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第39話 差し出された条件
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第39話 差し出された条件
その書簡は、朝一番に届いた。
封蝋は、帝国中枢府の正式なもの。
差出人も、名を伏せていない。
フェリス・リンクスは、封を切る前に、ほんの一瞬だけ手を止めた。
(……公式、ね)
裏口ではない。
試しでもない。
盤面に置かれた一手だ。
---
文面は、簡潔だった。
> フェリス・リンクス領主
貴領と中央系商会との取引関係について、
改めて協議の場を設けたい。
条件は、貴領より提示されたい。
読み終え、フェリスは書簡を机に置く。
部屋にいた幹部たちが、息を詰めて見守っている。
「……来ましたね」
財務官が、低く言う。
「ええ」
フェリスは、頷いた。
「想定より、少し早いですが」
---
「条件を、こちらから?」
書記官が、確認する。
「はい」
フェリスは、迷いなく答えた。
「向こうが出さなかった条件を、
こちらが定義する」
それは、主導権を意味する。
---
「ですが……」
別の官吏が、慎重に口を開く。
「強く出すぎれば、
再び切られる可能性も」
フェリスは、静かに首を横に振った。
「もう、一方的には切れません」
視線を上げ、全員を見る。
「切った結果が、
どうなったかを、
彼ら自身が見たからです」
---
フェリスは、用意していた書類を広げる。
そこに並ぶ条件は、意外なほど穏やかだった。
・長期契約(最低五年)
・価格の急変動を禁止
・下請け・輸送団の契約自由
・契約破棄時の事前通告義務
「……これだけ?」
誰かが、思わず呟く。
「十分です」
フェリスは、淡々と言った。
「欲張らないことが、
一番の圧になります」
相手は、
短期で縛り、
短期で切る。
こちらは、
長期で縛り、
切る理由を失わせる。
---
「拒否される可能性は?」
「あります」
フェリスは、即答した。
「ですが、その場合」
一拍。
「彼らは、
“もう切れないのに、結べない”
立場になります」
沈黙。
その意味を、皆が理解する。
---
午後。
返書は、簡潔にまとめられた。
> 協議に応じます。
条件は、同封の通り。
本条件は、
当領がすでに実施している基準を、
そのまま適用するものです。
“特別扱い”ではない。
“例外”でもない。
ただの、
基準。
---
夜。
フェリスは、執務室で一人、灯りを見つめていた。
売られた時、
条件は、常に相手が出した。
拒否権は、なかった。
だが今は――
(条件を、出している)
それは、復讐ではない。
ざまぁでもない。
取り戻しただけだ。
---
机の上に、皇帝からの短い私信があった。
> 出したな。
良い条件だ。
逃げ道を、
きちんと残している。
フェリスは、小さく息を吐いた。
(……見抜かれてる)
逃げ道を残す。
それは、相手のためであり、
自分のためでもある。
---
窓の外、夜が深まっていく。
フェリス・リンクスは、この夜、静かに確信していた。
これは、勝利宣言ではない。
終結でもない。
決着の形を、こちらが定義した――
それだけの話だ。
そして、次に来るのは、
相手がその条件を
飲むか、飲めないか。
その答えが出る場所こそが――
すべての“ざまぁ”が、
静かに完成する舞台になるのだと。
その書簡は、朝一番に届いた。
封蝋は、帝国中枢府の正式なもの。
差出人も、名を伏せていない。
フェリス・リンクスは、封を切る前に、ほんの一瞬だけ手を止めた。
(……公式、ね)
裏口ではない。
試しでもない。
盤面に置かれた一手だ。
---
文面は、簡潔だった。
> フェリス・リンクス領主
貴領と中央系商会との取引関係について、
改めて協議の場を設けたい。
条件は、貴領より提示されたい。
読み終え、フェリスは書簡を机に置く。
部屋にいた幹部たちが、息を詰めて見守っている。
「……来ましたね」
財務官が、低く言う。
「ええ」
フェリスは、頷いた。
「想定より、少し早いですが」
---
「条件を、こちらから?」
書記官が、確認する。
「はい」
フェリスは、迷いなく答えた。
「向こうが出さなかった条件を、
こちらが定義する」
それは、主導権を意味する。
---
「ですが……」
別の官吏が、慎重に口を開く。
「強く出すぎれば、
再び切られる可能性も」
フェリスは、静かに首を横に振った。
「もう、一方的には切れません」
視線を上げ、全員を見る。
「切った結果が、
どうなったかを、
彼ら自身が見たからです」
---
フェリスは、用意していた書類を広げる。
そこに並ぶ条件は、意外なほど穏やかだった。
・長期契約(最低五年)
・価格の急変動を禁止
・下請け・輸送団の契約自由
・契約破棄時の事前通告義務
「……これだけ?」
誰かが、思わず呟く。
「十分です」
フェリスは、淡々と言った。
「欲張らないことが、
一番の圧になります」
相手は、
短期で縛り、
短期で切る。
こちらは、
長期で縛り、
切る理由を失わせる。
---
「拒否される可能性は?」
「あります」
フェリスは、即答した。
「ですが、その場合」
一拍。
「彼らは、
“もう切れないのに、結べない”
立場になります」
沈黙。
その意味を、皆が理解する。
---
午後。
返書は、簡潔にまとめられた。
> 協議に応じます。
条件は、同封の通り。
本条件は、
当領がすでに実施している基準を、
そのまま適用するものです。
“特別扱い”ではない。
“例外”でもない。
ただの、
基準。
---
夜。
フェリスは、執務室で一人、灯りを見つめていた。
売られた時、
条件は、常に相手が出した。
拒否権は、なかった。
だが今は――
(条件を、出している)
それは、復讐ではない。
ざまぁでもない。
取り戻しただけだ。
---
机の上に、皇帝からの短い私信があった。
> 出したな。
良い条件だ。
逃げ道を、
きちんと残している。
フェリスは、小さく息を吐いた。
(……見抜かれてる)
逃げ道を残す。
それは、相手のためであり、
自分のためでもある。
---
窓の外、夜が深まっていく。
フェリス・リンクスは、この夜、静かに確信していた。
これは、勝利宣言ではない。
終結でもない。
決着の形を、こちらが定義した――
それだけの話だ。
そして、次に来るのは、
相手がその条件を
飲むか、飲めないか。
その答えが出る場所こそが――
すべての“ざまぁ”が、
静かに完成する舞台になるのだと。
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