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第7話 聖女が私の後ろに隠れた瞬間、立場が逆転しました
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第7話 聖女が私の後ろに隠れた瞬間、立場が逆転しました
祈祷が終わったあとも、聖堂の空気は妙に落ち着いていた。
ざわめきはない。
期待も、恐怖も、過剰な敬意もない。
――ただ、安心だけが残っている。
それがどれほど異常な光景なのかを理解していたのは、たぶん私だけだった。
「……ミリエラ」
王太子エドワルド殿下が、低い声で名を呼ぶ。
その声に、ミリエラの肩がびくりと震えた。
次の瞬間。
彼女は、無意識のように一歩下がり――
私の背後に、すっと隠れた。
その動きはあまりにも自然で、だからこそ衝撃的だった。
聖堂に残っていた神官たちが、息を呑む。
「……ミリエラ?」
殿下が戸惑いを含んだ声で呼びかける。
だが、彼女は出てこない。
私の服の裾を、きゅっと掴んだままだ。
――ああ。
私は内心で、はっきりと理解した。
(終わったわね)
聖女が“誰のそばで安心できるか”。
それが、今この瞬間、誰の目にも明らかになった。
「……どういうつもりだ?」
殿下の視線が、私に突き刺さる。
「説明してもらおう、リュシア」
私は、静かに振り返った。
「殿下。聖女は“所有物”ではありません」
「そんなことは分かっている!」
「いいえ。分かっていません」
声を荒げる必要はなかった。
事実を並べるだけで、十分だったから。
「あなたは、彼女に“何をすれば評価されるか”しか与えなかった。
けれど、彼女が必要としていたのは――
“失敗しても否定されない場所”です」
ミリエラの指先が、少しだけ緩む。
それでも、私の後ろから離れない。
神官長が、慎重に口を挟んだ。
「……殿下。
聖女様が、ここまで明確に拒否の態度を示されるのは、前例が……」
「拒否しているわけではありません」
私は訂正する。
「“選んでいる”だけです」
殿下の顔が、はっきりと歪んだ。
「……君が、そう仕向けたのか?」
「いいえ」
私は即座に否定した。
「私は、何も指示していません。
彼女が自分で、安心できる場所を選んだだけです」
沈黙。
その沈黙が、すべてを物語っていた。
やがて、ミリエラが小さな声で言った。
「……殿下」
殿下の目が、希望に揺れる。
だが、続いた言葉は――
「今は……リュシア様のそばに、いさせてください」
はっきりとした意思表示だった。
聖女が、王太子ではなく、
“婚約破棄された元補佐官”を選んだ瞬間。
神官たちは、互いに視線を交わし、ゆっくりと頭を下げた。
「……聖女様のご意思を、最優先といたします」
それが、制度上の正解だった。
殿下は、何も言えなかった。
拳を握りしめ、唇を噛みしめ、
それでも――否定できない。
私は、背後のミリエラに小さく声をかける。
「大丈夫ですよ」
「……はい」
その返事は、震えていなかった。
聖堂の外では、鐘が鳴っている。
――祝福の鐘ではない。
体制が変わったことを告げる、合図の音。
私は、静かに思う。
(殿下。
あなたが切り捨てたのは、
補佐官でも、婚約者でもありません)
あなたが切り捨てたのは――
**“聖女に選ばれる立場”だったのですから。
祈祷が終わったあとも、聖堂の空気は妙に落ち着いていた。
ざわめきはない。
期待も、恐怖も、過剰な敬意もない。
――ただ、安心だけが残っている。
それがどれほど異常な光景なのかを理解していたのは、たぶん私だけだった。
「……ミリエラ」
王太子エドワルド殿下が、低い声で名を呼ぶ。
その声に、ミリエラの肩がびくりと震えた。
次の瞬間。
彼女は、無意識のように一歩下がり――
私の背後に、すっと隠れた。
その動きはあまりにも自然で、だからこそ衝撃的だった。
聖堂に残っていた神官たちが、息を呑む。
「……ミリエラ?」
殿下が戸惑いを含んだ声で呼びかける。
だが、彼女は出てこない。
私の服の裾を、きゅっと掴んだままだ。
――ああ。
私は内心で、はっきりと理解した。
(終わったわね)
聖女が“誰のそばで安心できるか”。
それが、今この瞬間、誰の目にも明らかになった。
「……どういうつもりだ?」
殿下の視線が、私に突き刺さる。
「説明してもらおう、リュシア」
私は、静かに振り返った。
「殿下。聖女は“所有物”ではありません」
「そんなことは分かっている!」
「いいえ。分かっていません」
声を荒げる必要はなかった。
事実を並べるだけで、十分だったから。
「あなたは、彼女に“何をすれば評価されるか”しか与えなかった。
けれど、彼女が必要としていたのは――
“失敗しても否定されない場所”です」
ミリエラの指先が、少しだけ緩む。
それでも、私の後ろから離れない。
神官長が、慎重に口を挟んだ。
「……殿下。
聖女様が、ここまで明確に拒否の態度を示されるのは、前例が……」
「拒否しているわけではありません」
私は訂正する。
「“選んでいる”だけです」
殿下の顔が、はっきりと歪んだ。
「……君が、そう仕向けたのか?」
「いいえ」
私は即座に否定した。
「私は、何も指示していません。
彼女が自分で、安心できる場所を選んだだけです」
沈黙。
その沈黙が、すべてを物語っていた。
やがて、ミリエラが小さな声で言った。
「……殿下」
殿下の目が、希望に揺れる。
だが、続いた言葉は――
「今は……リュシア様のそばに、いさせてください」
はっきりとした意思表示だった。
聖女が、王太子ではなく、
“婚約破棄された元補佐官”を選んだ瞬間。
神官たちは、互いに視線を交わし、ゆっくりと頭を下げた。
「……聖女様のご意思を、最優先といたします」
それが、制度上の正解だった。
殿下は、何も言えなかった。
拳を握りしめ、唇を噛みしめ、
それでも――否定できない。
私は、背後のミリエラに小さく声をかける。
「大丈夫ですよ」
「……はい」
その返事は、震えていなかった。
聖堂の外では、鐘が鳴っている。
――祝福の鐘ではない。
体制が変わったことを告げる、合図の音。
私は、静かに思う。
(殿下。
あなたが切り捨てたのは、
補佐官でも、婚約者でもありません)
あなたが切り捨てたのは――
**“聖女に選ばれる立場”だったのですから。
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