40 / 40
第四十話 空を見上げて
しおりを挟む
第四十話 空を見上げて
夜明け前。
宿の窓を開けると、ひんやりとした空気が静かに流れ込んできた。
街はまだ眠っており、人の気配も、仕事の気配もない。
ティモテは外へ出て、空を見上げる。
星が、驚くほど近い。
王都の空は、いつも薄く濁っていた。
魔法灯の光、建物の影、そして責任という名の重さが、空を遠ざけていたのだと、今ならはっきりわかる。
「……こんなに、広かったのですね」
深く息を吸い込む。
胸いっぱいに、冷たく澄んだ空気が満ちていく。
思えば、長い時間を働いてきた。
望まれているから。
向いているから。
できてしまうから。
その理由だけで、仕事は増え、役割は重くなり、自分の時間は削られていった。
王太子のため。
王国のため。
公爵家のため。
それが当たり前だと思っていたし、誇りでもあった。
「働く人生も……悪くなかったですわ」
努力した時間を否定する気はない。
知識も、判断も、責任も、すべてが今の自分を形作っている。
けれど。
風が吹き、雲がゆっくりと流れていくのを眺めながら、ティモテは続けた。
「でも――」
ほんの少し、口元が緩む。
「遊ぶ人生は、もっといい」
そして、小さく息を吐くように、静かに言葉を紡いだ。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
もう、誰かの期待を背負わなくていい。
役割に縛られなくていい。
評価されるために生きなくていい。
朝の光が、地平線の向こうから差し込み始める。
ティモテはその光を眩しそうに見つめ、ふと、いたずらっぽく微笑んだ。
「恋愛ゲームでもしてみましょうか……」
誰に向けた言葉でもない。
計画も、攻略対象も、ルート分岐も決まっていない。
だからこそ、楽しい。
背後で、街が少しずつ目を覚まし始める。
遠くで扉が開き、足音が響く。
ティモテはもう一度空を見上げ、踵を返した。
「さあ……今日は、どんな遊びをしましょう」
答えは、必要ない。
こうして、
ティモテ・ユニリーバの人生は――
義務でも、婚約でも、仕事でもなく。
自由と遊びと、少しの恋を抱えながら、静かに、そして確かに続いていく。
第四十話 完。
夜明け前。
宿の窓を開けると、ひんやりとした空気が静かに流れ込んできた。
街はまだ眠っており、人の気配も、仕事の気配もない。
ティモテは外へ出て、空を見上げる。
星が、驚くほど近い。
王都の空は、いつも薄く濁っていた。
魔法灯の光、建物の影、そして責任という名の重さが、空を遠ざけていたのだと、今ならはっきりわかる。
「……こんなに、広かったのですね」
深く息を吸い込む。
胸いっぱいに、冷たく澄んだ空気が満ちていく。
思えば、長い時間を働いてきた。
望まれているから。
向いているから。
できてしまうから。
その理由だけで、仕事は増え、役割は重くなり、自分の時間は削られていった。
王太子のため。
王国のため。
公爵家のため。
それが当たり前だと思っていたし、誇りでもあった。
「働く人生も……悪くなかったですわ」
努力した時間を否定する気はない。
知識も、判断も、責任も、すべてが今の自分を形作っている。
けれど。
風が吹き、雲がゆっくりと流れていくのを眺めながら、ティモテは続けた。
「でも――」
ほんの少し、口元が緩む。
「遊ぶ人生は、もっといい」
そして、小さく息を吐くように、静かに言葉を紡いだ。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
もう、誰かの期待を背負わなくていい。
役割に縛られなくていい。
評価されるために生きなくていい。
朝の光が、地平線の向こうから差し込み始める。
ティモテはその光を眩しそうに見つめ、ふと、いたずらっぽく微笑んだ。
「恋愛ゲームでもしてみましょうか……」
誰に向けた言葉でもない。
計画も、攻略対象も、ルート分岐も決まっていない。
だからこそ、楽しい。
背後で、街が少しずつ目を覚まし始める。
遠くで扉が開き、足音が響く。
ティモテはもう一度空を見上げ、踵を返した。
「さあ……今日は、どんな遊びをしましょう」
答えは、必要ない。
こうして、
ティモテ・ユニリーバの人生は――
義務でも、婚約でも、仕事でもなく。
自由と遊びと、少しの恋を抱えながら、静かに、そして確かに続いていく。
第四十話 完。
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる