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第三話 「じゃあ、とりあえず海外行ってきます」
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第三話 「じゃあ、とりあえず海外行ってきます」
王城の自室を出た瞬間、
ティモテ・ユニリーバの足取りは、驚くほど軽かった。
(……全部、終わった)
王太子妃候補としての職務。
王都の書類。
責任。
判断権。
すべて、きれいさっぱり置いてきた。
――本当に、何も持っていない。
その事実を自覚した途端、
胸の奥で、何かが弾けた。
(……やりましたわ)
内心で、思いきり拳を握る。
誰も見ていない。
今の自分を監視する立場の人間もいない。
叱責も、呼び止めも、次の指示もない。
(ガッツポーズ、していいですわよね)
実際にやるほど子どもではない。
だが、気分はそれに近かった。
王城の廊下を歩きながら、
次々と考えが浮かんでくる。
(明日の会議は……ない)
(調整期限も……ない)
(誰かの機嫌を取る必要も……ない)
一つ気づくたびに、
心がふわりと軽くなる。
(……暇、ですわね)
それは、今まで一度も使ったことのない言葉だった。
部屋に戻り、最低限の私物だけを確認する。
衣類、宝飾品、旅用の鞄。
公爵令嬢として用意されていたものは、すべて揃っている。
だが、
“王太子妃候補としての資料”は、一切ない。
(……本当に、身軽)
ふと、鏡に映る自分を見る。
顔色は悪くない。
だが、どこか張り詰めた雰囲気が、まだ残っている。
(これは……)
(仕事の顔、ですわね)
無意識に、眉間に力が入っていたことに気づき、
ティモテは小さく息を吐いた。
「……やめましょう」
誰に言うでもなく、そう呟く。
(もう、仕事じゃありません)
(評価される必要も、期待される必要もない)
そうなると――
次に来るのは、当然この疑問だった。
(……じゃあ、何をしましょう)
考えた瞬間、
不思議なほど、心が弾む。
選択肢が無限にある。
しかも、どれを選んでも怒られない。
(王都に残る理由は……ありませんわね)
むしろ、近づくと危険だ。
「ティモテ様、少々よろしいでしょうか」
控えめなノックとともに、侍女の声。
「はい」
扉を開けた侍女は、どこか落ち着かない様子だった。
「本日以降のご予定ですが……」
その言葉を聞いた瞬間、
ティモテの中で、何かがはっきりと決まった。
(……あ)
(これですわ)
「予定?」
にこりと微笑む。
「まだ、決めていませんわ」
「では……王城での滞在は……?」
ティモテは、一拍置いてから、あっさりと言った。
「しません」
「……え?」
「王都にも、用はありません」
侍女は、完全に言葉を失った。
その反応を見て、
ティモテは内心で少しだけ笑う。
(そうでしょうね)
今までの自分なら、
「次の予定を詰めてください」
そう言っていた。
だが今は違う。
「準備をしてくださいな」
「準備、ですか……?」
「旅の準備です」
その言葉が、口から出た瞬間――
すべてが、はっきりした。
(そうですわ)
(せっかくの異世界ですもの)
(働いて終わるなんて、もったいない)
「……どちらへ?」
侍女が恐る恐る尋ねる。
ティモテは、少し考えてから、
しかし即座に結論を出した。
「海外です」
あまりにも軽い口調だった。
「観光に、食事に……」
指を折りながら数える。
「何より――」
一度、言葉を切る。
「仕事じゃない旅を、してみたいのです」
侍女は、目を見開いた。
「で、ですが……王太子妃候補では……」
「ありません」
即答だった。
「昨日で、終わりました」
その言葉に、
侍女は何も言えなくなる。
ティモテは、窓の外を見る。
王城の尖塔が、青空に伸びている。
(ここにいると、また――)
(無意識に、何かを背負ってしまいそうですわ)
だからこそ。
「……じゃあ」
心の中で、はっきりと宣言する。
(とりあえず)
(海外、行ってきます)
その瞬間、
胸の奥から、今まで味わったことのない高揚感が湧き上がった。
計画は、ない。
目的も、ない。
期限も、ない。
あるのは、
自分のために時間を使っていい、という事実だけ。
(転生して、二度目の人生で)
(ようやく、ちゃんと生きる気がしますわね)
ティモテ・ユニリーバは、
旅用の鞄を手に取り、軽く肩にかけた。
王都に別れを告げるわけでもない。
誰かに許可を取る必要もない。
ただ――
行きたいから、行く。
それだけの理由で、
彼女は歩き出した。
こうして。
働き詰めだった公爵令嬢は、
ついに自分の意思で、
世界へ足を向けたのだった。
次は――
仕事ではない海外。
観光と食事だけの旅。
誰にも邪魔されない、
本当の休暇が、始まる。
王城の自室を出た瞬間、
ティモテ・ユニリーバの足取りは、驚くほど軽かった。
(……全部、終わった)
王太子妃候補としての職務。
王都の書類。
責任。
判断権。
すべて、きれいさっぱり置いてきた。
――本当に、何も持っていない。
その事実を自覚した途端、
胸の奥で、何かが弾けた。
(……やりましたわ)
内心で、思いきり拳を握る。
誰も見ていない。
今の自分を監視する立場の人間もいない。
叱責も、呼び止めも、次の指示もない。
(ガッツポーズ、していいですわよね)
実際にやるほど子どもではない。
だが、気分はそれに近かった。
王城の廊下を歩きながら、
次々と考えが浮かんでくる。
(明日の会議は……ない)
(調整期限も……ない)
(誰かの機嫌を取る必要も……ない)
一つ気づくたびに、
心がふわりと軽くなる。
(……暇、ですわね)
それは、今まで一度も使ったことのない言葉だった。
部屋に戻り、最低限の私物だけを確認する。
衣類、宝飾品、旅用の鞄。
公爵令嬢として用意されていたものは、すべて揃っている。
だが、
“王太子妃候補としての資料”は、一切ない。
(……本当に、身軽)
ふと、鏡に映る自分を見る。
顔色は悪くない。
だが、どこか張り詰めた雰囲気が、まだ残っている。
(これは……)
(仕事の顔、ですわね)
無意識に、眉間に力が入っていたことに気づき、
ティモテは小さく息を吐いた。
「……やめましょう」
誰に言うでもなく、そう呟く。
(もう、仕事じゃありません)
(評価される必要も、期待される必要もない)
そうなると――
次に来るのは、当然この疑問だった。
(……じゃあ、何をしましょう)
考えた瞬間、
不思議なほど、心が弾む。
選択肢が無限にある。
しかも、どれを選んでも怒られない。
(王都に残る理由は……ありませんわね)
むしろ、近づくと危険だ。
「ティモテ様、少々よろしいでしょうか」
控えめなノックとともに、侍女の声。
「はい」
扉を開けた侍女は、どこか落ち着かない様子だった。
「本日以降のご予定ですが……」
その言葉を聞いた瞬間、
ティモテの中で、何かがはっきりと決まった。
(……あ)
(これですわ)
「予定?」
にこりと微笑む。
「まだ、決めていませんわ」
「では……王城での滞在は……?」
ティモテは、一拍置いてから、あっさりと言った。
「しません」
「……え?」
「王都にも、用はありません」
侍女は、完全に言葉を失った。
その反応を見て、
ティモテは内心で少しだけ笑う。
(そうでしょうね)
今までの自分なら、
「次の予定を詰めてください」
そう言っていた。
だが今は違う。
「準備をしてくださいな」
「準備、ですか……?」
「旅の準備です」
その言葉が、口から出た瞬間――
すべてが、はっきりした。
(そうですわ)
(せっかくの異世界ですもの)
(働いて終わるなんて、もったいない)
「……どちらへ?」
侍女が恐る恐る尋ねる。
ティモテは、少し考えてから、
しかし即座に結論を出した。
「海外です」
あまりにも軽い口調だった。
「観光に、食事に……」
指を折りながら数える。
「何より――」
一度、言葉を切る。
「仕事じゃない旅を、してみたいのです」
侍女は、目を見開いた。
「で、ですが……王太子妃候補では……」
「ありません」
即答だった。
「昨日で、終わりました」
その言葉に、
侍女は何も言えなくなる。
ティモテは、窓の外を見る。
王城の尖塔が、青空に伸びている。
(ここにいると、また――)
(無意識に、何かを背負ってしまいそうですわ)
だからこそ。
「……じゃあ」
心の中で、はっきりと宣言する。
(とりあえず)
(海外、行ってきます)
その瞬間、
胸の奥から、今まで味わったことのない高揚感が湧き上がった。
計画は、ない。
目的も、ない。
期限も、ない。
あるのは、
自分のために時間を使っていい、という事実だけ。
(転生して、二度目の人生で)
(ようやく、ちゃんと生きる気がしますわね)
ティモテ・ユニリーバは、
旅用の鞄を手に取り、軽く肩にかけた。
王都に別れを告げるわけでもない。
誰かに許可を取る必要もない。
ただ――
行きたいから、行く。
それだけの理由で、
彼女は歩き出した。
こうして。
働き詰めだった公爵令嬢は、
ついに自分の意思で、
世界へ足を向けたのだった。
次は――
仕事ではない海外。
観光と食事だけの旅。
誰にも邪魔されない、
本当の休暇が、始まる。
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