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第1話 婚約破棄の宣告
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第1話 婚約破棄の宣告
王宮の謁見の間は、いつになくざわついていた。
貴族たちの視線が一斉に集まる先――そこに立たされているのは、私、アデリーナ・フォン・グラーフ。
白を基調とした正装。
王太子の婚約者として、この場に呼ばれるのは何度目だろうか。
けれど、今日の空気は明らかに違っていた。
「静粛に」
重々しい声が響き、場が静まり返る。
玉座の前に立つのは、王太子ローデリヒ。整った顔立ち、堂々とした姿。
その瞳が、冷たく私を射抜いた。
「アデリーナ・フォン・グラーフ。――本日をもって、我々の婚約を破棄する」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
婚約、破棄?
ざわり、と貴族たちがどよめく。
視線が刺さる。驚き、好奇、そして期待に満ちたものまで混じっている。
「理由を……お聞かせいただけますでしょうか」
声が震えないよう、意識して問いかけた。
ローデリヒは、さも当然といった様子で答える。
「簡単な話だ。お前は――役に立たない」
その一言が、胸を深く抉った。
「婚約者として、王太子妃として、何一つ成果を示していない。
社交は地味、存在感も薄い。補佐役としても評価に値しない」
補佐役として、評価に値しない?
思わず息を呑む。
――財政改革案の草案をまとめたのは誰だった?
――諸侯との折衝の裏で、条件調整を行っていたのは?
――滞りがちな行政文書を、夜通し整理していたのは?
それらすべてを、私は声に出さなかった。
「王太子殿下」
私は静かに頭を下げる。
「私に至らぬ点があったのであれば、反省いたします。ですが、婚約破棄はあまりにも――」
「言い訳は不要だ」
ローデリヒは遮るように言い放つ。
「お前は従順だった。それだけだ。
だが、王太子妃に必要なのは、華と影響力だ。お前には、それがない」
従順だった。それだけ。
胸の奥で、何かが静かに崩れ落ちていく音がした。
会場の隅から、誰かが小さく笑う声が聞こえた。
――ああ、これはもう、決まっていたことなのだ。
「婚約破棄に伴い、グラーフ家との縁もここで断つ。
速やかに王都を離れよ」
追放同然の宣告。
それでも私は、顔を上げ、まっすぐローデリヒを見つめた。
「……承知いたしました」
自分でも驚くほど、冷静な声だった。
これ以上、何を言っても無意味だ。
この人は、私が何をしてきたのか、最初から見るつもりがなかった。
深く一礼し、踵を返す。
背後で、ローデリヒの声が追いかけてきた。
「安心しろ。お前の代わりはすでに用意してある」
その言葉に、振り返ることはしなかった。
――どうぞ、お好きに。
私は、静かに王宮を後にした。
この日、王太子は一つの婚約を破棄した。
同時に、自分の足元を支えていた“見えない歯車”を、完全に失ったことにも気づかずに。
その代価を支払うのは、これからだ。
王宮の謁見の間は、いつになくざわついていた。
貴族たちの視線が一斉に集まる先――そこに立たされているのは、私、アデリーナ・フォン・グラーフ。
白を基調とした正装。
王太子の婚約者として、この場に呼ばれるのは何度目だろうか。
けれど、今日の空気は明らかに違っていた。
「静粛に」
重々しい声が響き、場が静まり返る。
玉座の前に立つのは、王太子ローデリヒ。整った顔立ち、堂々とした姿。
その瞳が、冷たく私を射抜いた。
「アデリーナ・フォン・グラーフ。――本日をもって、我々の婚約を破棄する」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
婚約、破棄?
ざわり、と貴族たちがどよめく。
視線が刺さる。驚き、好奇、そして期待に満ちたものまで混じっている。
「理由を……お聞かせいただけますでしょうか」
声が震えないよう、意識して問いかけた。
ローデリヒは、さも当然といった様子で答える。
「簡単な話だ。お前は――役に立たない」
その一言が、胸を深く抉った。
「婚約者として、王太子妃として、何一つ成果を示していない。
社交は地味、存在感も薄い。補佐役としても評価に値しない」
補佐役として、評価に値しない?
思わず息を呑む。
――財政改革案の草案をまとめたのは誰だった?
――諸侯との折衝の裏で、条件調整を行っていたのは?
――滞りがちな行政文書を、夜通し整理していたのは?
それらすべてを、私は声に出さなかった。
「王太子殿下」
私は静かに頭を下げる。
「私に至らぬ点があったのであれば、反省いたします。ですが、婚約破棄はあまりにも――」
「言い訳は不要だ」
ローデリヒは遮るように言い放つ。
「お前は従順だった。それだけだ。
だが、王太子妃に必要なのは、華と影響力だ。お前には、それがない」
従順だった。それだけ。
胸の奥で、何かが静かに崩れ落ちていく音がした。
会場の隅から、誰かが小さく笑う声が聞こえた。
――ああ、これはもう、決まっていたことなのだ。
「婚約破棄に伴い、グラーフ家との縁もここで断つ。
速やかに王都を離れよ」
追放同然の宣告。
それでも私は、顔を上げ、まっすぐローデリヒを見つめた。
「……承知いたしました」
自分でも驚くほど、冷静な声だった。
これ以上、何を言っても無意味だ。
この人は、私が何をしてきたのか、最初から見るつもりがなかった。
深く一礼し、踵を返す。
背後で、ローデリヒの声が追いかけてきた。
「安心しろ。お前の代わりはすでに用意してある」
その言葉に、振り返ることはしなかった。
――どうぞ、お好きに。
私は、静かに王宮を後にした。
この日、王太子は一つの婚約を破棄した。
同時に、自分の足元を支えていた“見えない歯車”を、完全に失ったことにも気づかずに。
その代価を支払うのは、これからだ。
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