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第21話 王都からの招待状
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第21話 王都からの招待状
嵐が去った後の空気は、奇妙なほど澄んでいた。
シュヴァルツリッター公爵領は、以前よりも静かで、しかし確実に力強く動いている。
物流は滞りなく回り、商人たちは予定通りに荷を運び、職人たちは納期に追われながらも不満を漏らさない。
誰もが、次の一手を考え始めていた。
そんな朝、私の机に、一通の封書が置かれた。
「……王都?」
封蝋に刻まれた紋章を見て、私は小さく息を吐く。
「王宮からの正式な招待状です」
グラハム執事長の声は、落ち着いている。
「内容は?」
「王都で行われる合同会議への出席要請。
名目は……“各地の成功事例共有”」
成功事例。
つまり――見本として呼ばれている。
「……なるほど」
私は、封書を開いた。
丁寧な言葉遣い。
こちらを持ち上げるような表現。
そして、行間に滲む、明確な意図。
(こちらを、王都の舞台に引き戻したい)
それが、読み取れた。
「ご判断はいかがなさいますか」
グラハムは、私の顔色をうかがう。
私は、すぐには答えなかった。
招待状を机に置き、窓の外を見る。
城下では、人々が忙しく行き交っている。
ここには、私が積み重ねてきた日常がある。
「……出席します」
しばらくして、そう告げた。
「断られると、思いませんでしたか?」
「思いました」
私は、正直に答える。
「ですが、今回は別です」
視線を戻す。
「これは、呼び戻すための招待ではありません。
試すための場です」
グラハムは、静かに頷いた。
「こちらの改革が、王都の基準に耐えられるか。
そして――」
私は、言葉を続ける。
「私自身が、王都に“戻らずに立てるか”を示す場」
逃げる必要はない。
避ける理由もない。
午後、ノアール公爵の執務室。
「招待状か」
彼は、短く言った。
「出るつもりです」
「理由は聞かん」
そう言いながらも、公爵は私を見る。
「ただし、一つだけ言っておく」
「はい」
「王都は、成果を歓迎する。
だが同時に――成果を奪おうともする」
「承知しています」
私は、頷いた。
「だからこそ、条件はこちらから提示します」
公爵の眉が、わずかに動く。
「条件?」
「はい。
私は、あくまで“シュヴァルツリッター公爵補佐官”として出席します。
個人としての引き抜きや、非公式な打診は、一切受けません」
ノアール公爵は、しばらく沈黙した後、短く笑った。
「……強気だな」
「線引きです」
「悪くない」
それだけ言うと、公爵は視線を戻した。
出発までの数日間、私は準備に追われた。
資料の精査。
数字の再確認。
質問への想定問答。
だが、それ以上に重要だったのは――心構えだ。
(王都は、変わっていない)
権力。
体面。
派閥。
そこに飲み込まれないためには、自分の軸が必要だ。
出発前夜、城下を歩く。
「エミリア様、王都へ行かれると聞きました」
商人が、少し不安そうに声をかけてきた。
「ええ。数日ですが」
「……戻って、きますよね?」
その問いに、私は立ち止まった。
「もちろんです」
即答だった。
「ここは、私の仕事場ですから」
商人は、ほっとしたように笑った。
その反応が、胸に残る。
王都での評価より、
ここでの信頼の方が、今はずっと重い。
翌朝、馬車に乗り込む。
城門を出る前、振り返ると、いつもの風景がそこにあった。
「……行ってきます」
誰にともなく呟き、前を向く。
王都からの招待状は、
過去への扉ではない。
今の私を、試すための舞台だ。
戻る場所は、すでに決まっている。
だからこそ――
私は、胸を張って王都へ向かう。
招かれた側としてではなく、
示す側として。
嵐が去った後の空気は、奇妙なほど澄んでいた。
シュヴァルツリッター公爵領は、以前よりも静かで、しかし確実に力強く動いている。
物流は滞りなく回り、商人たちは予定通りに荷を運び、職人たちは納期に追われながらも不満を漏らさない。
誰もが、次の一手を考え始めていた。
そんな朝、私の机に、一通の封書が置かれた。
「……王都?」
封蝋に刻まれた紋章を見て、私は小さく息を吐く。
「王宮からの正式な招待状です」
グラハム執事長の声は、落ち着いている。
「内容は?」
「王都で行われる合同会議への出席要請。
名目は……“各地の成功事例共有”」
成功事例。
つまり――見本として呼ばれている。
「……なるほど」
私は、封書を開いた。
丁寧な言葉遣い。
こちらを持ち上げるような表現。
そして、行間に滲む、明確な意図。
(こちらを、王都の舞台に引き戻したい)
それが、読み取れた。
「ご判断はいかがなさいますか」
グラハムは、私の顔色をうかがう。
私は、すぐには答えなかった。
招待状を机に置き、窓の外を見る。
城下では、人々が忙しく行き交っている。
ここには、私が積み重ねてきた日常がある。
「……出席します」
しばらくして、そう告げた。
「断られると、思いませんでしたか?」
「思いました」
私は、正直に答える。
「ですが、今回は別です」
視線を戻す。
「これは、呼び戻すための招待ではありません。
試すための場です」
グラハムは、静かに頷いた。
「こちらの改革が、王都の基準に耐えられるか。
そして――」
私は、言葉を続ける。
「私自身が、王都に“戻らずに立てるか”を示す場」
逃げる必要はない。
避ける理由もない。
午後、ノアール公爵の執務室。
「招待状か」
彼は、短く言った。
「出るつもりです」
「理由は聞かん」
そう言いながらも、公爵は私を見る。
「ただし、一つだけ言っておく」
「はい」
「王都は、成果を歓迎する。
だが同時に――成果を奪おうともする」
「承知しています」
私は、頷いた。
「だからこそ、条件はこちらから提示します」
公爵の眉が、わずかに動く。
「条件?」
「はい。
私は、あくまで“シュヴァルツリッター公爵補佐官”として出席します。
個人としての引き抜きや、非公式な打診は、一切受けません」
ノアール公爵は、しばらく沈黙した後、短く笑った。
「……強気だな」
「線引きです」
「悪くない」
それだけ言うと、公爵は視線を戻した。
出発までの数日間、私は準備に追われた。
資料の精査。
数字の再確認。
質問への想定問答。
だが、それ以上に重要だったのは――心構えだ。
(王都は、変わっていない)
権力。
体面。
派閥。
そこに飲み込まれないためには、自分の軸が必要だ。
出発前夜、城下を歩く。
「エミリア様、王都へ行かれると聞きました」
商人が、少し不安そうに声をかけてきた。
「ええ。数日ですが」
「……戻って、きますよね?」
その問いに、私は立ち止まった。
「もちろんです」
即答だった。
「ここは、私の仕事場ですから」
商人は、ほっとしたように笑った。
その反応が、胸に残る。
王都での評価より、
ここでの信頼の方が、今はずっと重い。
翌朝、馬車に乗り込む。
城門を出る前、振り返ると、いつもの風景がそこにあった。
「……行ってきます」
誰にともなく呟き、前を向く。
王都からの招待状は、
過去への扉ではない。
今の私を、試すための舞台だ。
戻る場所は、すでに決まっている。
だからこそ――
私は、胸を張って王都へ向かう。
招かれた側としてではなく、
示す側として。
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