『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾

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14話 季節だけが進む

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14話 季節だけが進む

 朝の空気が、少し冷たくなった。

 ファーファは目を覚ました瞬間、それを肌で感じた。布から出る前に、外套を探す。季節が一段階進んだことは、体が先に教えてくる。

 扉を開けると、澄んだ空気が流れ込んだ。
 箱は、今日も同じ場所にある。

 ただ、それだけで分かる。

 中身が変わっている。

 箱を運び、蓋を開ける。
 保存食の種類が少し変わり、乾燥肉が増えている。布は厚手になり、手袋が一組入っていた。

「……もう、そんな時期なのね」

 暦を見なくても、王都の噂を聞かなくても、季節は進む。
 そして、その進み方は、いつも穏やかだ。

 必要な分だけ取り出し、棚に置く。
 残りは、そのまま。

 管理しない生活は、楽だった。
 先を読まなくていい。
 備えを競わなくていい。

 湯を沸かし、紅茶を淹れる。
 今日は、少しだけ長く湯気を眺めた。

 王都では今頃、行事の準備が進んでいるだろう。季節が変われば、役割も変わる。式典、会合、視察。忙しさが、美徳として扱われる。

 ここには、それがない。

 午前中、本を読む。
 途中で閉じ、外を見る。

 木々の色が、わずかに変わっている。葉が落ちるほどではないが、確実に次の段階に向かっている。

 昼、温かい食事を取る。
 量は変えない。必要なだけ。

 午後、少しだけ外に出る。
 風が冷たく、長くは歩かない。歩かない判断も、自由だ。

 戻って、椅子に座る。
 毛布を一枚、肩に掛ける。

 王都では、誰かが「何もしていない時間」を不安に思っている。
 ここでは、「何もしていない時間」が基準だ。

 夕方、火を入れる。
 薪の量は、ちょうどいい。増やす必要も、減らす必要もない。

 夜、灯りを落とし、寝台に横になる。

 季節だけが、進んでいく。
 役割も、評価も、戻ってこない。

 それで、問題はなかった。

 ファーファ・ノクティスは、
 何も変えずに、変わっていく時間の中で、
 静かに目を閉じた。
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