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第6話 王宮からの招待状(という名の命令)
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第6話 王宮からの招待状(という名の命令)
それは、昼下がりのことだった。
「奥様、王宮より書状が届いております」
メイド長が差し出した封筒には、見慣れた王家の紋章。
蝋印はやけに分厚く、威圧感だけは一人前だ。
私は受け取り、静かに開いた。
「……あら」
内容は、案の定だった。
――
王太子主催の舞踏会に、
セレナ・リュミエールを正式に招待する。
出席は義務とする。
――
“招待”という単語の皮をかぶった、命令。
そして差出人は――王太子レオンハルト。
(相変わらず、書き方が雑ですわね)
「奥様……」 メイド長が不安そうに私を見る。
「大丈夫ですわ。読解力が試されるだけですから」
私は封筒を閉じ、机に置いた。
「出席は……」 「しません」
即答だった。
数秒後。
「――それは、無理だろう」
低い声がして、クロード公爵が入室してきた。
「王太子は、“義務”と書いている」 「ええ。法的拘束力ゼロの“お気持ち表明”ですわ」
彼は、ほんの一瞬だけ口角を動かした。
「……確かに」 「ですが、無視すれば、次は“外交問題”にしてくるでしょうね」
クロードは腕を組んだ。
「行くか」 「ええ。――ただし、条件付きで」
私は、視線を上げた。
「“セレナ・リュミエール”としてではなく」 「……?」 「アイゼン公爵夫人として、です」
室内の空気が、少し変わった。
「公爵夫人として出れば、王宮側は手を出せない」 「それが狙いですわ」
クロードは、少し考え込む。
「……舞踏会は、見世物だ」 「承知しています。だからこそ、こちらも見せますの」
彼は、静かに頷いた。
「全面的に支援しよう」 「心強いですわ」
その夜。
使用人たちは、少しだけ慌ただしかった。
だが、以前の“追い詰められた忙しさ”とは違う。
「奥様、このドレスはいかがでしょう」 「素敵ですわ。でも――」
私は、別の一着を指した。
「こちらにします」
それは、派手ではないが、気品のある深い色。
“元婚約者を見返すため”ではない。
“今の私”を示すための一着。
準備の合間、私はふと思った。
(……以前なら、胃が痛くなっていたでしょうね)
王宮。
あの場所は、私を“役割”に縛った。
だが今は違う。
私は、帰属先を選んだ。
出発前、クロードが言った。
「嫌なら、途中で帰る」 「ありがとうございます。でも――」
私は微笑んだ。
「今回は、“ざまぁ”の下見ですから」
彼は、苦笑した。
「君は、本当に……」 「ええ、承知しています」
馬車は、王都へ向けて走り出した。
その頃、王宮。
「……来るそうです」
報告を受け、レオンハルトは口元を歪めた。
「そうか。なら、思い出させてやろう」
彼は、満足そうに言った。
「“誰のおかげで”今まで生きてこられたのかをな」
――勘違いも、ここまで来ると芸術だ。
私は、揺れる馬車の中で、静かに目を閉じた。
(王宮の皆様)
(“可愛げ”のない女が、戻りますわ)
ただし。
(もう、あなた方のものではありませんけれど)
---
それは、昼下がりのことだった。
「奥様、王宮より書状が届いております」
メイド長が差し出した封筒には、見慣れた王家の紋章。
蝋印はやけに分厚く、威圧感だけは一人前だ。
私は受け取り、静かに開いた。
「……あら」
内容は、案の定だった。
――
王太子主催の舞踏会に、
セレナ・リュミエールを正式に招待する。
出席は義務とする。
――
“招待”という単語の皮をかぶった、命令。
そして差出人は――王太子レオンハルト。
(相変わらず、書き方が雑ですわね)
「奥様……」 メイド長が不安そうに私を見る。
「大丈夫ですわ。読解力が試されるだけですから」
私は封筒を閉じ、机に置いた。
「出席は……」 「しません」
即答だった。
数秒後。
「――それは、無理だろう」
低い声がして、クロード公爵が入室してきた。
「王太子は、“義務”と書いている」 「ええ。法的拘束力ゼロの“お気持ち表明”ですわ」
彼は、ほんの一瞬だけ口角を動かした。
「……確かに」 「ですが、無視すれば、次は“外交問題”にしてくるでしょうね」
クロードは腕を組んだ。
「行くか」 「ええ。――ただし、条件付きで」
私は、視線を上げた。
「“セレナ・リュミエール”としてではなく」 「……?」 「アイゼン公爵夫人として、です」
室内の空気が、少し変わった。
「公爵夫人として出れば、王宮側は手を出せない」 「それが狙いですわ」
クロードは、少し考え込む。
「……舞踏会は、見世物だ」 「承知しています。だからこそ、こちらも見せますの」
彼は、静かに頷いた。
「全面的に支援しよう」 「心強いですわ」
その夜。
使用人たちは、少しだけ慌ただしかった。
だが、以前の“追い詰められた忙しさ”とは違う。
「奥様、このドレスはいかがでしょう」 「素敵ですわ。でも――」
私は、別の一着を指した。
「こちらにします」
それは、派手ではないが、気品のある深い色。
“元婚約者を見返すため”ではない。
“今の私”を示すための一着。
準備の合間、私はふと思った。
(……以前なら、胃が痛くなっていたでしょうね)
王宮。
あの場所は、私を“役割”に縛った。
だが今は違う。
私は、帰属先を選んだ。
出発前、クロードが言った。
「嫌なら、途中で帰る」 「ありがとうございます。でも――」
私は微笑んだ。
「今回は、“ざまぁ”の下見ですから」
彼は、苦笑した。
「君は、本当に……」 「ええ、承知しています」
馬車は、王都へ向けて走り出した。
その頃、王宮。
「……来るそうです」
報告を受け、レオンハルトは口元を歪めた。
「そうか。なら、思い出させてやろう」
彼は、満足そうに言った。
「“誰のおかげで”今まで生きてこられたのかをな」
――勘違いも、ここまで来ると芸術だ。
私は、揺れる馬車の中で、静かに目を閉じた。
(王宮の皆様)
(“可愛げ”のない女が、戻りますわ)
ただし。
(もう、あなた方のものではありませんけれど)
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