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第22話 舞台に立つ覚悟
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第22話 舞台に立つ覚悟
王都の城壁が見えた瞬間、馬車の空気が変わった。
人の流れが密になり、道の端には露店が並び、遠くから鐘の音が重なって聞こえてくる。
懐かしい――そう感じる前に、私は意識的に息を整えた。
(懐かしさに、足を取られない)
王都は、過去の場所だ。
今の私が立つ場所ではない。
迎えの騎士に導かれ、宿舎へ向かう。
用意されたのは、格式だけは整ったが、どこか“仮住まい”の空気が漂う部屋だった。
「……十分ね」
私は荷を解き、資料鞄を机に置いた。
余計な装飾は要らない。必要なのは、明日の会議で示す中身だけだ。
ほどなく、控えめなノック。
「エミリア・ノルト補佐官様。
王宮より、非公式の面会要請がございます」
案内役の文官が、言葉を選んで告げる。
「……非公式、ですか」
私は、視線を上げた。
「どなたから?」
「財務局長代理と、内務院の数名が同席するとのことです」
予想通りだった。
公式会議の前に、圧をかけ、情報を引き出す。
「お断りします」
即答だった。
文官が、わずかに目を見開く。
「理由は、明日の会議で十分にお話しできるからです」
「……承知しました」
扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。
私は、椅子に腰を下ろし、資料を一枚取り出した。
シュヴァルツリッター公爵領の改革概要――短く、正確に、逃げ場のない構成。
(線は、ここで引く)
非公式な場に出れば、こちらの立場は曖昧になる。
王都では、それが命取りだ。
夕刻、廊下で思わぬ人物とすれ違った。
「……エミリア?」
声の主は、かつて王宮で顔見知りだった文官だ。
以前よりも、少し疲れた表情をしている。
「お久しぶりです」
私は、立ち止まり、礼をした。
「本当に……戻ってきたんだな」
「視察と会議のために、です」
言葉を選び、距離を保つ。
「王宮は……正直、混乱している」
彼は、声を落とした。
「皆、君の資料を真似しようとしているが、うまくいかない」
「仕組みだけを真似ても、動きません」
私は、淡々と答える。
「人と責任の置き方が、違いますから」
彼は、苦笑した。
「相変わらずだな」
「変わりました」
私は、静かに訂正する。
「選ぶ立場になりましたから」
その言葉に、彼は何も言えなかった。
夜。
宿舎の窓から、王都の灯りを眺める。
美しい。
けれど、どこか張り詰めている。
(ここは、舞台)
主役になろうとは思わない。
だが、端役で終わるつもりもない。
翌朝、会議当日。
大広間には、各地の代表が集まっていた。
視線が交錯し、評価と警戒が入り混じる。
「次に、シュヴァルツリッター公爵領の報告を」
司会の声が響く。
私は、立ち上がった。
歩みは、落ち着いている。
一歩一歩が、これまで積み重ねた日々の延長だ。
「エミリア・ノルト。
シュヴァルツリッター公爵補佐官として、報告いたします」
ざわめきが、静まる。
「我々の改革は、奇策ではありません。
透明化、分業、責任の明確化――それだけです」
私は、資料を掲げる。
「成果は、こちらに示した通り。
短期的な効率ではなく、継続性を重視しています」
質問が飛ぶ。
「その体制、王都でも再現可能だと?」
「条件次第です」
私は、即答する。
「権限と責任を一致させる覚悟があれば。
なければ、数字だけが崩れます」
場が、静まり返る。
忖度はしない。
媚びもしない。
それが、私の立場だ。
「最後に、一点」
私は、視線を巡らせた。
「この改革は、私個人の功績ではありません。
現場が動き、信頼が積み上がった結果です」
拍手は、起きなかった。
だが、それでいい。
王都は、拍手よりも重い沈黙で、価値を測る。
席に戻ると、いくつもの視線が突き刺さる。
評価、警戒、そして――計算。
(来る)
会議後の動きが、勝負だ。
私は、資料を整え、背筋を伸ばした。
ここは、私の居場所ではない。
だが、私の言葉は、ここでも通る。
舞台に立つ覚悟は、すでにできている。
この王都で、私は何も失わない。
示すべきものは、すでに手の中にあるのだから。
王都の城壁が見えた瞬間、馬車の空気が変わった。
人の流れが密になり、道の端には露店が並び、遠くから鐘の音が重なって聞こえてくる。
懐かしい――そう感じる前に、私は意識的に息を整えた。
(懐かしさに、足を取られない)
王都は、過去の場所だ。
今の私が立つ場所ではない。
迎えの騎士に導かれ、宿舎へ向かう。
用意されたのは、格式だけは整ったが、どこか“仮住まい”の空気が漂う部屋だった。
「……十分ね」
私は荷を解き、資料鞄を机に置いた。
余計な装飾は要らない。必要なのは、明日の会議で示す中身だけだ。
ほどなく、控えめなノック。
「エミリア・ノルト補佐官様。
王宮より、非公式の面会要請がございます」
案内役の文官が、言葉を選んで告げる。
「……非公式、ですか」
私は、視線を上げた。
「どなたから?」
「財務局長代理と、内務院の数名が同席するとのことです」
予想通りだった。
公式会議の前に、圧をかけ、情報を引き出す。
「お断りします」
即答だった。
文官が、わずかに目を見開く。
「理由は、明日の会議で十分にお話しできるからです」
「……承知しました」
扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。
私は、椅子に腰を下ろし、資料を一枚取り出した。
シュヴァルツリッター公爵領の改革概要――短く、正確に、逃げ場のない構成。
(線は、ここで引く)
非公式な場に出れば、こちらの立場は曖昧になる。
王都では、それが命取りだ。
夕刻、廊下で思わぬ人物とすれ違った。
「……エミリア?」
声の主は、かつて王宮で顔見知りだった文官だ。
以前よりも、少し疲れた表情をしている。
「お久しぶりです」
私は、立ち止まり、礼をした。
「本当に……戻ってきたんだな」
「視察と会議のために、です」
言葉を選び、距離を保つ。
「王宮は……正直、混乱している」
彼は、声を落とした。
「皆、君の資料を真似しようとしているが、うまくいかない」
「仕組みだけを真似ても、動きません」
私は、淡々と答える。
「人と責任の置き方が、違いますから」
彼は、苦笑した。
「相変わらずだな」
「変わりました」
私は、静かに訂正する。
「選ぶ立場になりましたから」
その言葉に、彼は何も言えなかった。
夜。
宿舎の窓から、王都の灯りを眺める。
美しい。
けれど、どこか張り詰めている。
(ここは、舞台)
主役になろうとは思わない。
だが、端役で終わるつもりもない。
翌朝、会議当日。
大広間には、各地の代表が集まっていた。
視線が交錯し、評価と警戒が入り混じる。
「次に、シュヴァルツリッター公爵領の報告を」
司会の声が響く。
私は、立ち上がった。
歩みは、落ち着いている。
一歩一歩が、これまで積み重ねた日々の延長だ。
「エミリア・ノルト。
シュヴァルツリッター公爵補佐官として、報告いたします」
ざわめきが、静まる。
「我々の改革は、奇策ではありません。
透明化、分業、責任の明確化――それだけです」
私は、資料を掲げる。
「成果は、こちらに示した通り。
短期的な効率ではなく、継続性を重視しています」
質問が飛ぶ。
「その体制、王都でも再現可能だと?」
「条件次第です」
私は、即答する。
「権限と責任を一致させる覚悟があれば。
なければ、数字だけが崩れます」
場が、静まり返る。
忖度はしない。
媚びもしない。
それが、私の立場だ。
「最後に、一点」
私は、視線を巡らせた。
「この改革は、私個人の功績ではありません。
現場が動き、信頼が積み上がった結果です」
拍手は、起きなかった。
だが、それでいい。
王都は、拍手よりも重い沈黙で、価値を測る。
席に戻ると、いくつもの視線が突き刺さる。
評価、警戒、そして――計算。
(来る)
会議後の動きが、勝負だ。
私は、資料を整え、背筋を伸ばした。
ここは、私の居場所ではない。
だが、私の言葉は、ここでも通る。
舞台に立つ覚悟は、すでにできている。
この王都で、私は何も失わない。
示すべきものは、すでに手の中にあるのだから。
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