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第2話: 予兆の舞踏会
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第2話: 予兆の舞踏会
翌日の夕刻、王宮の大広間は華やかな灯りに満ちていた。
シャンデリアの光が無数のクリスタルをきらめかせ、床に敷かれた大理石が鏡のように反射する。貴族たちが色とりどりのドレスと礼服をまとい、優雅に談笑する中、私は父と並んで入場した。
「お嬢様、素敵なお姿です」
ソフィアが朝から何度も言ってくれた言葉を思い出し、少しだけ胸を張る。水色のドレスは私の瞳の色に合わせて選んだもの。スカートはふんわりと広がり、歩くたびに銀の刺繍が光を跳ね返す。首元のサファイアのネックレスが、婚約の証として静かに輝いている。
父が私の手を軽く握った。
「エレナ、楽しんでくるのだぞ。王子殿下もお待ちだろう」
「はい、お父様」
父の声はいつもより柔らかかった。私が幸せであることを、心から願ってくれているのが伝わる。
広間に入ると、すぐに視線が集まった。
「あれがリシュタイン公爵家のエレナ様ね」
「王子殿下の婚約者だもの。美しいわ」
囁き声が聞こえるたびに、頬が熱くなる。でも、嬉しい。みんなが認めてくれている気がした。
やがて、ファンファーレが鳴り響き、アレックス王子が入場した。
金色の髪が光を受け、青い瞳が優しく微笑む。白の礼服に身を包んだ姿は、まるで絵本の中の王子様そのものだ。私の心臓が、早鐘のように鳴り始めた。
王子はまっすぐにこちらへ歩み寄ってきた。
「エレナ、来てくれてありがとう。君のドレス、とても似合っている」
「王子殿下……ありがとうございます」
声が少し震えた。王子は私の手を取り、軽くキスを落とす。貴族の挨拶として当然のことなのに、触れた唇の温もりに体が熱くなった。
「今夜は一緒に踊ろう。約束だよ」
「はい、楽しみにしております」
王子は微笑み、私の手を離すと、他の貴族たちに挨拶を始めた。私は少し離れた場所で、友人たちに囲まれた。
「エレナ様、王子殿下と本当に仲が良さそう!」
「羨ましい限りだわ」
みんなの言葉に、私は照れながら頷く。でも、どこかで小さな違和感を覚えていた。
王子が少し遠くにいる今、視線を追ってみると――。
そこに、一人の令嬢が立っていた。
金髪を優雅にアップにまとめ、鮮やかな赤のドレスを着た美しい女性。碧い瞳が妖しく輝き、周囲の貴族たちを自然と引きつけている。彼女の名は、リリア・ド・ヴァレンティア。昨日ティーパーティーで話題になった伯爵令嬢だ。
王子が彼女に近づいていく。
「リリア嬢、久しぶりだね。今夜も美しい」
「王子殿下、お褒めにあずかり光栄です」
リリアは優雅にお辞儀をし、王子に微笑みかけた。その笑顔は、私に向けられるものよりもずっと親しげで、輝いていた。
二人が並んで談笑する姿を、私は遠くから見つめていた。
胸の奥に、冷たいものが広がる。
違う。これはただの挨拶だ。王子は誰にでも優しい人だ。私にだって、いつも優しくしてくださる。
そう自分に言い聞かせたけれど、視線が離せなかった。
リリアが王子に何か囁くと、王子が楽しそうに笑った。その笑顔は、最近私に向けられたものよりも、ずっと自然に見えた。
音楽が流れ、ダンスが始まった。
王子はまず、私と踊ってくれた。
手を取られ、ワルツのステップを踏む。音楽に合わせて体が浮くような感覚。でも、王子の手は少し力みがなく、視線が時折リリアの方へ向かっている気がした。
「エレナ、楽しんでいるかい?」
「はい、とても……」
「それは良かった」
王子は微笑んだが、会話はそこで途切れた。以前はもっとたくさん話してくれたのに。
一曲が終わり、王子は私に軽く頭を下げると、次のパートナーを探し始めた。
そして、向かった先は――リリアだった。
二人が一緒に踊り始めた。
リリアの赤いドレスがくるくると回り、王子の白い礼服と美しく調和する。まるで絵画のような二人。周囲の貴族たちも、感嘆の声を上げていた。
「あの二人はお似合いね」
「リリア嬢、王子殿下と本当に親しそう」
そんな囁きが、私の耳に届くたびに、胸が締め付けられた。
私は壁際に立ち、二人を見つめ続けた。
リリアが王子に何か言って笑う。王子も楽しそうに応えている。二人の距離が、近すぎる気がした。
ダンスが終わり、二人が拍手に包まれる。
私は、そっと視線を逸らした。
違う。これはただの舞踏会だ。誰と踊ろうと、王子の自由だ。私は婚約者なんだから。
でも、心の奥で、小さな不安が芽生え始めていた。
この夜が、私の運命を変える始まりだとは、まだ気づいていなかった。
ただ、胸の痛みを抱えたまま、笑顔を保ち続けていた。
