 しかし澄んだ沈黙。

「……失礼する」

 アルトゥーラは、
 それ以上、何も言わなかった。

 扉が閉まる。

 完全な決着だった。

「……疲れたか」

 セーブルが、
 低く問いかける。

「いいえ」

 エテルナは、
 少し考えてから答える。

「……軽くなりました」

 胸の奥が、
 不思議なほど静かだ。

「私は、
 ここに残ります」

 宣言ではない。

 確認でもない。

 ただの、
 事実。

 セーブルは、
 頷くだけだった。

 必要以上の言葉はない。

 王子の来訪は、
 過去を連れてきた。

 だが。

 それを追い返したのは、
 怒りでも、未練でもなく。

 エテルナ自身の選択だった。


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