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第20話 嵐の向こう側
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第20話 嵐の向こう側
反発は、予想よりも早く、そして露骨な形でやって来た。
それは抗議文でも、会合でもない。
もっと厄介で、見えにくい方法――流れを止めるという形だった。
「……物流が、滞っています」
朝一番の報告に、私は手を止めた。
「具体的には?」
「西の交易路です。
護衛の手配が遅れ、荷が出ていません」
私は、すぐに理解した。
護衛手配は、改革で権限を整理した分野だ。
旧来の請負人たちが、影で動いた可能性が高い。
「意図的ですね」
「はい」
グラハム執事長は、低い声で続ける。
「表向きは“手続きの不備”。
ですが、同様の遅延が、複数箇所で発生しています」
――揺さぶり。
改革がどれほど脆いか、試すための。
「……対処は?」
「護衛を公的手配に切り替えれば、解消します。
ただし……」
「コストが上がる」
「はい」
私は、数秒だけ考えた。
「切り替えましょう」
「よろしいのですか?」
「今、止めてはいけません」
短期的な損失より、信用の方が重い。
「公的手配に切り替え、
同時に、手配基準を文書化してください」
「……承知しました」
指示は、すぐに実行された。
だが、嵐はそれだけでは終わらなかった。
午後、別の報告が届く。
「……王宮から、問い合わせが来ています」
「内容は?」
「“改革の安定性”についての確認です」
私は、机に指を置いた。
「来ましたね」
反対勢力は、王宮を使う。
それもまた、想定内。
「返答は、こちらでまとめます」
私は、即座に草案を作成した。
感情的な反論はしない。
数字と事実のみ。
物流遅延の原因。
対策。
再発防止策。
「……誠実すぎるほどです」
草案を見た文官が、呟いた。
「誠実さは、最も強い防御です」
私は、淡々と言う。
数日間、状況は不安定だった。
小さな遅延。
細かな嫌がらせ。
だが、そのたびに、こちらは止まらず、正面から対処した。
そして――
変化が起き始める。
「……護衛の公的手配、思ったより、評判が良いです」
「理由は?」
「対応が早く、基準が明確だからです」
私は、頷いた。
混乱を起こすつもりで仕掛けた行動が、
逆に、改革の有効性を証明してしまった。
職人ギルドからも、連絡が入る。
「輸送が安定したおかげで、納期が守れる」
「取引先からの信用が上がった」
その声は、確実に増えていった。
夜、ノアール公爵の執務室。
「……荒れたな」
彼は、短く言った。
「はい」
私は、正直に答える。
「ですが、越えられます」
「なぜ、そう言い切れる」
「止まらなかったからです」
私は、静かに続ける。
「嵐は、立ち止まった者を倒します。
進み続ける者を、押し流しはしません」
公爵は、わずかに口角を上げた。
「……良い答えだ」
その言葉に、肩の力が抜ける。
翌週、王宮から正式な返答が届いた。
「……問題なし、ですか」
「はい」
グラハム執事長が、報告する。
「改革の継続を、認めると」
私は、静かに息を吐いた。
嵐は、去った。
だが――
その痕跡は、確かに残っている。
反対勢力の一部は、沈黙した。
別の一部は、様子見に入った。
そして、何より――
領地の内側で、結束が強まった。
「……越えましたね」
若手文官が、ぽつりと呟く。
「ええ」
私は、微笑んだ。
「一度、嵐を越えた場所は、強くなります」
窓の外には、澄んだ夜空が広がっていた。
嵐の後特有の、静けさ。
私は、書類を整えながら思う。
改革とは、
嵐を避けることではない。
嵐を越えた後に、何が残るかだ。
今、ここには――
信頼と、実績と、
そして、前へ進む意志が残っている。
それだけあれば、十分だった。
嵐の向こう側で、
私は、さらに先を見据える。
この物語は、
まだ終わらない。
反発は、予想よりも早く、そして露骨な形でやって来た。
それは抗議文でも、会合でもない。
もっと厄介で、見えにくい方法――流れを止めるという形だった。
「……物流が、滞っています」
朝一番の報告に、私は手を止めた。
「具体的には?」
「西の交易路です。
護衛の手配が遅れ、荷が出ていません」
私は、すぐに理解した。
護衛手配は、改革で権限を整理した分野だ。
旧来の請負人たちが、影で動いた可能性が高い。
「意図的ですね」
「はい」
グラハム執事長は、低い声で続ける。
「表向きは“手続きの不備”。
ですが、同様の遅延が、複数箇所で発生しています」
――揺さぶり。
改革がどれほど脆いか、試すための。
「……対処は?」
「護衛を公的手配に切り替えれば、解消します。
ただし……」
「コストが上がる」
「はい」
私は、数秒だけ考えた。
「切り替えましょう」
「よろしいのですか?」
「今、止めてはいけません」
短期的な損失より、信用の方が重い。
「公的手配に切り替え、
同時に、手配基準を文書化してください」
「……承知しました」
指示は、すぐに実行された。
だが、嵐はそれだけでは終わらなかった。
午後、別の報告が届く。
「……王宮から、問い合わせが来ています」
「内容は?」
「“改革の安定性”についての確認です」
私は、机に指を置いた。
「来ましたね」
反対勢力は、王宮を使う。
それもまた、想定内。
「返答は、こちらでまとめます」
私は、即座に草案を作成した。
感情的な反論はしない。
数字と事実のみ。
物流遅延の原因。
対策。
再発防止策。
「……誠実すぎるほどです」
草案を見た文官が、呟いた。
「誠実さは、最も強い防御です」
私は、淡々と言う。
数日間、状況は不安定だった。
小さな遅延。
細かな嫌がらせ。
だが、そのたびに、こちらは止まらず、正面から対処した。
そして――
変化が起き始める。
「……護衛の公的手配、思ったより、評判が良いです」
「理由は?」
「対応が早く、基準が明確だからです」
私は、頷いた。
混乱を起こすつもりで仕掛けた行動が、
逆に、改革の有効性を証明してしまった。
職人ギルドからも、連絡が入る。
「輸送が安定したおかげで、納期が守れる」
「取引先からの信用が上がった」
その声は、確実に増えていった。
夜、ノアール公爵の執務室。
「……荒れたな」
彼は、短く言った。
「はい」
私は、正直に答える。
「ですが、越えられます」
「なぜ、そう言い切れる」
「止まらなかったからです」
私は、静かに続ける。
「嵐は、立ち止まった者を倒します。
進み続ける者を、押し流しはしません」
公爵は、わずかに口角を上げた。
「……良い答えだ」
その言葉に、肩の力が抜ける。
翌週、王宮から正式な返答が届いた。
「……問題なし、ですか」
「はい」
グラハム執事長が、報告する。
「改革の継続を、認めると」
私は、静かに息を吐いた。
嵐は、去った。
だが――
その痕跡は、確かに残っている。
反対勢力の一部は、沈黙した。
別の一部は、様子見に入った。
そして、何より――
領地の内側で、結束が強まった。
「……越えましたね」
若手文官が、ぽつりと呟く。
「ええ」
私は、微笑んだ。
「一度、嵐を越えた場所は、強くなります」
窓の外には、澄んだ夜空が広がっていた。
嵐の後特有の、静けさ。
私は、書類を整えながら思う。
改革とは、
嵐を避けることではない。
嵐を越えた後に、何が残るかだ。
今、ここには――
信頼と、実績と、
そして、前へ進む意志が残っている。
それだけあれば、十分だった。
嵐の向こう側で、
私は、さらに先を見据える。
この物語は、
まだ終わらない。
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