舞踏会はまだ続き、華やかな灯りは消えることなく、私の心を照らし続けていた――。
翌日の夕刻、王宮の大広間は華やかな灯りに満ちていた。
シャンデリアの光が無数のクリスタルをきらめかせ、床に敷かれた大理石が鏡のように反射する。貴族たちが色とりどりのドレスと礼服をまとい、優雅に談笑する中、私は父と並んで入場した。
「お嬢様、素敵なお姿です」
ソフィアが朝から何度も言ってくれた言葉を思い出し、少しだけ胸を張る。水色のドレスは私の瞳の色に合わせて選んだもの。スカートはふんわりと広がり、歩くたびに銀の刺繍が光を跳ね返す。首元のサファイアのネックレスが、婚約の証として静かに輝いている。
父が私の手を軽く握った。
「エレナ、楽しんでくるのだぞ。王子殿下もお待ちだろう」
「はい、お父様」
父の声はいつもより柔らかかった。私が幸せであることを、心から願ってくれているのが伝わる。
広間に入ると、すぐに視線が集まった。
「あれがリシュタイン公爵家のエレナ様ね」
「王子殿下の婚約者だもの。美しいわ」
囁き声が聞こえるたびに、頬が熱くなる。でも、嬉しい。みんなが認めてくれている気がした。
やがて、ファンファーレが鳴り響き、アレックス王子が入場した。
金色の髪が光を受け、青い瞳が優しく微笑む。白の礼服に身を包んだ姿は、まるで絵本の中の王子様そのものだ。私の心臓が、早鐘のように鳴り始めた。
王子はまっすぐにこちらへ歩み寄ってきた。
「エレナ、来てくれてありがとう。君のドレス、とても似合っている」
「王子殿下……ありがとうございます」
声が少し震えた。王子は私の手を取り、軽くキスを落とす。貴族の挨拶として当然のことなのに、触れた唇の温もりに体が熱くなった。
「今夜は一緒に踊ろう。約束だよ」
「はい、楽しみにしております」
王子は微笑み、私の手を離すと、他の貴族たちに挨拶を始めた。私は少し離れた場所で、友人たちに囲まれた。
「エレナ様、王子殿下と本当に仲が良さそう!」
「羨ましい限りだわ」
みんなの言葉に、私は照れながら頷く。でも、どこかで小さな違和感を覚えていた。
王子が少し遠くにいる今、視線を追ってみると――。
そこに、一人の令嬢が立っていた。
金髪を優雅にアップにまとめ、鮮やかな赤のドレスを着た美しい女性。碧い瞳が妖しく輝き、周囲の貴族たちを自然と引きつけている。彼女の名は、リリア・ド・ヴァレンティア。昨日ティーパーティーで話題になった伯爵令嬢だ。
王子が彼女に近づいていく。
「リリア嬢、久しぶりだね。今夜も美しい」
「王子殿下、お褒めにあずかり光栄です」
リリアは優雅にお辞儀をし、王子に微笑みかけた。その笑顔は、私に向けられるものよりもずっと親しげで、輝いていた。
二人が並んで談笑する姿を、私は遠くから見つめていた。
胸の奥に、冷たいものが広がる。
違う。これはただの挨拶だ。王子は誰にでも優しい人だ。私にだって、いつも優しくしてくださる。
そう自分に言い聞かせたけれど、視線が離せなかった。
リリアが王子に何か囁くと、王子が楽しそうに笑った。その笑顔は、最近私に向けられたものよりも、ずっと自然に見えた。
音楽が流れ、ダンスが始まった。
王子はまず、私と踊ってくれた。
手を取られ、ワルツのステップを踏む。音楽に合わせて体が浮くような感覚。でも、王子の手は少し力みがなく、視線が時折リリアの方へ向かっている気がした。
「エレナ、楽しんでいるかい?」
「はい、とても……」
「それは良かった」
王子は微笑んだが、会話はそこで途切れた。以前はもっとたくさん話してくれたのに。
一曲が終わり、王子は私に軽く頭を下げると、次のパートナーを探し始めた。
そして、向かった先は――リリアだった。
二人が一緒に踊り始めた。
リリアの赤いドレスがくるくると回り、王子の白い礼服と美しく調和する。まるで絵画のような二人。周囲の貴族たちも、感嘆の声を上げていた。
「あの二人はお似合いね」
「リリア嬢、王子殿下と本当に親しそう」
そんな囁きが、私の耳に届くたびに、胸が締め付けられた。
私は壁際に立ち、二人を見つめ続けた。
リリアが王子に何か言って笑う。王子も楽しそうに応えている。二人の距離が、近すぎる気がした。
ダンスが終わり、二人が拍手に包まれる。
私は、そっと視線を逸らした。
違う。これはただの舞踏会だ。誰と踊ろうと、王子の自由だ。私は婚約者なんだから。
でも、心の奥で、小さな不安が芽生え始めていた。
この夜が、私の運命を変える始まりだとは、まだ気づいていなかった。
ただ、胸の痛みを抱えたまま、笑顔を保ち続けていた。
舞踏会はまだ続き、華やかな灯りは消えることなく、私の心を照らし続けていた――。
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