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第10話 可愛げの正体、公開される
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第10話 可愛げの正体、公開される
王宮の大評議室は、異様な緊張に包まれていた。
重臣、監査官、各部署の責任者。
そして、中央に立つのは――王太子レオンハルト。
机の上には、分厚い報告書。
表紙には、はっきりと記されている。
《王宮業務監査報告》
「……読み上げます」
監査官の声は、淡々としていた。
「王宮運営において、長年“円滑に回っていた”と評価されていた業務の大半は、
元婚約者セレナ・リュミエールが実務を担当していたことが確認されました」
ざわめきが起こる。
「王太子殿下は、最終決裁者ではありましたが、
個別案件の内容把握は不十分であり――」
言葉が、丁寧に選ばれている。
だが、意味は残酷だった。
「――判断能力は、補佐に大きく依存していたと結論づけます」
沈黙。
重臣の一人が、口を開いた。
「……では、“可愛げがない”という理由での婚約破棄は」 「不適切です」
監査官は、即答した。
「評価基準として、何ら合理性がありません」
会場が、どよめいた。
誰かが、小さく呟く。
「……じゃあ、あの言葉は……」 「責任転嫁だな」
王太子の顔から、血の気が引いていく。
「……違う」 「違いません」
今度は、宰相が言った。
「殿下は、能力を評価できなかった。
それを“可愛げ”という曖昧な言葉で覆っただけです」
“可愛げ”。
それは、判断を放棄するための、便利な言葉。
「正式に記録します」
監査官が、続ける。
「婚約破棄理由は、
王太子の職務理解不足および判断能力欠如に起因するものと」
はっきりと。
公式文書に。
――終わった。
***
その頃、アイゼン公爵領。
私は、庭園でティーカップを手にしていた。
「……正式に、否定された」
クロードが、報告書の写しを置く。
「ええ。やっとですわね」
胸は、不思議なほど静かだった。
「悔しくは?」 「いいえ」
私は、空を見上げた。
「私は、もう“評価される側”ではありませんから」
クロードは、少し考えてから言った。
「……君は、怒っていい」 「怒りは、前に進むときの足枷になります」
そして、微笑む。
「ざまぁは、十分に味わいましたわ」
その夜。
王都では、噂が確信に変わっていた。
「“可愛げがない”って……」 「要するに、仕事を全部押し付けてたってことでしょ?」 「最低だわ」
レオンハルトは、私室に閉じこもっていた。
机の上には、かつて私が整えた書類。
今は、誰も整えてくれない。
彼は、ようやく理解した。
“可愛げ”とは、
自分が何もしなくて済む状態のことだったのだと。
***
アイゼン公爵邸。
私は、クロードと向かい合っていた。
「これで、第1章は終わりですわね」 「……章?」 「人生の区切り、という意味です」
彼は、ほんの少しだけ笑った。
「次は?」 「次は……」
私は、カップを置いた。
「白い結婚の続きを、どうするかですわ」
クロードの視線が、揺れた。
――ここからは、
ざまぁの後の、恋の章。
(本番は、これからですわ)
王宮の大評議室は、異様な緊張に包まれていた。
重臣、監査官、各部署の責任者。
そして、中央に立つのは――王太子レオンハルト。
机の上には、分厚い報告書。
表紙には、はっきりと記されている。
《王宮業務監査報告》
「……読み上げます」
監査官の声は、淡々としていた。
「王宮運営において、長年“円滑に回っていた”と評価されていた業務の大半は、
元婚約者セレナ・リュミエールが実務を担当していたことが確認されました」
ざわめきが起こる。
「王太子殿下は、最終決裁者ではありましたが、
個別案件の内容把握は不十分であり――」
言葉が、丁寧に選ばれている。
だが、意味は残酷だった。
「――判断能力は、補佐に大きく依存していたと結論づけます」
沈黙。
重臣の一人が、口を開いた。
「……では、“可愛げがない”という理由での婚約破棄は」 「不適切です」
監査官は、即答した。
「評価基準として、何ら合理性がありません」
会場が、どよめいた。
誰かが、小さく呟く。
「……じゃあ、あの言葉は……」 「責任転嫁だな」
王太子の顔から、血の気が引いていく。
「……違う」 「違いません」
今度は、宰相が言った。
「殿下は、能力を評価できなかった。
それを“可愛げ”という曖昧な言葉で覆っただけです」
“可愛げ”。
それは、判断を放棄するための、便利な言葉。
「正式に記録します」
監査官が、続ける。
「婚約破棄理由は、
王太子の職務理解不足および判断能力欠如に起因するものと」
はっきりと。
公式文書に。
――終わった。
***
その頃、アイゼン公爵領。
私は、庭園でティーカップを手にしていた。
「……正式に、否定された」
クロードが、報告書の写しを置く。
「ええ。やっとですわね」
胸は、不思議なほど静かだった。
「悔しくは?」 「いいえ」
私は、空を見上げた。
「私は、もう“評価される側”ではありませんから」
クロードは、少し考えてから言った。
「……君は、怒っていい」 「怒りは、前に進むときの足枷になります」
そして、微笑む。
「ざまぁは、十分に味わいましたわ」
その夜。
王都では、噂が確信に変わっていた。
「“可愛げがない”って……」 「要するに、仕事を全部押し付けてたってことでしょ?」 「最低だわ」
レオンハルトは、私室に閉じこもっていた。
机の上には、かつて私が整えた書類。
今は、誰も整えてくれない。
彼は、ようやく理解した。
“可愛げ”とは、
自分が何もしなくて済む状態のことだったのだと。
***
アイゼン公爵邸。
私は、クロードと向かい合っていた。
「これで、第1章は終わりですわね」 「……章?」 「人生の区切り、という意味です」
彼は、ほんの少しだけ笑った。
「次は?」 「次は……」
私は、カップを置いた。
「白い結婚の続きを、どうするかですわ」
クロードの視線が、揺れた。
――ここからは、
ざまぁの後の、恋の章。
(本番は、これからですわ)
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