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第28話 近づく視線
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第28話 近づく視線
同盟が結ばれた翌日から、領地は目に見えない圧に包まれ始めた。
何かが起きたわけではない。
書簡が増えたわけでも、兵が動いたわけでもない。
――視線だ。
フェリス・リンクスは、執務机に向かいながら、その感覚を無視しなかった。
(……見られている)
それも、敵意だけではない。
評価し、測り、値踏みする視線。
---
「領主様」
侍女が、慎重に言葉を選ぶ。
「帝都からの招待状が、三通届いております」
差し出された封書には、いずれも名門貴族の紋章が押されていた。
「内容は?」
「“意見交換”“功績を讃える会合”
……そして、縁談を匂わせる文言も」
フェリスは、思わず小さく息を吐いた。
「……来ましたね」
名が広まれば、
“人”としてではなく、“駒”として見られる。
それは、貴族社会の常だ。
---
「すべて、断ります」
即断だった。
侍女は、驚きつつも頷く。
「理由は?」
「今の私は、領主です」
フェリスは、はっきりと告げる。
「誰かの功績を飾る存在でも、
縁談の材料でもありません」
その言葉に、迷いはなかった。
---
午後。
町外れの見回り中、護衛が低声で告げる。
「最近、よそ者が増えています」
「商人?」
「いえ……
身分を隠した貴族か、
あるいは、その使いでしょう」
フェリスは、足を止めた。
「直接の接触は?」
「今のところ、ありません」
「……様子見、ですね」
フェリスは、静かに理解した。
力を持つ者は、まず手を伸ばさない。
転ぶかどうかを見る。
---
夕刻。
辺境伯代理ローディスから、短い暗号文が届いた。
> 南で動きあり。
“名のある領主”を軸に、
再編の兆し。
フェリスは、地図を広げる。
「……私だけじゃない」
帝国は、今、
静かに形を変えようとしている。
---
夜。
執務室の灯りの下、フェリスは一人、考えていた。
(私は、何になりつつあるの?)
被害者。
告発者。
改革者。
そして今――
“基準点”。
誰かが動く時、
フェリス・リンクスの名が、
判断材料に使われ始めている。
---
そこへ、控えめなノック。
「陛下より、私信です」
受け取った書簡は、短かった。
> 名は、矢印だ。
君を指す者もいれば、
君を基準に動く者もいる。
だが忘れるな。
君は、標的である前に、
選ぶ側だ。
フェリスは、静かに紙を畳んだ。
(……そうね)
選ばれるだけの存在には、戻らない。
フェリス・リンクスは、この日、はっきりと決めた。
誰かの期待に応えるためではなく、
誰かの恐怖になるためでもなく。
自分の領地と、人を守るために立つ。
視線が集まるほど、
足元は、より強く固めなければならない。
嵐は、まだ来ていない。
だが――
風向きは、確実に変わり始めていた。
同盟が結ばれた翌日から、領地は目に見えない圧に包まれ始めた。
何かが起きたわけではない。
書簡が増えたわけでも、兵が動いたわけでもない。
――視線だ。
フェリス・リンクスは、執務机に向かいながら、その感覚を無視しなかった。
(……見られている)
それも、敵意だけではない。
評価し、測り、値踏みする視線。
---
「領主様」
侍女が、慎重に言葉を選ぶ。
「帝都からの招待状が、三通届いております」
差し出された封書には、いずれも名門貴族の紋章が押されていた。
「内容は?」
「“意見交換”“功績を讃える会合”
……そして、縁談を匂わせる文言も」
フェリスは、思わず小さく息を吐いた。
「……来ましたね」
名が広まれば、
“人”としてではなく、“駒”として見られる。
それは、貴族社会の常だ。
---
「すべて、断ります」
即断だった。
侍女は、驚きつつも頷く。
「理由は?」
「今の私は、領主です」
フェリスは、はっきりと告げる。
「誰かの功績を飾る存在でも、
縁談の材料でもありません」
その言葉に、迷いはなかった。
---
午後。
町外れの見回り中、護衛が低声で告げる。
「最近、よそ者が増えています」
「商人?」
「いえ……
身分を隠した貴族か、
あるいは、その使いでしょう」
フェリスは、足を止めた。
「直接の接触は?」
「今のところ、ありません」
「……様子見、ですね」
フェリスは、静かに理解した。
力を持つ者は、まず手を伸ばさない。
転ぶかどうかを見る。
---
夕刻。
辺境伯代理ローディスから、短い暗号文が届いた。
> 南で動きあり。
“名のある領主”を軸に、
再編の兆し。
フェリスは、地図を広げる。
「……私だけじゃない」
帝国は、今、
静かに形を変えようとしている。
---
夜。
執務室の灯りの下、フェリスは一人、考えていた。
(私は、何になりつつあるの?)
被害者。
告発者。
改革者。
そして今――
“基準点”。
誰かが動く時、
フェリス・リンクスの名が、
判断材料に使われ始めている。
---
そこへ、控えめなノック。
「陛下より、私信です」
受け取った書簡は、短かった。
> 名は、矢印だ。
君を指す者もいれば、
君を基準に動く者もいる。
だが忘れるな。
君は、標的である前に、
選ぶ側だ。
フェリスは、静かに紙を畳んだ。
(……そうね)
選ばれるだけの存在には、戻らない。
フェリス・リンクスは、この日、はっきりと決めた。
誰かの期待に応えるためではなく、
誰かの恐怖になるためでもなく。
自分の領地と、人を守るために立つ。
視線が集まるほど、
足元は、より強く固めなければならない。
嵐は、まだ来ていない。
だが――
風向きは、確実に変わり始めていた。
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